2012 Fiscal Year Research-status Report
有明海(佐賀県海域)における鉄の濃度変動と赤潮発生の関連に関する研究
Project/Area Number |
24510016
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Prefectural University of Hiroshima |
Principal Investigator |
西本 潤 県立広島大学, 生命環境学部, 准教授 (80253582)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
松原 賢 佐賀県有明水産振興センター(ノリ研究担当及び資源研究担当), 生産振興部, 技師 (30601611)
田端 正明 佐賀大学, 工学(系)研究科(研究院), 客員研究員 (40039285)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 有明海 / 鉄 / シャットネラ / 硫黄 / XANES / 栄養塩 / 珪藻類 |
Research Abstract |
有明海湾奥、佐賀県海域5か所において6月末から1月中旬にかけて表層と底層の海水をサンプリングした。珪藻類およびシャットネラの細胞密度、水温、塩分濃度、溶存無機窒素、溶存性無機リン、溶存性ケイ素、溶存態鉄、全鉄を測定し、降水量のデータを含めて相関を調べた結果、以下の結果が得られた。溶存無機窒素に関しては、シャットネラの増加時に枯渇した。溶存態鉄に関してはシャットネラが増加を開始するタイミングで表底層とも枯渇した。全鉄はシャットネラの増加時に表底層とも枯渇する傾向が見られた。 有明海湾奥、佐賀県海域4か所で7月、8月、11月、12月に底泥を採取した。九州シンクロトロン光研究センターにて、標準硫黄化合物と底泥中の硫黄についてXANES測定を行った。全てのXANESスペクトルにおいて海水由来の硫酸ナトリウムと硫黄のピークが観測された。8月に採泥した有明海西海岸沖(太良町糸岐海岸から沖合2 kmの地点)の底泥には硫化鉄が生成していることが明らかになった。西海岸沖では還元状態が進んでおり、そこの底泥は硫化水素が発生しやすい状態にあると言える。12月採泥した底泥でも同地点では他と比べて硫酸ナトリウムより硫黄の含有量が多く、還元が進んでいた。底泥では海水中の硫酸ナトリウムが硫黄へさらに硫化鉄へと還元されていることが分かった。7月に採取した底泥を用いた溶出実験から、腐食物質が増加し還元状態が進むと、マンガンの溶出が見られることと西海岸沖の底泥からは鉄の溶出が見られることが分かった。 有明海では近年赤潮の発生数及び発生期間が長くなっており問題となっている。赤潮は主に窒素やリンの濃度変化の影響を受けて発生すると考えられているが全てそれで説明できるわけではない。他の元素、特に鉄の物質循環が赤潮の発生に影響を与えていることが考えられ、測定で得られた結果はその解明のための基礎データとなっている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
有明海湾奥(佐賀県海域)の5か所でサンプリングを行い、測定対象としたプランクトンは珪藻類とシャットネラであった。珪藻類についての情報も得るため溶存ケイ素の濃度測定も追加し、海水中の鉄を含めて栄養塩の濃度と植物プランクトンとの関係を調査することができた。シャットネラと鉄の関連性については、溶存態鉄はシャットネラが増殖を開始するタイミングで、全鉄はシャットネラが増殖した段階で枯渇する傾向をみることができた。ただ明瞭な結論がでたわけではないので継続して調査することが必要であるが想定範囲内である。底泥中の硫黄の状態分析も行い、すべての測定地において元素状硫黄の存在と還元状態が進んだ西海岸沖において硫化鉄の存在を明らかにした。底泥中で硫酸ナトリウム→硫黄→硫化鉄へと硫黄が還元していくことが明らかとなった。また底泥からの溶出実験において鉄のみならずマンガンの溶出がみられることを明らかとした。以上のように計画に近い形で分析が進んでいることよりおおむね順調に進展していると判断している。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度と同じように海水中の珪藻類およびシャットネラの細胞密度、水温、塩分濃度、溶存無機窒素、溶存無機リン、溶存ケイ素、溶存態鉄、全鉄を測定し、降水量のデータと比較検討する。また底泥から溶出する可能性のあるマンガンについても海水中の濃度をICPにより測定していく。さらに腐食物質等と結合した鉄と結合していない溶存態鉄とを固相抽出剤により分離し測定を行っていく。これは腐食物質等と結合した鉄はプランクトンが体内に取り込みやすいと考えられるからである。XANES測定に関しては、昨年度の測定を踏まえて、還元状態での底泥の状態を調べることが重要であると考えられたことから夏季の底泥のサンプル数を増やしていく。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
昨年度余らせた研究費に関してはXANES測定費用に充当する。 今年度の予算に関しては以下の物に使用する。鉄やマンガンの分析に必要な、原子吸光装置用のグラファイトキュベット、原子吸光装置用とICP用のアルゴンガス、超微量分析用の塩酸や硝酸、固相抽出剤及びその他の試薬を購入する。サンプリングに必要な器具として、ろ過フィルター、サンプリング容器を購入する。また植物プランクトン分析のための培養器具を購入する。旅費としては、サンプリング場所への移動費、打ち合わせのための移動費などに用いる。
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Research Products
(10 results)