2013 Fiscal Year Research-status Report
脳機能計測・行動観察・授業設計分析に基づく学習者に応じた数学教材中の図利用の研究
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24501075
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Research Institution | Toho University |
Principal Investigator |
金子 真隆 東邦大学, 薬学部, 准教授 (90311000)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
大内 俊二 下関市立大学, 経済学部, 教授 (00213629)
高遠 節夫 東邦大学, 理学部, 訪問教授 (30163223)
中川 匡弘 長岡技術科学大学, 工学部, 教授 (60155687)
北原 清志 工学院大学, 教養教育部門, 准教授 (90133321)
野澤 武司 長岡工業高等専門学校, 一般教育科, 准教授 (80321412)
濱口 直樹 長野工業高等専門学校, 一般科, 准教授 (00369977)
山下 哲 木更津工業高等専門学校, 基礎学系, 教授 (40259825)
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Keywords | 図の教育効果 / KETpic / 実験授業 / 脳機能計測 |
Research Abstract |
(1)KETpicによる図入り教材作成と実験授業の試行実施 KETpicを用いて作成された教材の効果を、実際に使用する授業場面で確認することが本研究の大きな目的の一つであることから、KETpicの特徴を生かした教材を作成することを集中的に試みることとした。このため、「KETpic教材作成熱海ワークショップ」(10月12日~14日)、研究集会「数学・統計教育における教材開発とその評価」(下関・1月11日)、「KETpic教材作成全国ワークショップ」(松江・3月12日~14日)などを開催し、日頃の授業ニーズに基づき教材作成を実施した。作成された教材のうち、「区分求積法」に関するものは、学習者への定着が難しいテーマについて、その躓きの原因がどこにあるのか追究するための系統的な実験授業に用いられており、学習者の反応に基づいて教材を改良していくことで、本研究の目的の一つであるdocumentational approachの好個の実施例となりつつある。また、「指数とべき」に関するものは下記脳機能計測のタスクとして利用され、今後の研究に向けた一つの切り口を得る手がかりとなっている。 (2)脳機能計測による教材の学習者への働きかけに関する検証 前年度実施した、「三角関数のグラフ描画」をタスクとしたNIRS計測の結果につき分析を行い、描画への学習者のアプローチに応じて大脳表面の賦活機序に特徴的な差異が現れることが示唆された。また、前年度試行的に行った脳波計測で差異がみられた、3次元の曲面の形状把握タスク(面画と線画の違い)についてNIRS計測を行い、その結果を分析中である。また、こうした基礎的な実験に加え、より実践的な教材を用いた脳波計測を試行し、これまで想定していなかった「感性解析」の手法を用いることで、教材の学習者への働きかけにつき一定の知見が得られる可能性が示唆されるに至っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
従前の研究で、実際の授業に近い計測環境と複雑なタスク設計を求められる高等数学レベルにおいて学習者の脳機能の動きを追跡することは非常に困難であった中、昨年度から本年度にかけた本研究において、当該レベルのタスクを用いた脳波・脳血流の計測を行い、脳機能の動きを動的に把握した上で、そこから一定の知見をさらに見出せたことは注目に値すると考えられる。特に「三角関数のグラフ描画」に関する知見は、学習者への定着が難しい当該テーマについて、一つの指針を与える可能性があると考えられる。また、現在分析が進んでいる3次元の曲面形状の認知における「線画と面画の違い」について一定の成果が得られれば、数学教育はもとより、広く教育全般にとって課題となっている画像情報の利用効果について大きな知見となり得る。また、「感性解析」というこれまであまり注目してこなかった分析手法によって、教材の学習者への働きかけという、アプローチの難しかった課題について大きな糸口がつかめつつある。 実験授業については、学習者からのレスポンスに応じてその認知を助けるべく授業設計を進化させていかれるような題材の選定が難しかったが、本年度実施した「区分求積法」をテーマとした試行をもとにして、さらなる進展が期待できる状態である。ただし、我々が中心に据える「高品質な図のもたらす教育効果」という観点からすると、不十分な点も否めないため、今後テーマ選択の幅を広げつつ、学習者のレスポンスを授業設計にいかにフィードバックするかという点について、さらに実践を積み重ねる必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)脳機能計測による教材の学習者への働きかけに関する検証 これまでの研究で行ってきた、数値と文字・面画と線画といった外部情報や思考活動の種別に応じて脳機能の時系列的な変化に関する特徴的な差異を抽出するというアプローチは、認知科学や教育科学に対して重要な基礎づけを与えるものであり、今後も継続していく必要があると考えられる。その一方で、具体的に教材がどのような教育効果を持つのかといった、より実践的な研究に結びつくまでには、まだ相当の時間を要することも確かである。この点で、本年度あらたに見出された、「感性解析」によって学習者の理解の進展を把握するアプローチは、今後に向けた大きな可能性を提供している。従って、学習者の思考に大きな影響を及ぼし得るような良好な教材を少しでも多く開発し、同様のアプローチを積み重ねていく必要がある。 (2)実験授業の継続的実施と授業設計分析への連関 もとより教材の持つ効果は、それが単体として発揮されるものではなく、授業設計の中に適切に組み込まれて初めて生じてくることは言うまでもない。非常に難しいことは確かだが、本研究の最終年度にあたり、これまで蓄積された教材や知見を踏まえながら、学習者のレスポンスを教材作成や授業設計にいかにフィードバックするか、という観点での研究を今後実施しなくてはならない。その一環として、学習者から3次元図形の描画に弱点が指摘されるKETpicというソフトウェア自体についても、近年機能を充実させつつある動的幾何システムとの連携ができないか、模索したいと考えている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本助成申請時の想定では、本年度もNIRS計測機器をレンタルし、昨年度行った試行計測の続きを実施する予定であった。しかし、当該機器は分担者である中川の長岡技術科学大学の研究室にも装備されており、昨年度ほどの大人数を対象とした計測の必要が生じなかったことに加え、新たな知見をもたらしつつある感性計測については、NIRS計測よりも脳波計測の方が適しており、脳波計測に重点が若干シフトしたため、レンタルを見合わせた。ここで軽減された予算を、国内外での研究発表や、教材作成に関するワークショップ参加のための旅費に振り向けたほか、一部を翌年度に繰り越し、動的幾何ソフトウェアの開発者である国外の研究者を招聘して、KETpicとの連携方法を模索することに充当したいと考えた。 (1)これまでに引き続き、脳波及びNIRSを中心とした脳機能計測を継続する。脳波計測については分担者である中川が所蔵する機材を利用し、謝金等の手当を十分に行った上で近隣高専の学生を被験者として動員することを計画している。同時に、分担者による実験授業も継続して実施する。 (2)KETpicの機能を拡張して教材作成に資するべく、動的幾何ソフトウェアとの連携を目的として、外国人研究者を招聘する。また、本研究で得られた知見について、国内学会や国際会議等の場を通じ、積極的に公表する。
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Research Products
(16 results)