2012 Fiscal Year Annual Research Report
キメラ受容体を用いたヒトiPS細胞の未分化維持・増殖と分化技術の開発
Project/Area Number |
24360337
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (B)
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
長棟 輝行 東京大学, 大学院・工学系研究科, 教授 (20124373)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | iPS細胞 / キメラ受容体 / シグナル伝達 / 未分化維持技術 / 増殖・分化技術 |
Research Abstract |
再生医療の実現には、目的の細胞に分化した細胞を効率的かつ安価に大量調製する技術が求められるが、細胞の分化誘導因子として用いられるサイトカインには高価なものが多い。そこで本研究では、サイトカイン受容体の細胞外ドメインを一本鎖抗体(scFv)に置換したキメラ受容体を構築して細胞膜上に発現させ、高価なサイトカインとは全く異なる安価な抗原の添加によって、遺伝子導入細胞の分化を誘導するシステムの構築を目指した。 本年度はまずは細胞株を用いてこの概念の実証を行った。ヒト肝がん細胞株HepG2は、インスリン刺激によりグルコース取り込み能が上昇する。またマウス脂肪前駆細胞株3T3-L1は、インスリン刺激により脂肪分化が進行して脂肪滴を形成する。そこで、本研究では抗フルオレセインscFvをインスリン受容体細胞内ドメインと連結したキメラ受容体をHepG2、3T3-L1細胞で発現させ、インスリンシグナルを抗原であるフルオレセイン標識BSAによって代替できるかどうかを検証した。その結果、抗原非依存的ではあったものの、キメラ受容体導入HepG2ではグルコース取り込み能の有意な促進、およびキメラ受容体導入3T3-L1では脂肪成分の蓄積が見られた。さらに、別の分化系として、マクロファージ様細胞株RAW264を用いた実験を行った。RAW264はRANKL(NF-κB活性化受容体リガンド)の刺激により破骨細胞へと分化する。そこでRANKLの受容体であるRANKの細胞内ドメインを用いたキメラ受容体を作製し、RAW264で発現させて、抗原の添加により破骨細胞への分化誘導を行えるかどうか検証した。その結果、キメラ受容体導入RAW264では、抗原なしの場合でも破骨細胞の形成は見られたものの、抗原刺激により破骨細胞に分化する細胞数が有意に増加した。また、このときの分化効率はRANKLの刺激とほぼ同等であった。以上より、本手法により分化シグナルを代替できることが示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、本研究の中核となる「細胞分化誘導」に関して、それを達成するための基盤となるキメラ受容体を構築し、数種類の細胞株に導入して機能解析を行った。その結果、天然のサイトカインシグナルを肝がん細胞株、脂肪前駆細胞株、マクロファージ様細胞株で代替し、それぞれグルコース取り込み、脂肪細胞分化、破骨細胞分化の誘導を達成できた。以上より、本年度は研究目的の達成に向けておおむね順調に進展した。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度はキメラ受容体を用いた分化誘導を実証することができた。来年度は、再生医療用細胞調製のボトルネックとなっている「前駆細胞の増殖および分化の経時的な制御」に挑戦し、本手法の有用性をさらに実証していきたい。またES/ips細胞にキメラ受容体を導入し、増殖・分化の制御ができるかを検証していきたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
今年度助成額と支出額を同一にするための微調整を特にしなかったため次年度に繰り越すことになったが、この分については次年度において、研究推進のための消耗品の購入に充てることとする。
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