2012 Fiscal Year Research-status Report
部位選択的DNA脱メチル化誘導による新規細胞機能改変法の検討
Project/Area Number |
24510284
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | National Institute of Health Sciences |
Principal Investigator |
窪崎 敦隆 国立医薬品食品衛生研究所, 衛生微生物部, 主任研究官 (30425673)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | DNA脱メチル化 / エピゲノム制御 / ゲノム / 発現制御 |
Research Abstract |
本研究の目的は、部位選択的DNA脱メチル化誘導による新規の細胞機能改変法の開発である。そこで、まず本研究で着目しているメチル化シトシンヒドロキシラーゼであるヒトTET1遺伝子の活性領域をクローニングし、培養細胞である293T細胞を用いて、その発現を試みた。その結果、293T細胞内でヒドロキシメチルシトシン量の増大が観察された。さらに、イルミナ社のInfiniumメチル化アッセイを行った結果、293T細胞内でメチル化されていたシトシンのうち、脱メチル化が誘導されている塩基を観察出来た。 一方、研究代表者は、任意の領域のシトシン修飾が近傍の遺伝子発現へ与える影響やTET1活性による脱メチル化機構を検証出来る新規の実験手法が必要であると考え、哺乳動物細胞発現用エピソーマルベクターを用いた解析手法 MoCEV (modified cytosine in episomal vector) 法を開発した。強い発現誘導能を持つCAGプロモーターのCpG部位に酵素的にメチル化修飾を加え、哺乳動物細胞発現ベクターをin vitroで再構築し、293T細胞への導入実験を行った。その結果、細胞増殖を経てもシトシンのメチル化修飾が維持され、下流のレポーター遺伝子の発現が抑制されることが観察された。さらに、CAGプロモーターの全シトシンをヒドロキシメチルシトシンに置き換えた後、MoCEV法で293T細胞へ導入したところ、DNAの複製に伴ってnon-CpG部位のシトシンは修飾を持たないシトシンに、CpG部位のシトシンはメチルシトシンに変化することが明らかになった。この結果は、TET1の活性によって誘導されるヒドロキシメチルシトシンを経由した脱メチル化機構を考える上で重要な知見である。 研究代表者は、これらの研究成果を筆頭著者の論文にまとめ、国際誌にて発表し、さらに国内学会および国際学会において報告した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度に実施した研究によって取得した成果は、研究代表者が筆頭著者として論文を執筆し英文国際誌上で発表することが出来た。さらに、MBSJ2012およびKeystone Symposiaという国内外の学会において、これらの成果を発表した。ヒドロキシメチルシトシンは、エピジェネティクス研究分野だけでは無く、幹細胞の運命を考える上で重要な修飾であると考えられるようになってきたことから、広く生命科学者の関心を集め、本発表内容の詳細に関する問い合わせを受けるなど、大きな反響を得た。 本期間内に、本研究で着目しているメチル化シトシンヒドロキシラーゼであるヒトTET1の活性領域をクローニングし、培養細胞である293T細胞で発現させることに成功している。その結果、過剰発現細胞内でヒドロキシメチルシトシン量の増大が観察され、またメチル化されていたシトシンのうち、脱メチル化が誘導されている塩基を観察することが出来た。この結果は、当初計画した通り、本研究においてヒトTET1の活性部位を利用することで、部位選択的DNA脱メチル化誘導が出来る可能性を強く示唆する結果である。 一方、研究代表者が、平成25年2月末日まで勤務した理化学研究所から、平成25年3月1日より国立医薬品食品衛生研究所に移籍したことで、本研究の当初計画の一部を変更する予定にしている。具体的には、国立医薬品食品衛生研究所の所属研究室の優位性を生かして、微生物のDNAや内毒素を認識する単球の機能に着目して、有用性の高い細胞機能改変法の開発を試みることにする。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の目的は、部位選択的なDNAの脱メチル化誘導によって細胞機能を改変する新規の方法を開発することである。具体的には、まず有用性の高い細胞に着目し、その機能を担っている特異的遺伝子群のうちDNAのメチル化によって発現が制御されている遺伝子を明らかする。それらの遺伝子のプロモーター領域を脱メチル化誘導の際の評価部位とし、この部位に結合する細胞特異的転写制御因子とTET1の活性部位の融合蛋白質を細胞内に発現させることで、任意の場所のDNAの脱メチル化を誘導し、新規の細胞機能改変法を確立する計画である。この目的に向かって、引き続き研究を進めて行く計画である。 研究代表者は、平成25年2月末日まで勤務した理化学研究所から、平成25年3月1日より国立医薬品食品衛生研究所に移籍したことで、本研究の当初計画の一部を変更する予定にしている。具体的には、国立医薬品食品衛生研究所の所属研究室の優位性を生かして、微生物のDNAや内毒素を認識する単球細胞の機能に着目して、有用性の高い細胞機能改変法の開発を試みることにする。単球細胞特異的遺伝子のうち、発現がDNAのメチル化で制御されている遺伝子を明らかにし、そのプロモーター領域を本研究の脱メチル化誘導の際の評価部位にする。少なくとも単球で重要な働きをしているPU.1転写因子遺伝子のプロモーターがDNAのメチル化によって制御されていることが明らかになっている。本研究では免疫細胞の機能のうち、自然免疫機能関連する遺伝子に着目する。それらの遺伝子のプロモーター領域のDNAメチル化状態についてバイサルファイトシーケンス法による解析を行い、それらの結果をその後の研究発展の足掛かりにする計画である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究計画は、おおむね順調に進展している。しかし、研究代表者が平成25年3月1日より国立医薬品食品衛生研究所の主任研究官に着任し、この所属研究機関の変更に伴い、本年度において費用別収支状況等の次年度使用額が発生した。次年度において、新たに着任した研究室での優位性を生かし、且つ、本研究の目的であるエピジェネティック工学に基づく細胞工学という独創性のある方法の検討を行う為に、評価細胞を変更する計画である。具体的には、微生物のDNAや内毒素を認識する単球などの免疫担当細胞の機能に着目して、有用性の高い細胞機能改変法の開発を試みることにする。この変更に伴い、次年度において必要な培養細胞、試薬、消耗品の購入を計画している。また、DNAメチル化状態を検討する為のバイサルファイトシーケンス法に用いる試薬などは当初計画通り購入する。国立医薬品食品衛生研究所は、本研究に必要な解析機器を所有している為、それらの機器を利用し、次年度内に本研究予算から50万円以上の物品を購入する計画はない。 一方、網羅型塩基配列決定に関して、次年度中に、新規着任先の研究部に次世代シーケンサーを導入する計画があり、本研究においては、この解析機器を使用する予定にしている。従って、当初の計画通り、大量塩基配列決定に必要な試薬の購入を計画している。ただ、次世代シーケンサー本体の購入が遅れるなどの際には、本研究計画が遅れないように外部研究機関との共同研究や外部委託についても検討し、適切に支出する予定にしている。
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