2013 Fiscal Year Annual Research Report
戦前期における社会事業の展開-自由と全体性の変遷をめぐって-
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24330182
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Research Institution | Notre Dame Seishin University |
Principal Investigator |
杉山 博昭 ノートルダム清心女子大学, 人間生活学部, 教授 (20270035)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 救貧制度 / キリスト教 / 少年教護院 / 方面委員 / 地方救済 / セツルメント |
Research Abstract |
研究代表者・連携研究者によって精力的に史料収集を行い、全国の少年教護院関係の史料、鳥取県における地方救済の史料、大阪府市の救済制度の史料、山口県の方面委員関係の史料、キリスト教の専門誌の社会事業関係記事やセツルメント関係の史料などを収集した。収集した史料を各自で分析整理しするとともに、本研究との関連での史料の意味づけを行い、現時点での理論的整理を行った。研究会を5月19日、7月21日、9月29日、11月17日、1月26日に行い、2月25日-27日に研究合宿を行い、全員が史料収集とそれに基づく研究状況の報告を行った。 また、1月26日には高岡裕之関西学院大学教授、2月26日に石井洗二四国学院大学教授を招き、研究成果への外部からの助言を得た。高岡教授からは、戦前から戦時への福祉・医療の変遷を歴史学の立場から分析した場合の課題について、石井教授からは、沖縄という辺境に視点を置くことで、日本の社会事業の特質が把握できることの示唆を与えられた。 それによって、政府による統一した施策で動いているというより、各施設、各地域でのかなりの独自性をもって慈善事業から社会事業へと変遷していることが確認できた。したがって、政策と社会状況との相互作用によって社会事業が変遷しているのではなく、個々の施設や府県・市町村の独自の意思も社会事業に大きく影響したと考えられる。公的救済や方面委員のような政策主導の事業でさえ、決して全国均一ではない。しかし、戦時厚生事業期には、そうした独自性はほとんど感じられない。独自性の喪失は突然そうなったというより、社会事業の発展のプロセスで、変容したきたと考えるべきである。当初の仮説としてきた、慈善事業にみられた自由な立場が、全体性へと統合されてしまうプロセスに社会事業史の特質が見出せるのではないかとの見通しが、相当程度裏付けられている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成25年度までの計画として、関係史料の収集を行い、史料分析をすることと、史料に基づいて、研究課題である、社会事業における自由と全体性の問題についての理論枠組へ向けての各連携研究者による作業を行うこととしていた。史料に関しては、鳥取県における地方救済関係の行政史料、大阪府・市における議会史料、石川県における地方社会事業史料、東京におけるキリスト教セツルメント関係の史料、各地の少年教護院関係史料、山口県における方面委員史料、婦人方面委員に関連する史料、東北における農村救済の史料など、広範な史料の収集を行った。これら史料の多くは、従来の社会事業史で重要視されがちであった、内務省や地方社会事業協会の刊行物と比べても、より一次史料としての性格が強いものであり、社会事業の実態を現実に即して表現しているものである。こうした史料の把握は、当初の予測にそったものであって、順調に進展しているといえる。 史料の収集・分析についても各連携研究者のおいて進めて、研究会を開催して共通化し、研究代表者が以後の方針について指示している。研究会及び研究合宿は、予定通り、研究会を隔月、研究合宿を年1回開催し、連携研究者全員による報告を行っている。この結果、研究遂行状況について全員が把握し、他の研究者の研究成果を導入しつつ、個々の研究を深化させつつある。仮説で示したように、慈善事業においては決して中央集権による画一的な対応がなされたわけではなく、府県ごとの相違はもちろん、町村においても相当な違いがあり、そこに上からの指示ではない、独自の判断があることが推認できた。一方、戦時厚生事業へ向けての動きのなかで、全体性の圧力がかかっていることが示され、それはことに当時の法制度である少年教護法、児童虐待防止法等の制度や方面委員制度に感じられることである。こうした側面について、実証的に把握した。
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Strategy for Future Research Activity |
史料収集については、おおむね平成25年度までに進めているが、今後分析を進めるなかで、不足が明らかになる場合があると思われる。したがって、史料収集の補充をしていく必要がある。最終年度を迎えるので、最終的な研究の総合化と論文によって明確にして報告していくことが求められる。隔月の研究会を開催して、連携研究者に報告を求めるとともに、9月頃に研究合宿を行い、この時点で、最終的な研究報告の枠組みを明確にして、研究代表者より、以降の研究方策の指示を行う。 研究課題として示している、自由の面については相当程度実証が進んできていると思われるが、全体性の中に引き込まれていくプロセスについては、まだ理論的な整理をやりきれていない。特に、一般敵には高く評価されている、社会事業発展期における一連の立法、方面委員制度、セツルメントなどの民間活動について、その役割を認めつつも、そこに内在していた問題点を明らかにしていく必要がある。 そこで、方面委員制度、セツルメント、少年教護院などの実践については、史料の補充調査を継続しつつ、1920年代から30年代にかけての変容を追う。特に方面委員については方面委員令、セツルメントについては、ファッショ化がポイントになろう。一方、否定的に見られがちであった公的救済の動向において、国家的な視野だけでは把握できない多様性を論証していく。 こうした場合、個々の連携研究者が自由から全体性への変容を論証していくというより、役割分担が求められる。研究代表者は、個々の研究成果の意義と限界を掌握して、この研究全体のなかで、個々の研究がどう位置づくかという全体調整を行う。研究成果については、本年度内の学会や対外的な研究会での報告を随時行うとともに、年度末に研究報告書を作成して、研究成果を社会的に公表し、社会還元を行うこととしている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
年度末に行った合宿研究会において、連携研究者に急病・急用による欠席があったため、この分が余った。年度末であったため、他の用途に流用することができず、次年度において計画的に使用するほうが有効であると判断した。 平成26年度は最終年度として、史料収集の補充調査、報告書の刊行などを予定しており、それらに充当する。
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Research Products
(8 results)