Research Abstract |
本研究は,中国・韓国を含む東アジア地域における大気中多環芳香族炭化水素(PAH)誘導体,とりわけ,呼吸器・循環器疾患やアレルギー疾患増悪作用を有する酸化PAH(OPAH)や,発がん性を有するニトロ化PAH(NPAH)等について,(1)発生レベル・濃度分布を実大気観測によって明らかにすること,(2)それらの日本への越境輸送について明らかにすること,(3)越境輸送中の反応によるPAH誘導体の変質・二次生成過程を明らかにすること,更に,(4)それらPAH誘導体によって引き起こされる生体影響について検証することを目的としている。 本年度は,中国北京ならびに韓国ソウルにおいて捕集した大気粒子中のPAH,OPAH,NPAHを分析し,日本国内(京都および富山)の分析結果と比較した。その結果,濃度レベルの序列はいずれの化合物についても,北京〉ソウル〉京都〉富山の順となることが分かった。また,黄砂が飛来した期間中のPAH誘導体/PAH比は,非黄砂期と比べて高い傾向を示し,黄砂上でのP1田誘導体二次生成を示唆する結果を得た。 ソウルおよび大阪に飛来した黄砂や,中国砂漠土壌に対するマクロファージの活性酸素反応を調べたところ,中国の砂漠から採取した土壌試料に対する反応性は,対照としたシリカ粒子に対する反応性と類似しており,投与量の増加に伴い反応量が増加した。一方,飛来黄砂試料に対する反応性は都市大気粉塵に対する反応性と類似し,投与量が少ない方が反応量が多い傾向を示した。マクロファージの活性酸素反応に対しては,黄砂粒子そのものではなく,黄砂に付着する汚染物質の影響が大きいものと考えられた。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度に引き続き,東アジア各地域において大気試料を捕集し,試料中のPAH誘導体分析を行うとともに,大気試料捕集時における捕集地点の気塊についての後方流跡線解析と,炭素同位体比分析による起源解析を行う。また,引き続き大気試料に対するバイオアッセイを行い,生体影響評価のための基礎データとする。
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