2012 Fiscal Year Research-status Report
ラット脊髄後角の痛み伝達制御におけるオキシトシン作用のシナプスレベルの解析
Project/Area Number |
24500461
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Saga University |
Principal Investigator |
熊本 栄一 佐賀大学, 医学部, 教授 (60136603)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
藤田 亜美 佐賀大学, 医学部, 准教授 (70336139)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | オキシトシン |
Research Abstract |
視床下部から脊髄後角へ到るオキシトシン作動性の神経経路が鎮痛に働いている証拠があるが、その作用機序はまだ十分に調べられていない。オキシトシンの鎮痛作用機序を調べることが本研究の目的である。 6~8週齢の成熟雄性ラットから脊髄横断スライス標本を作製し、その膠様質ニューロンへブラインド・ホールセル・パッチクランプ法を適用した。オキシトシンを3分間灌流投与すると-70 mVの保持膜電位で内向き膜電流が見られた。多くのニューロンで灌流投与中にその振幅が減少(脱感作)した。オキシトシンを繰り返し投与すると、30分の時間間隔で、2回目投与では1回目投与に比べて振幅の8割程度の回復が見られた。つまり脱感作は速く起こり、脱感作からの回復には時間を要した。オキシトシン応答は、電位作動性Na+チャネル阻害薬のテトロドトキシン、AMPA受容体阻害薬のCNQXおよび無Ca2+により影響を受けなかったことから、オキシトシンの直接作用であることがわかった。このオキシトシン作用は濃度依存性であり、これをヒルプロットにより解析すると、EC50値は0.021μMであった。オキシトシンと同様な作用は、オキシトシン受容体の作動薬により見られ、オキシトシン受容体阻害薬存在下ではオキシトシン応答は見られなかったので、オキシトシン受容体の活性化を介することがわかる。オキシトシン受容体は代謝調節型受容体であるが、このことと一致して、パッチ電極内に GDP-β- Sを含めると、オキシトシン応答は抑制された。 一方、オキシトシンは自発性の興奮性シナプス後電流(EPSC)の振幅と発生頻度には影響しなかった。 以上より、オキシトシンは神経終末からのグルタミン酸の自発放出には影響せず、膠様質ニューロンの膜を脱分極させることが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
オキシトシンが多くの膠様質ニューロンにおいて膜脱分極を誘起することを見出したためである。この発見は、幼若なラットではあるが、同じ膠様質ニューロンでオキシトシン受容体の作動薬[Thr4,Gly7]-オキシトシン(TGOT)がほんのわずかな数のニューロンでしか脱分極が見られなかったというBretonら(2008)の報告と異なるものであった。そのため、オキシトシンの膜脱分極作用について詳しく調べた。すなわち、オキシトシン作用に及ぼす電位作動性Na+チャネル阻害薬のテトロドトキシン、AMPA受容体阻害薬のCNQXおよび無Ca2+の効果を調べ、オキシトシンの直接作用であることを明らかにした。さらに薬理学的にオキシトシン応答がオキシトシンの受容体の活性化を介することを確かめた。Bretonら(2008)はTGOTが神経終末から起こるグルタミン酸放出を増加すると報告しているが、我々の結果では、オキシトシンやTGOTはグルタミン酸の自発放出に影響しなかった。成熟と幼若のラットではオキシトシンの鎮痛作用機序が異なるように思われた。 オキシトシンによる膠様質ニューロンの膜脱分極は、このニューロンの膜興奮性を増加させることになり、オピオイド、ノルアドレナリン、アデノシンなどの鎮痛物質とは異なる作用である。この点を今後追求してゆきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
オキシトシンによる膠様質ニューロンの膜脱分極という前年度の発見は、そのニューロンの膜興奮性を増加させることになり、オキシトシンによる鎮痛作用を説明できない。膜脱分極が抑制性ニューロンで起これば、そのニューロンからの抑制性神経伝達物質の放出増加が起こりオキシトシンの鎮痛効果を説明できる可能性がある。そのため、今年度、以下の実験を行う。 自発性の抑制性シナプス後電流(IPSC)がオキシトシンの灌流投与によりどのような影響を受けるか、さらに、それの電気生理学的および薬理学的な性質は何かを調べる。IPSCは0 mV(AMPA受容体チャネル電流の逆転電位近く)においてEPSCが記録されない条件下で行う。GABA とグリシン作動性 IPSC のそれぞれは、ストリキニンとビキュキュリンを使って分離する。具体的には、(1) 自発性のIPSCの振幅および発生頻度に対するオキシトシン作用の濃度依存性や時間経過、さらに脱感作を調べる、(2) オキシトシン作用に及ぼすオキシトシン受容体拮抗薬、また、オキシトシン受容体作動薬の作用、(3) 自発性のIPSCの振幅変化が生じるならば、GABAやグリシンの局所投与により記録されるシナプス後細胞の伝達物質感受性に対する作用、(4) オキシトシンのIPSCに対する作用がシナプス前性ならば、細胞外Ca2+濃度依存性や細胞内Ca2+ストアーに対する薬物の作用などを詳しく調べる。 以上より、オキシトシンがシナプス前末端において、どんな機序で伝達物質放出量を変化させるか、検討を加える。さらに、自発性のIPSCに及ぼすオキシトシン作用の濃度依存性の実験結果から、オキシトシンは濃度に依存して膠様質ニューロンの膜興奮性をどのように変化させるかについての考察を加える。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
ラット、試薬、パッチ電極用のガラス管などデータの記録・解析に必要な消耗品の購入、国内の学会旅費、論文の別刷り代金などに使用する。オキシトシン、その受容体の作動薬や阻害薬は高価なので研究費の殆どを消耗費として使用する。
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Research Products
(44 results)