2013 Fiscal Year Research-status Report
細胞寿命研究モデルとしての出芽酵母二倍体細胞における寿命制御メカニズムの解明
Project/Area Number |
24510279
|
Research Institution | Nagahama Institute of Bio-Science and Technology |
Principal Investigator |
向 由起夫 長浜バイオ大学, バイオサイエンス学部, 准教授 (60252615)
|
Keywords | 出芽酵母 / 二倍体細胞 / 寿命 / 老化疾患モデル / トランスクリプトーム解析 / 必須遺伝子 |
Research Abstract |
出芽酵母は、遺伝学的解析に適した一倍体を用いて多くの寿命遺伝子が発見されるなど、細胞レベルの老化・寿命制御機構の解明に貢献してきた。しかし、高等生物と同じ二倍体の出芽酵母株が一倍体株よりも長寿命なので、一倍体株を高等生物のモデルとして研究するには問題がある。本研究の目的は、出芽酵母の二倍体細胞で働く寿命遺伝子とその転写制御因子を同定して解析することにより、一倍体細胞を用いた従来研究では見逃していた二倍体細胞の寿命制御機構を明らかにすることである。本研究の成果は、これまでの倍数性の問題を解決し、高等生物の老化・寿命研究モデルおよび老化疾患モデルとしての出芽酵母の有用性をより高めるものになる。 平成24年度には、二倍体で特異的に発現する遺伝子に注目し、その中から寿命遺伝子を同定することを試みた。これらの候補遺伝子のノックアウト(KO)株は二倍体で短寿命であるばかりではなく、一倍体においても短寿命であった。このように、二倍体特異的発現を指標とする探索方法では目的の寿命遺伝子を同定することが困難であると判断した。この研究過程において、増殖に必須な遺伝子が候補遺伝子として得られたので、二倍体の一方の遺伝子のみを破壊した二倍体ヘテロKO株を構築し、その分裂寿命を測定した。この経験を活かして、平成25年度には、増殖に必須な遺伝子、特に転写因子をコードする遺伝子に注目し、その分裂寿命への関与を調べることにした。出芽酵母の約6,000個の遺伝子の中には約1,200個の必須遺伝子が存在するが、これらの必須遺伝子が寿命決定に関与するかどうかは一切調べられていない。この課題は初期の研究目的である二倍体株特有の寿命遺伝子探索から大きく逸脱するものではない。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成25年度には、平成24年度から方針を若干変更し、増殖に必須な転写因子遺伝子に対象を絞り込み、解析を進めることにした。出芽酵母のゲノムデータベース(Saccharomyces Genome Database)を検索した結果、増殖に必須な転写因子をコードする遺伝子は10個存在することがわかった。ここでは、塩基配列特異的なDNA結合能を有する転写因子を対象として取りあげた。増殖に必須な遺伝子の分裂寿命への関与を知るために、(A) 2コピーの必須遺伝子をもつ一倍体株、および(B)必須遺伝子の二倍体ヘテロKO株について、それぞれ分裂寿命を測定することを計画した。 (A)については、まず必須遺伝子を組み込み型プラスミドベクターにクローニングし、そのプラスミドを一倍体野生型株のゲノム上に挿入することにより、必須遺伝子を2コピーもつ株を構築した。すべての2コピー株で元の1コピー株よりも転写が上昇していることを定量化RT-PCR法により確認した。しかし、これらの2コピー株はすべて元の1コピー株とほぼ同じ分裂寿命であった。 (B)については、二倍体ヘテロKO株コレクションを購入し、そこに含まれていない、あるいは目的の遺伝子が破壊されていなかった株を独自に再構築した。これら必須転写因子遺伝子の二倍体ヘテロKO株において、元の二倍体野生型株よりも転写が減少していることを定量化RT-PCR法により確認した後、その分裂寿命を測定した。FHL1(リボソームタンパク質の転写制御)、RAP1(テロメア長の維持、リボソームタンパク質の転写制御)、REB1(RNAポリメラーゼIとIIによる転写制御)におけるKO株が短寿命を示すことを明らかにした。これらの遺伝子が分裂寿命に関与することはまだ報告されていない。
|
Strategy for Future Research Activity |
最終年度である平成26年度には、平成25年度の研究成果として得られた分裂寿命に関与する必須転写因子遺伝子の解析を発展させる。特に、リボソームタンパク質の転写を制御するFHL1遺伝子に注目する予定である。これまでに、リボソームタンパク質遺伝子を破壊すると、出芽酵母の分裂寿命が延長されることが報告されている。これはFHL1遺伝子の二倍体ヘテロKO株が短寿命であることと矛盾する。そこで、FHL1遺伝子がリボソームタンパク質遺伝子以外の遺伝子の転写を制御し、その標的遺伝子が分裂寿命決定に関与すると考えている。既にFHL1遺伝子の二倍体ヘテロKO株についてDNAマイクロアレイ解析を実施し、FHL1遺伝子が制御する多くの標的遺伝子を同定している。今後の研究方針として、Fhl1転写因子が制御する標的遺伝子の中から分裂寿命に関与する遺伝子を探索する。まずは、トランスクリプトーム解析の確認として、候補となる標的遺伝子の転写を定量化RT-PCR法により測定する。次に、一倍体あるいは二倍体における標的遺伝子のKO株について分裂寿命を測定する。Fhl1転写因子と相互作用するコアクチベーターとしてIfh1が知られており、分裂寿命に関与するFhl1標的遺伝子の転写制御にこのコアクチベーターが関与する可能性も検討する。このように、二倍体株を利用することにより、新規の分裂寿命遺伝子を同定したことを報告することを最終的に計画する。
|