2013 Fiscal Year Annual Research Report
古代・中世地中海世界における宗教空間と社会変動-トロス遺跡聖堂遺構の発掘調査
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24401030
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Section | 海外学術 |
Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
浦野 聡 立教大学, 文学部, 教授 (60211778)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
深津 行徳 立教大学, 文学部, 教授 (70208916)
小笠原 弘幸 公益財団法人政治経済研究所, 政治経済研究所, 研究員 (40542626)
中谷 功治 関西学院大学, 文学部, 教授 (30217749)
草生 久嗣 大阪市立大学, 文学研究科, 講師 (10614472)
益田 朋幸 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (70257236)
師尾 晶子 千葉商科大学, 商経学部, 教授 (10296329)
太記 祐一 福岡大学, 工学部, 教授 (10320277)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | ビザンツ / 貨幣 / 封緘 / 墓 / モザイク舗床 / 司教座 / 聖域 / 聖堂 |
Research Abstract |
7月から8月にかけて発掘を行い、南側廊部東3分の1と南翼廊部に堆積した表土・瓦礫を、昨年度同様、聖堂床面から10~20㎝の上のレベルまで除去した。このレベルの上からは昨年同様、有意の生活痕は認められなかった。この区域は、都合6枚の仕切り壁(PW4-9)により、4つの部屋(Room4-7)に分かれていたことが確認された。 第6室の床面から1mのレヴェルで鉛製の封緘を、また、第7室床面レヴェルで金貨を、それぞれ発見した。それらに記された銘文から、前者は11世紀前半以降、後者は10世紀末~11世紀初頭のものであったことが判明した。封緘は、その出土層位から、文書ではなく、聖堂再建の試みの中で運び込まれた建築機材・資材に付されていたものと推測される。金貨については、ちょうどそのそばに未加工の大きな円柱胴部とコリント式柱頭が、聖堂の東側の壁を突き破って搬入された形のまま瓦礫に埋まっていたことと考え合わせると、金貨の示す年代の後に聖堂再建の試みがなされていたものが、自然災害等により中断されてしまったことを示唆する。封緘された建築機材は、その後の再々建の目的で運び込まれたものであろうが、昨年発掘した身廊部のイコノスタシスの列柱の西側にナルテックス等の聖堂の機能にとって必要な施設が確認できないことから、何らかの理由でその試みは挫折したと考えられる。 第6室からは、長い期間、都合最低2回にわたって追葬されてきた墓が見付かった。最上層の遺骸は、一度暴かれた痕跡が見られたが、中間層の、おそらく墓所の構造体を築いた際の母子の遺骸は副葬品とともに手つかずであった。最下層(床面レヴェルの下)には男性の遺骸が確認されたが、構造体を破壊しないため未発掘のままとした。母子の遺骸の直下からは5-7世紀の銅貨が見付かった。 身廊と北翼廊において床面を発掘した。翼廊部には5-6世紀の創建時のモザイクが発見された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
10世紀後半~11世紀以降と考えられる聖堂再建と再々建の試みを出土物とその出土層位の検討から、明らかにしえた。これらは、南隣の都市クサントスにおける聖堂再建の試みと同時期、ないし、やや遅れてのものと考えられ、960年のクレタ島回復後の、ビザンツ皇帝政府によるリキア地方における復興事業が、かなりシステマティックなものであったことを予想させる。こうした歴史的なコンテクストの中に、文字資料のほとんど残っていないリキア地方の都市トロスで明らかにできたのは、大変な前進であると評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
14年度は身廊部から北翼廊にかけての接続部で床面の発掘を行ったが、翼廊部が創建当時のモザイク床面をかなりよく残しているのに対し、身廊部では打って変わって、本来の石張りの床面はかなり甚だしく破壊されており、粗雑な修復の痕跡を残していた。これは、身廊部にイコノスタシスを設置し、聖堂を小規模に再建使用とする試みが、半ばで放棄されたということを示しているように思われる。2015年度には身廊部の床面をさらに大規模に発掘する予定だが、それにより再建と再々建の試みが、どのような段階を踏んでいたのかということを、さらに詳細に明らかにできるものと期待される。ビザンツ後期に関わる教会建築の発掘は数少ないので、さしあたりはビザンツ期の聖堂に関心の焦点を当てたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
円安に為替動向が進んでいるため、また、トルコ経済好調でインフレが進んでいるため、次年度の経費がかさむことを見越して翌年度使用のため、今年度は節約に努めた。 海外旅費・滞在費、委託費に使用する。
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Research Products
(7 results)