2013 Fiscal Year Annual Research Report
スレイマニヤ博物館収蔵の楔形文書の産地同定とティグリス河流域の地質学的研究
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24401016
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Section | 海外学術 |
Research Institution | Osaka Gakuin University |
Principal Investigator |
渡辺 千香子 大阪学院大学, 国際学部, 准教授 (40290233)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
内田 悦生 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (40185020)
片山 葉子 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (90165415)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 粘土板 / 化学組成分析 / 珪藻 / 産地同定 / 国際研究者交流 / 地質学調査 / イラク:イギリス / クルド自治区 |
Research Abstract |
本年度は、スレイマニヤ博物館との連携研究を本格的に深めるため、クルド人考古学者を日本へ招聘する計画を立て、外務省ならびに在イラク日本大使館の助言を仰ぎながら準備を進めた。近年、発掘ラッシュに沸くクルド自治区の考古調査を日本の研究者に紹介する機会として、国際シンポジウム「クルド自治区(イラク共和国)における近年の考古学的調査」を筑波大学と共同で企画・開催した(10月24・26日)。招聘者は、スレイマニヤ考古局長ラシード、スレイマニヤ博物館長アブドゥラ、同博物館学芸員ヌーリ、ならびに研究協力者アルタウィール(ロンドン大学UCL)から成り、東京と京都の2会場で開催した。この会議は、日本の考古学者がクルド自治区における発掘の可能性に注目し、翌年度からクルド自治区で行なう考古調査に向けた活動を開始する契機となった点で意義深い。 平成24年度に行なった第1回スレイマニヤ調査の成果を公表するため、アテネ大学で開催された国際学会(Archaeological Research in the Kurdistan Region of Iraq and the Adjacent Areas:11月1~3日)の席上、学会発表を行なった。スレイマニヤ博物館共同研究に関する発表(研究代表者:小泉龍人による代読)、ならびに連携研究者(小泉)によるティグリス河上流遺跡の考古調査について報告を行なった。 2月には第2回目となる現地調査をスレイマニヤで行なった。スレイマニヤ博物館収蔵の粘土板の分析、ならびにマワト、ペンジュウィン、ジャルモにおいて珪藻・地質学的調査を行ない、多くの試料を採取した。なお本研究の正式な調査許可として、スレイマニヤ考古局長、研究代表者、ならびにアルタウィールの「三者間合意」を締結した。これにより、今後、博物館収蔵品・現生珪藻・堆積物等の分析結果を公表していくための環境が整えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度に続き、本年度も現地調査(第2回)を実行し、貴重なデータやサンプルを採取することができた。シリアの急激な治安悪化からイラク・クルド自治区への影響を懸念したが、外務省の「渡航延期勧告」地域に該当するにも関わらず、現地はおおむね安定した状態だった。また国際シンポジウムの開催、ならびにスレイマニヤ調査打ち合わせ会議のため、クルド人考古学者の日本への招聘が実現したことにより、相互の信頼関係が深まり、今後の研究協力体制を強固なものにすることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の予定として、第3回目のスレイマニヤ調査を平成27年2月中旬に行なう計画を立てている。粘土板の化学分析ならびに地質学・現生珪藻・考古学の調査を行なうために、各分野の専門家による調査隊を組織し、クルド自治区のビザ申請など必要な手続きを進める。また今回の調査で採取した多くの試料について、分析の具体的な内容(方法・手順・分析機関・費用など)を早急に検討したい。 なお今後の課題として、スレイマニヤ博物館収蔵の粘土板コレクションの大部分が出土地不明であるため、胎土の特徴を照合するためには、イラク全土の堆積土の化学組成に関する基礎データの構築が必要だと考えられる。そのために、イラク人地質学者の協力を要請し、まだ治安状態の悪いイラク中・南部を中心に現地でボーリングを行ない、その化学分析を行なう計画を立てている。分析方法の課題として、これまで行なってきた非破壊分析では細かい地域差が出にくいことがわかり、今後は微量元素を射程に入れる等、新たな分析方法をさぐる必要に迫られている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
スレイマニヤ調査に参加する予定であった研究分担者(早稲田大学:内田悦生)が、都合により出張をキャンセルしたため、残額が生じた。また細菌・DNA分析を担当する研究分担者(東京農工大学:片山葉子)は、前年にスレイマニヤ博物館で採取した粘土板試料の分析を行なう予定であったが、サンプルの状態が分析に適さないと判断されたため、分析の規模を縮小し、残額が生じた。 早稲田大学における残額分は、これまでの研究成果公表のための費用として使い、また東京農工大学の残額分は新たにスレイマニヤで採取したサンプルの分析費用として使う予定である。
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