2012 Fiscal Year Research-status Report
脳機能計測・行動観察・授業設計分析に基づく学習者に応じた数学教材中の図利用の研究
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24501075
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Kisarazu National College of Technology |
Principal Investigator |
金子 真隆 木更津工業高等専門学校, その他部局等, 准教授 (90311000)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
大内 俊二 下関市立大学, 経済学部, 教授 (00213629)
高遠 節夫 東邦大学, 薬学部, 教授 (30163223)
中川 匡弘 長岡技術科学大学, 工学部, 教授 (60155687)
北原 清志 工学院大学, 公私立大学の部局等, 准教授 (90133321)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 図の教育効果 / KETpic / 実験授業 / 脳機能計測 |
Research Abstract |
(1)KETpicによる図入り教材を用いた実験授業の設計と試行実施 KETpicやその背景となる数式処理システムで作成された教材を用いることによる教育効果を確認し、今後予定される授業設計分析に結びつけるため、高専1・2年生を対象とした実験授業を計画し、試行的に実施した。テーマとしては、正確な図の利用が学習者の理解にとって決め手となると想定された「極座標表示された曲線」と「三角関数の合成」を取り上げ、KETpicにより作成された教材とそれ以外の教材を用いた授業を別個に実施し、前者の教育効果を検証することを試みた。対象学生の解答したシートを分析すると同時に、解答時の状況を観察したが、前者の授業に参加した学生の一部が、未習であるはずの合成された関数のグラフを的確に予想するなど、相当程度の効果を確認することができた。以上の結果については、英文の論文にまとめ、今後予定される国際会議で発表する予定である。 (2)脳機能計測による学習者の思考プロセスの追跡 前項で述べたような教育効果を客観的に検証する枠組みの構築をめざし、上記の2つのタスクを中心に、より基本的なタスクを交えた脳機能計測を実施した。計測には脳波計、および光トポグラフィ(NIRS)計測装置を用い、計測データをフラクタル解析することにより、一定の知見を得ることを目指した。その結果、同一の問題を数値的に与えた場合と文字式により与えた場合、また、3次元の曲面の形状把握タスクにおいて面画を用いた場合と線画を用いた場合のそれぞれで、学習者脳波に発生する分散特性に特徴的な差が生じることを確認した。また、前者のタスクについてNIRS計測を行ったところ、脳内の賦活機序に一定の差異を見出した。さらに、前項の2つのタスクについてもNIRS計測を実施し、現在得られたデータを分析中であるが、学習者の思考プロセスに応じた差が見出されつつある状況である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまで、学習者の脳機能の動きを動的に把握することは、脳機能計測の技術的制約から困難であった。これは、日常に近い計測環境と複雑なタスク設計を求められる高等数学レベルにおいてはなおさらであったと考えられる。本年度の研究において、実際の授業に近い状況のもと、当該レベルのタスクを用いた脳波・脳血流の計測を行い、脳機能の動きを動的に把握した上で、そこから一定の知見を引き出せたことは、注目に値すると考えられる。また、一部のタスクについては、外部情報・思考活動の種類やレベルに応じた脳内の賦活状況の差異が析出できており、今後の研究の基礎となりうるものと考えられる。ただし、本年度の結果はあくまで思考の種類などに固有な特徴の析出が中心であり、これを教育効果の検証にどのように結びつけていくかという点で、今後、タスク設計をより精密化していく必要があると考えられる。 実験授業については、今後授業設計分析を行っていくための基礎的な経験を積むことを目的としたが、三角関数の合成タスクにおいて予想外に良好な結果を得ることができるなど、大きな手応えを得ることができ、次年度の国際会議における発表をアクセプトされた。その一方で、選択したテーマは単発的なものであり、学習者からのレスポンスに応じてその認知を助けるべく授業設計を行うとの本研究の最終目的を達するため、今後、一つのテーマに関する継続的な実験授業を重ねていく必要があると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)脳機能計測による学習者の理解の追跡 これまでの研究で、数値と文字、面画と線画といった外部情報の種別や思考活動の状況に応じて、脳機能の時系列的な変化に特徴的な差がみられることがわかってきていることを踏まえ、特に教材中の図が持つ教育効果検証する上で適切なタスク設計を追及していく必要がある。脳の動きの複雑さを踏まえると、これは非常に困難な課題であるが、これまでと同様のタスクであるものの、脳波に特徴的な差を見出している「線画と面画の2種類を用いた空間曲面の形状把握タスク」を用いたNIRS計測を行って、脳内の賦活機序にいかなる差異が認められるか追及することが、一つの突破口になり得ると考えられる。 (2)実験授業の継続的実施と授業設計分析への連関 本年度は、KETpicにより作成された教材の持つ効果を検証することを主眼とし、用いたものと用いないものとの2種類の教材を用いた単発的な実験授業にとどまった。今後は、授業を実施する中で学習者が返してくるレスポンスを受け、教材を中心とした授業設計を学習者の認知を助けるべく継続的に修正するための指針を得るよう試みたいと考えている。そのため、一つのテーマについて、実験授業を継続的に行うようなアプローチを試みると同時に、可能であれば、脳機能計測によって実際の効果を客観的に検証することも計画したい。本年度の研究において、三角関数のグラフ描画タスクに対する被験者の反応が、被験者の関数概念の把握状況によって大きく異なる可能性が示唆されていることを受け、応用上も重要なこのタスクに対する習熟度をいかに高めるか、というアプローチが突破口の一つになると考えられる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
(1)脳機能計測の継続的実施 40万円 これまでに引き続き、脳波およびNIRSを中心とした脳機能計測を継続する。NIRS計測については、分担者である中川が長岡技術科学大学に所蔵する機材を利用するなどし、また、新たに長岡高専の野澤が分担者に加わったことから、謝金などの手当を十分に行った上で、長岡高専の学生を被験者として動員することを計画している。 (2)実験授業の継続的実施 70万円 学生のレスポンスを確実に把握するためには、多くの分担者が一つの実験授業を細かく観察する必要がある。なおかつ、実験授業を繰り返し行う必要があることから、分担者の旅費等に予算を重点的に充当したいと考えている。 (3)国内学会・国際会議等での発表 50万円
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Research Products
(13 results)