2013 Fiscal Year Research-status Report
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24500468
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Research Institution | Tokyo Metropolitan Geriatric Hospital and Institute of Gerontology |
Principal Investigator |
三浦 正巳 地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター(東京都健康長寿医療センター研究所), 東京都健康長寿医療センター研究所, 研究副部長 (40291091)
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Keywords | 大脳基底核 / アセチルコリン / コンパートメント / 局所神経回路 |
Research Abstract |
大脳基底核の主な生理機能は運動と姿勢制御、行動の計画、遂行や習慣形成であるが、行動の修正をもたらす「注意」にも関わるとされる。視床線条体入力は感覚情報、特に注意を向けるような新奇な感覚情報を運んでいる。線条体では投射ニューロンとともに内在性コリン作動性介在ニューロンが視床入力を受けている。コリン作動性ニューロンは、線条体の数%に過ぎないことを考えると、視床からかなりの入力を受けると考えられる。また線条体にはストリオソームとマトリックスと呼ばれるコンパートメント構造が存在し、コリン作動性ニューロンはストリオソームの周囲に多く分布する。視床入力を受けるコリン作動性ニューロンとアセチルコリンの重要性を考えると、視床入力の生理機能を理解するためには、コリン作動性ニューロンと線条体のコンパートメント構造の関係に着目した研究が有効と考える。 アセチルコリンはニコチン受容体とムスカリン受容体に作用する。線条体では一様と考えられてきたムスカリン受容体の作用が、ストリオソームで異なることを報告した。ストリオソームの投射ニューロンはGABA作動性であり、μオピオイド受容体刺激はGABA性抑制性伝達が抑えるのだが、ムスカリン受容体刺激はこれと拮抗した。逆にマトリックスでは、ニコチン受容体依存性にGABA性入力が増加した。アセチルコリンのGABA性抑制性入力に対する作用がストリオソームとマトリックスで異なることを示した。 このオピオイドによる抑制性入力の減少(脱抑制)はコリン作動性ニューロンでもみられ、かつストリオソームに限局していた。視床入力によりコリン作動性ニューロンが興奮すれば、アセチルコリンの放出も増減する。そしてコンパートメント特異的に、GABA作動性である線条体の局所回路に影響を与えるであろうことが、興奮性の視床入力の機能の一つと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度までに、線条体コンパートメント(ストリオソームとマトリックス)から選択的に、ホールセル記録をとることを可能とした。また、線条体の投射ニューロンは、直接路ニューロンと間接路ニューロンから構成され、両者のバランスが生理機能的に重要である。そこで投射ニューロンに蛍光タンパクを発現させた動物を導入して、コンパートメントに加えて投射ニューロンとインターニューロンを区別して電気記録を行っている。 これまでに、興奮性入力によってコリン作動性ニューロンが興奮すると、GABA性IPSC(抑制性電流)がニコチン受容体依存的に発生することを確かめている。マトリックスのほぼ全ての投射ニューロンにニコチン受容体依存性IPSCが見られるのに対し、ストリオソームでは半数以下であった。このIPSCは、コリン作動性ニューロン自身にも入力するので、コリン作動性ニューロンへの再帰性抑制入力となっている。このメカニズムを詳しく調べるために、コリン作動性ニューロンでは通常、複数のピークを持つ多峰性のIPSCを解析した。各ピークの潜時の長さと分散の大きさを分析すると、潜時の短く分散の小さなピークは投射ニューロンからの直接入力であり、潜時の長く分散の大きなピークはGABA性介在性ニューロンからであった。発火を止める「ポーズ」反応は、コリン作動性ニューロンに特徴的であり、線条体の学習に関わるとされる。再帰性抑制は「ポーズの」一因となる。このことは、マトリックスではコリン作動性ニューロンが大脳皮質や視床から入力を受けると興奮の後に再帰性抑制によるポーズを生じるが、ストリオソームではそれが起こりにくいことを示唆する。内在性アセチルコリンと局所神経回路の相互作用がコンパートメントで異なることが明らかになったので、現在は直接路、間接路投射ニューロンへの作用を調べている。
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Strategy for Future Research Activity |
最近の報告では、線条体のアセチルコリンを枯渇させると柔軟に判断を変更できなるという(Okada 2014)。線条体におけるアセチルコリンの重要性を示唆して興味深い。線条体では数%に過ぎないコリン作動性介在ニューロンが、視床からかなりの入力を受けることが解剖学的に知られている。線条体は大脳基底核で最も大きな核であり、おおまかな機能局在がある。さらにストリオソーム、マトリックスといった、発生段階も入出力も異なるコンパートメントがある。そうした解剖学的特徴を考慮しながら解析することが生理機能の理解に必要であろう。 これまでに内在性アセチルコリンの作用がコンパートメントで異なることを、ムスカリン受容体とニコチン受容体の作用についてそれぞれ明らかにした。今後、アセチルコリンの作用を受ける投射ニューロンの生理機能、特に膜の電気的性質やシナプス可塑性にどのように影響を与えているかを、常同行動モデル動物を用いて解析していく。常同行動とは行動の修正ができずに同じ行動をとる状態である。ドーパミン過剰状態の後に異常な可塑性が起きていると考えられる。特にストリオソームにおいて興奮性の変化が起きていることを確認している。ストリオソームも直接路、間接路ニューロンから構成されているが、両者を分けて記録した報告は無く、ストリオソームの局所回路の知見は少ない。黒質緻密部のドーパミンニューロンに直接投射するストリオソームの変化に着目していく。神経回路レベルの変化を、どちらにどのような変化が起きているかを、ホールセル電気記録による細胞レベルと、多電極アレーによる回路レベルで、さらに視床入力と大脳皮質入力に分けて調べ、そこでのアセチルコリンの関与を検討する。視床入力によってコリン作動性ニューロンからのアセチルコリンが増減し、線条体の活動を変えるメカニズムの解明は大脳基底核の機能の理解に役立つと考えている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度使用額(B-A)」が生じた理由は、記録方法を効率的なものに変えるために使用機器を変更し、それにより研究計画の順序を若干入れ替えたためである。研究計画の始めを記録方法の条件検討や、モデル動物の評価にあてた。その結果、最終年度に動物実験によるデータ収集が増えている。次年度に使用する消耗品費を増やしたことは適当と考える。 次年度は研究計画の最終年度であるので、主要な物品はすでに揃え、50万円を超える機器を導入する予定はない。物品費(動物関連20万円、消耗品70万円)とし、人件費・その他20万円として計画している。その中で大きな割合を占めるものは試薬等の消耗品費である。年度内に研究計画を遂行できるように、計画的に研究費を使用していく。
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Research Products
(6 results)