2015 Fiscal Year Annual Research Report
古代・中世地中海世界における宗教空間と社会変動-トロス遺跡聖堂遺構の発掘調査
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24401030
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Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
浦野 聡 立教大学, 文学部, 教授 (60211778)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
師尾 晶子 千葉商科大学, 商経学部, 教授 (10296329)
太記 祐一 福岡大学, 工学部, 教授 (10320277)
草生 久嗣 大阪市立大学, 文学研究科, 講師 (10614472)
中谷 功治 関西学院大学, 文学部, 教授 (30217749)
小笠原 弘幸 九州大学, 人文科学研究科(研究院), 准教授 (40542626)
深津 行徳 立教大学, 文学部, 教授 (70208916)
益田 朋幸 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (70257236)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 聖堂 / ビザンツ / 教会 / リキア / 主教座 / 建築 / モザイク |
Outline of Annual Research Achievements |
北翼廊の床面を開き、第1室、北1号墓から北4号墓までの4基の墓の存在を確認し、床面モザイクの状況を確かめた。引き続き、保存作業を行った。得られた知見の要点は以下のとおり。 1, 北1、3、4号墓は、北翼廊を3つに分かつ仕切り壁のうち、仕切り壁1と3と構造的に一体の物であり、同時期に作られたと考えられる。また、これらの構造体が作られた際には、床面が撓曲したり、火災により剥がれており、これらの構造物は床面の撓曲や剥がれを修復する作業と同時に築造されているということが判明した。これら3つの墓の下には、古い段階の墓の存在は確認されず、したがって、第1室は、現地有力者、あるいは、聖職者の墓室とするために、ある時期(おそらくビザンツ中期)に、墓とともに築造されたことが推定される。これらの墓は、のちに盗掘にあっており、埋葬されていた人骨は、床面に打ち捨てられていた。被葬者は不明である。北2号墓は、床下に築造されていたが、簡易な蓋石をかけられ、また、床上に墓があったことを想定させる側板が原位置に近い場所に発掘されたので、もともとの2号墓が盗掘にあったのち、わざわざ床を壊して新たに築造されたものと考えられる。 2, 床面モザイクは、側廊から翼廊の第1室と第3室に連続する形のモチーフを持っており、第二室を占めるモザイクと、制作時期には違いがないと思われるものの、テッセラの大きさが大きく、より安価な作りになっていた。外縁部への投資が中心部分への投資に比べて少なかったことを示している。これらのモザイクは、現存する聖堂が建てられた時期(5世紀から6世紀)に属するものと考えられる。 3, 第1室と第3室からは、羊蹄類を中心とする動物骨が多数発見された。これは、聖堂のこの部分が、聖堂放棄後にも、宗教的用途とは別の用途で使用され続けたことを示す。 4, 年度末にこれまでの知見を総合して、国際シンポジウムで発表を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
四年目にあたる今年度は、北翼廊の床面を開けるにとどまり、最終年度に側廊と身廊と南翼廊を残してしまった。これは、予想した以上に床面の破損が大きく、保存作業に割きうる労働力と日程を勘案した結果、できる作業に限りがあるものと判断し、そのようになってしまったものである。 なお、聖堂遺跡の保存状態は、全体としてみれば、比較的良好であったが、このことが、当初計画にある、古代の、聖堂に先行する建築物についての研究を妨げてしまっている面がある。これまで、一部、中世において床面に開けられた穴から、古代の建造物の基礎のいくつかを確認しえたが、そこから全体像を再構成できるだけの材料を得られていない。 その一方、聖堂自体についていえば、その東半分は、かなりの部分を開けることができ、着実に知見は増加しており、全体としての作業の進捗は、若干の遅れを見せるにとどまっているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
問題は、発掘前には、床面の破損状況などを知ることができず、また、それゆえ、保存作業の総仕事量をあらかじめ予測することのできない点である。破損が甚だしければ、それだけの時間と作業量が必要になる。そうした困難を克服するため、日本から現地に赴く研究者の数を可能な限り絞り(成果の豊富な動物考古学分野の研究協力者は派遣するが、目覚ましい新発見を見込めない建築史や考古学、碑文学の分野の研究者は派遣を取りやめる)、現地の作業員や保存の専門家への委託の部分を大きくすることとした。 他方、全体として、聖堂の床面の保存状態が、悪くないという現状は、当初計画にあった古代の先行建築についての知見を得られなくしてしまうという面がある。聖堂の周辺部からアプローチしようにも、そちらにも中世の付属建築物があり、なかなか古代の遺構にたどり着けない。こうしたことを考えると、本計画では、ビザンツ時代の聖堂の調査に研究を限定し、可能な限りのデータを採取、そのうえで、古代末期からビザンツ時代の聖堂の歴史を丁寧に描くことにすることが、誠実であろうと考えるに至っている。 聖堂それ自体の調査についていえば、2016年度中には、床面のすべてを開け、立体図を描けるような段階に達することを目指している。これについては、達成の見込みである。
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Causes of Carryover |
旅費が必要となったために前倒し請求を行ったが、想定よりも旅費の支出が安く抑えられたため、残額が発生した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
旅費として適切に使用する計画である。
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Research Products
(13 results)