2013 Fiscal Year Annual Research Report
多領域フィールドワークにもとづくメンタルヘルスの知と実践の浸透に関する理論構築
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24330150
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Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
荻野 達史 静岡大学, 人文社会科学部, 教授 (00313916)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
工藤 宏司 大阪府立大学, 人間社会学部, 准教授 (20295736)
高山 龍太郎 富山大学, 経済学部, 准教授 (00313586)
川北 稔 愛知教育大学, 教育実践研究科, 准教授 (30397492)
中村 好孝 滋賀県立大学, 人間文化学部, 助教 (20458730)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | メンタルヘルス / 精神医療化 / 心理学化 / 心-科学 / 専門家 / 半専門家 / フィールドワーク / 質的研究 |
Research Abstract |
各自が担当領域の調査研究を進める傍らで、隣接領域に関わる研究者との交流研究会(6月)、そして精神科医を交えた地域向けシンポジウム(9月)も行った。前者については、摂食障害の自助グループを自ら立ち上げ、社会学者としてのエスノグラフィーを刊行し、最近では精神科医との共著もある野村佳絵子氏に研究会で報告いただいた。回復に繋がる自助グループの取り組みには蓄積があり、また社会学的研究も一定数現れてきていつつも、医療者による治療が優勢である状況下では、当事者・元当事者による取り組みや発言も医療的研究対象としてフレーミングされる傾向も強く、ここに緊張関係が存在することが明らかにされた。 後者については、研究グループの一人(荻野)が年度当初に刊行した、ひきこもり支援にかかわる著作をもとに、記述対象となった支援団体と共催で、地域社会におけるひきこもり支援について、厚労省の施策の中心にいた精神科医・伊藤順一郎氏を交え、シンポジウムを企画・開催した。伊藤氏は社会学者によるエスノグラフィーが「リカバリー」の思考からも読解できることを報告した。その後の討論でも、社会学・精神医学が言語を共有しつつ双方の理論・知見を生かしていけることが確認された。 研究メンバーの各領域における研究報告を通して領域横断的に確認されたのは、医療あるいは広くメンタルヘルス専門領域の知と臨床実践が内部的に有する歴史の複雑性と、それらが現在的に置かれた社会的文脈の複雑性である。過去における医療関係者内での様々な相克や「先進的」取り組みの結果が、現在的には典型的な精神医療の拡張・浸透と見なされやすいこと(精神科クリニックや外部EAP)、あるいは現場における非医療専門家たちの論争や制度設計をめぐる社会的諸圧力が、医療・心理学へのまなざしを規定している面を十分に検討する必要があること(教育関連領域や生活保護)が改めて確認された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
各対象領域にはフィールドワークを遂行する上で様々な困難もあり、当初想定していたような形で調査を進められないことも生じた。しかし、様々な質的研究方法を取り入れ、アプローチの仕方も柔軟に検討していくことで、別様な展開を図り、当初の予定に遜色のないデータ収集が可能となっている。
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Strategy for Future Research Activity |
H26 年度は最終年度であり、これまでの諸領域における知見を綜合し、理論構築を行うことが主要な目標となる。概ね8月までに各領域でのフィールドワークを終えるものとし、9月以降は、関連研究と照らし合わせながら、各担当領域で収集されたデータをもとに概念化作業を行い、概念相互の関係図を各自で作成することが10月までの課題とされる。ただし、この間も研究会およびメーリングリストでの進捗状況の報告と情報・意見交換を頻繁に行い、各自の水準での理論構築作業を加速化させると共に、最終的な知見の集約作業に入る以前に、概念や概念間の関係について共有されうる部分を明確にしていく。 11月以降、諸概念・概念間関係について再度集約し、領域横断性をもつ理論構築を進める。ただし、この全体の水準での作業も、幾つかの部分に分け、分業体制を構築して行う予定である。具体的には、現時点では、①精神医療内部での議論に関連する部分、②精神科医と心理臨床家あるいはコメディカルとの関係に関わる部分、③各種現場・領域における主要な専門家(半専門家)によるメンタルヘルスの知の運用方法や臨床活動への関与の仕方に関わる部分、④専門家・半専門家を取り巻くより広範な社会的文脈に関わる部分、⑤先行研究との差異について明確に検討する部分に5つに分節し、5人のメンバーで分担する予定である。2月末までには、各部分での議論を照合しながら報告書原稿を作成し、3月には報告書を完成させ、次年度以降の出版に繋げていく所存である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
まず、前年度未使用分のうち50万円程度は以下の理由による。①20万程度は、分担者(川北)が発注した文書資料の納品が購入先書店の都合により予定より大幅に遅れたため、支払いがH25年度に持ち越されたことによる。②30万程度は、分担者(中村)の家族が重病を患い継続的な介護が必要となったためである。 とくに②部分での前年度残額が大きかったため、中村においてはH25年度には加速的に調査研究を進めたが、数万の残額が生じた。その他は、3名に少額の残額が生じたが、次年度以降の調査研究で使用することが有効な使用法と判断した。結果、総額として4万6千円程度の次年度使用額が生じた。 研究計画に準じて、調査・研究会合のための旅費、文献資料購入に充てられる。
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Research Products
(16 results)