2012 Fiscal Year Research-status Report
「利他行動」を制御する新規化合物の探索とその作用機構の解明
Project/Area Number |
24510306
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Sophia University |
Principal Investigator |
齊藤 玉緒 上智大学, 理工学部, 准教授 (30281843)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
森田 直樹 独立行政法人産業技術総合研究所, その他部局等, 研究員 (60371085)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 生理活性物質 / ポリケタイド |
Research Abstract |
具体的内容:研究目的は社会性昆虫などで見られる自分を犠牲にして仲間を助ける「利他行動」を、社会性アメーバである細胞性粘菌をモデルとして、この行動を制御する分子機構を理解すことにある。社会性アメーバ・細胞性粘菌ではポリケタイド合成酵素(PKS)遺伝子がそれぞれの種で独自のグループを形成している。その中で種を超えて保存されているpks2遺伝子の挿入変異体は協調性を失い、周辺の野生型株を柄細胞にして、自らは胞子細胞として生き残る「裏切り者」になることが示された。つまり、pks2は利他行動に関わると考えられる。そこでまずこの遺伝子破壊株を作製した。この株は、単一クローンでは協調的な行動がとれること、発生過程で見られる欠損が他の株の存在によっても回復しない細胞自律的変異であることを確認した。また裏切り者になるかどうかの検証では、pks2遺伝子破壊株は一度予定柄細胞に分化した後、予定胞子細胞として挙動することがわかった。このことは遺伝子破壊株が裏切り者であることを示唆している。そこでもしpks2遺伝子破壊株が裏切り者ならば野生型株とキメラ子実体を作った場合、遺伝子破壊株は野生株より多くの胞子を形成するはずであると考え胞子数をカウントした。しかし、実際にはむしろ胞子数は少ないということがわかった。つまりpks2遺伝子の挿入変異体は単純な裏切り者ではなく、発生初期のバイアスの違いによりパターン形成に大きな変化が認められる変異体と考えられた。 意義・重要性:本研究の特色は社会性生物に見られる「利他行動」という生物現象に着目し、これまで解明することが困難であった物質レベルでの理解をはかる点にある。これまでの研究で、pks2遺伝子による利他行動制御は発生過程に入る前のバイアスの形成に関わっていると考えられ、次年度の分子レベルでの解析のターゲットが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
次年度の研究目的は、PKS2 がどのように「利他行動」を制御しているのかについての仮説を導き、これを検証することにある。 pks2 遺伝子の発現時期の限定から次の3つのメカニズムにより、Cheaterは「利他行動」をやめて利己的な行動をとるのではないかと当初は考えていた。 1)細胞のサイズの調整 2)発生のタイミングの変更 3)細胞型比率の変更と異なる細胞型へ再分化 これまでの研究から、仮説の1、3を支持するデータは得られていない。むしろ2の発生タイミングを変更することによる予定胞子細胞に分化しやすくなるバイアスがあるのではないかと言う仮説を指示するデータが多く、次年度はどのようにバイアスを変化させているのか、単細胞期のアメーバを中心に研究を進める。現在までの研究で利他行動制御のメカニズムの仮説を限定することができ、順調に研究は進んでいると考えている。 また、利他行動における緑髭効果に関与している可能性を示唆するデータを得ており、この可能性についても今後は検証したい。これまで緑髭遺伝子はわずか1例しか報告されておらず、もしポリケタイドが制御する遺伝子が緑髭遺伝子であれば、緑髭効果についての新たな発見につながると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の進め方としては、大きく次の2点にしぼって研究を進める。 1)PKS2が合成する化学物質の同定 2)利他行動をとるのか緑髭効果を示すのかの検証 化学物質の同定に関しては既にスタート物質の回収を開始している。緑髭効果か利他行動かについてはさらに詳細な解析が必要であると考えている。まずはキメラ子実体を作った際の胞子塊に含まれる変異体由来の胞子数を正確にカウントしてその割合を検証すること、GFPラベルした細胞の発生過程における動きを経時的に観察するところから解析を開始したい。また、pks2遺伝子破壊株を使って予定柄細胞に特異的なの遺伝子群の中で変異体で発現が変わる遺伝子を解析し一連の遺伝子を同定したので、緑髭効果と考えられた場合にはこれらの遺伝子の影響についても検証する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
該当なし
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