Research Abstract |
本研究では、口腔扁平上皮癌の癌幹細胞を分離・同定し、さらにその自己複製能と分化能を制御しているニッチ(niche)機構を明らかにする。さらに、そのニッチ機能維持に必要なサイトカインネットワーク分子・シグナル群の同定を通して、その細胞・分子生物学的特徴を明らかにし,癌化のメカニズムの解明とともに癌幹細胞を標的とした新しい癌の診断・治療法の確立を目指す。 口腔扁平上皮癌幹細胞の分離・同定:我々が開発したヒトES細胞培養用無血清培地(hESF培地)にインスリン、トランスフェリン、2-メルカプトエタノール、2-アミノエタノール、セレン酸、オレイン酸の6因子(6F)を加えたhESF6F培地で口腔扁平上皮癌細胞(HO-1-u-1(UE), HO-1-n-1(NA), KA, KO, NI)の継代培養を行った後、CD133, CD44陽性細胞を磁気ビーズ法にて分離した。さらに、各細胞をHoechst33342色素で処理し、UVレーザー照射により励起される450nmと675nmの波長の蛍光発現の低いSP細胞群をセル・ソーターにて分取した。これら細胞群の無血浮遊培養系での各陽性細胞と陰性細胞間で増殖能sphere形成能、ヌードマウスでの造腫瘍性を検討した。さらに細胞増殖能およびsphere形成能に及ぼす種々の細胞増殖因子(FGF-1, FGF-2, EGF, TGFβ2, sonic hedgehog, wnt, activin A, IL-6, PDGF, BMP-4, LIF, GABA, BDNF, Nodal, IGF-1,)細胞外マトリックス蛋白(接着因子)(I型IV型コラーゲン,フィプロネクチン,ラミニン,ポリ-L,リジン)脂質(LDL,HDL,オレイン酸,リノール酸,リノレン酸)、アミノ酸(チロシン,イソロイシン)、ピルビン酸などの影響について検討した。 その結果、CD133細胞は全細胞中0.5%しか存在しないこと、さらに単層培養系ではCD133陽性細胞の増殖は陰性細胞と比較して低下していたが、浮遊培養系ではCD133陽性細胞もみがsphere形成能を持つことが明らかとなった。さらに、sphere形成能を持たないCD133陰性細胞に対してEGFあるいはsonic hedgehog(SHH)を加えることで、sphere形成能を獲得した。一方、CD44陽性細胞は全細胞中50%存在することが判明したため、口腔がん細胞においては、CD44陽性細胞は幹細胞としての性質は持たないことが考えられた。さらに、Sp細胞は抗がん剤に耐性を示し、低酸素培養下でその比率は増加した。また、Sp細胞および非Dp細胞のヌードマウスにおける造腫瘍性を検討した結果、Sp細胞のみが造腫瘍性を示した。異常、口腔がんさいぼうにおいては、CD133陽性細胞およびSp細胞が幹細胞としての特性を有していることを明らかにすることが出来た。このように、初年度において口腔扁平上皮癌幹細胞の特徴を細胞生物学的および分子生物学的に解析し、癌幹細胞群の特性を維持するニッチにおいて重要な働きをしているサイトカイン群を明らかに出来することが出来た。
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