2012 Fiscal Year Annual Research Report
スレイマニヤ博物館収蔵の楔形文書の産地同定とティグリス河流域の地質学的研究
Project/Area Number |
24401016
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (B)
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Section | 海外学術 |
Research Institution | Osaka Gakuin University |
Principal Investigator |
渡辺 千香子 大阪学院大学, 国際学部, 准教授 (40290233)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
内田 悦生 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (40185020)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 粘土板 / スレイマニヤ博物館 / 化学組成分析 / 蛍光X線分析 / 産地同定 / 国際研究者交流 / イラク |
Research Abstract |
本研究の目的である「メソポタミア粘土板文書の産地同定」ならびに「粘土板に使われた粘土の供給源の地質学的裏付け」について、主要な現地調査を2回行なった。1回目は、研究協力者のH.ウレビ氏をイラクへ派遣し、古代の粘土板が製作されたウンマの遺跡近くの河川の堆積土をサンプルとして採取し、採取した場所をGPS機能のついたカメラで撮影してもらった(9~10月)。これに先立ち、河泥採取調査の許可申請をイラク観光・考古大臣アマイシム氏とイラク考古総局長に行なうため、ライデン大学の会議の席でイラク人考古学者らに接触し、書類を託した。11月12日に調査許可が下り、河泥試料の分析を早稲田大学で行なった。 2回目の調査は、イラクのスレイマニヤ博物館における粘土板分析調査で、3月13~21日にわたって実施された。これに先立ち、ロンドンで共同研究者たちと綿密な打ち合わせを行なった(2月)。スレイマニヤは、外務省の指針で「渡航延期勧告」に分類される地域であるため、外務省領事局邦人テロ対策室イラク担当官ならびにイラク日本国大使館領事警備班と緊密な連絡を取り、また日本の関係者には「緊急時の管理体制」を配布して調査に臨んだ。実際に行ってみると、現地の治安は想像以上に安定し、また経済的にも非常に繁栄しており、クルド自治区が治安の不安定なイラク本土と確実に異なることが確認できた。 スレイマニヤ博物館では、ガルシャナ文書等の粘土板に対して携帯型蛍光X線分析装置および帯磁率計による測定、粘土板表面のマンガン酸化バクテリアによると思われる黒色物質の調査を行なった。地質学的調査として、タンジェロ河や下ザブ河の河岸から堆積土のサンプルを採取した。今年度の現地調査が実現したことにより、現地の研究者たちとの関係構築ができ、今後の調査の見通しが開けた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「渡航延期勧告」地域であるため、外務省からあくまでも渡航を延期するよう助言され、実際に現地に行けるかどうかわからなかった。また国公立機関に所属する研究者は、所属機関から出張許可が下りずに渡航を断念した。しかし欧米の研究者は近年頻繁にクルド自治区に調査に出かけており、その情報をもとに現地へ行ったところ、実際に計画通りの調査ができ、また将来の幅広い研究につながる関係が築けたことは大きな成果であった。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の計画通り、第2回目の現地調査を平成26年2月末~3月上旬に行なう。粘土板の科学分析について、蛍光X線分析に加え、同位体分析と珪藻分析の可能性を探るため、イラクへ渡航可能な専門家の派遣を検討する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
主に、平成26年2月末~3月上旬に予定する現地調査の旅費・現地人件費として使用する計画である。 当初、研究分担者が行う粘土板学組成分析の基礎データ構築のため、平成24年度中に大英博物館(ロンドン)において粘土板分析を行う予定であった。大英博物館への調査申請は平成23年度末に行い、平成24年度中の調査実施をめざして繰り返し許可を求めたが、大英博物館側の回答が遅れた結果、調査が年度内に実現しなかった。そのため、研究分担者の現地調査が実現せずに、残額が生じてしまった。翌年度の計画として、遅れた大英博物館の調査をスレイマニヤ博物館の調査と併せて行うこととする。
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