2012 Fiscal Year Research-status Report
細胞寿命研究モデルとしての出芽酵母二倍体細胞における寿命制御メカニズムの解明
Project/Area Number |
24510279
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Nagahama Institute of Bio-Science and Technology |
Principal Investigator |
向 由起夫 長浜バイオ大学, バイオサイエンス学部, 准教授 (60252615)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 出芽酵母 / 寿命 / 老化疾患モデル / 二倍体細胞 / トランスクリプトーム解析 |
Research Abstract |
出芽酵母は、遺伝学的解析に適した一倍体を用いて多くの寿命遺伝子が発見されるなど、細胞レベルの老化・寿命制御機構の解明に貢献してきた。しかし、高等生物と同じ二倍体の出芽酵母株が一倍体株よりも長寿命なので、一倍体株を高等生物のモデルとして研究するには問題がある。本研究の目的は、出芽酵母の二倍体細胞で働く寿命遺伝子とその転写制御因子を同定して解析することにより、一倍体細胞を用いた従来研究では見逃していた二倍体細胞の寿命制御機構を明らかにすることである。本研究の成果は、これまでの倍数性の問題を解決し、高等生物の老化・寿命研究モデルおよび老化疾患モデルとしての出芽酵母の有用性をより高めるものになる。 平成24年度では、既に報告されている倍数体のトランスクリプトーム解析データを再検討し、一倍体と比較して二倍体、三倍体および四倍体で転写量が2倍以上に増加する遺伝子を13個抽出した。それらの中からRAD50遺伝子が二倍体で分裂寿命を正に制御することを明らかにしたが、一倍体でも分裂寿命を制御していたので、目的の二倍体特異的な寿命遺伝子ではないと結論した。トランスクリプトーム解析と分裂寿命測定に用いる菌株を酵母ノックアウト(KO)コレクションの親株であるBY4742株とそれ由来の倍数体に統一してDNAマイクロアレイ解析を行い、一倍体では転写量が低く、二倍体で転写量が2倍以上に上昇する遺伝子を25個を見いだした。それらの中には4個の機能未知遺伝子が含まれていたが、それらの二倍体ホモKO株の分裂寿命は野生型二倍体株と同じであったので、分裂寿命には関係ないと判断した。同様に、アクチンをコードするACT1遺伝子の転写量も二倍体で上昇していたが、必須遺伝子であるので二倍体ヘテロKO株を構築し、その分裂寿命を測定すると、ACT1遺伝子は分裂寿命を正に制御することが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度には、(A)二倍体特異的な寿命遺伝子の同定と機能解析、および(B)二倍体特異的な寿命遺伝子に対する転写制御因子の同定と機能解析について計画した。(A)で計画した実験については概ね実行することができた。トランスクリプトーム解析から二倍体特異的な寿命遺伝子の候補を見いだすことができた。分裂寿命に関係することが既に報告されている遺伝子が含まれる一方で、機能未知遺伝子も含まれており、これらが新しい分裂寿命遺伝子であることを期待したが、残念ながら分裂寿命には関与していなかった。現在のところ、トランスクリプトーム解析から本申請で提案した二倍体特異的な寿命遺伝子を同定するには至っていないが、残りの候補遺伝子の中に目的の寿命遺伝子が含まれることを期待して本研究課題を継続する予定である。また、ACT1遺伝子が分裂寿命遺伝子であることを見いだしたことは特筆すべきである。ACT1遺伝子をノックアウトすると致死となるので、二倍体特異的な寿命遺伝子であるかどうかを判定することはできないが、必須遺伝子の中に分裂寿命を制御する遺伝子があることを示しており、新しい研究の展開をもたらすものである。 (B)で計画した実験についてはほとんど実行することができなかった。申請書作成の段階では、DNAマイクロアレイ解析から抽出した二倍体特異的遺伝子の間に共通する制御系があり、そこから転写制御因子を予想できると考えていた。しかし、実際に抽出した遺伝子の間に共通するような制御を見いだせていないので、それらの転写制御因子を探索するには至らなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度は、継続課題として、トランスクリプトーム解析から得られた二倍体特異的な遺伝子の残り候補について分裂寿命に関与するかどうかを検討する。一倍体を用いた研究で分裂寿命に関与することが示されている遺伝子を除いた後、二倍体ホモKO株で分裂寿命が短くなり、一倍体KO株では野生型と同じ分裂寿命となる遺伝子を探索する。目的の遺伝子が同定できれば、その遺伝子に対する転写制御因子を見つけ、分裂寿命を制御する信号伝達系の解明を目指す。この研究課題に関しては、候補遺伝子の中から共通性を見いだすのではなく、個々の遺伝子に注目して転写制御因子を探索する必要があると考えている。 さらに、新しい研究課題として、ACT1遺伝子のように増殖に必須な遺伝子の分裂寿命への関与を検討する。出芽酵母では約1,200個の必須遺伝子が知られているが、これらが分裂寿命に関与するかどうかはこれまでに一切調べられたことがない。そこで、まずモデル実験として、転写制御因子をコードする10個の必須遺伝子についてこの研究を展開する。二倍体ヘテロKO株について分裂寿命を測定し、野生型二倍体株よりも長寿命あるいは短寿命となる株を探索する。この新しい研究課題は、前年度の研究成果を発展させ、二倍体細胞でしか実行できない利点を有していることから本申請課題で取り上げる意義がある。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
該当なし
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