2013 Fiscal Year Research-status Report
倫理学における普遍主義の再検討―物語論、判断力論の視点から―
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24520021
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
八幡 英幸 熊本大学, 教育学部, 教授 (70284718)
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Keywords | 普遍主義 / カント倫理学 / 物語 / 判断力 / 格率 / 感情 |
Research Abstract |
平成25年度(二年目)の主な研究成果は以下の通りである。 当初の研究計画(3年間)に掲げた3つの目標のうち、【1】「カント以降の普遍主義的な規範理論にとっての判断力の意義の明確化」については、カント倫理学の発展史、特に1780年代中期(『人倫の形而上学の基礎づけ』や『実践理性批判』の執筆時期)の重要性がいよいよ明らかになりつつある。この時期には、定言命法や義務の体系が整備される一方、反省的判断力の原理や感情のア・プリオリ性の探究が同時に深まりを見せる。この点については、日本倫理学会、関西倫理学会等で行なわれた、格率や尊敬の感情の位置づけについての意見交換からも大きな示唆を得た。20世紀の普遍主義的な規範理論についても、判断力に深く関わるものとして、行為原則や道徳感情の位置づけに着目した研究が求められよう。次に、【2】「物語論と判断力論の関連の明確化」については、1年目の研究を通じ「格率あるいは行為原則の物語性」が重要な論点として浮上してきたが、本年度は主として、カントと同時代の「啓蒙の物語性」や「啓蒙の感情性」に関する文献を収集・検討した。さらに、【3】「普遍主義的な規範理論の評価の再検討」については、理論内部での評価だけではなく、応用倫理や道徳教育の基礎理論としての有効性の評価にも着手したところである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
前述したようなカント倫理学の発展史に関する研究や意見交換、同時代の「啓蒙の物語性」や「啓蒙の感情性」に関する文献収集・検討はいくらか進んだが、カント以降の普遍主義的な規範理論(特に、R.M.ヘアの功利主義、J.ロールズの正義論)についての検討作業はあまり進んでいない。また、前者についても、本年度はその成果を論文として公表することができなかった(2本の論文執筆・投稿を予定していたが、後述する理由により完成せず、投稿断念を余儀なくされた)。このように研究の遅れが生じたのは、研究代表者が平成25年度末まで所属部局(教育学部)の教務委員長及び課程主任を務め、カリキュラム改革等の作業に忙殺されたためである。この遅れは次年度(3年目)で取り戻したいと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度(3年目)の研究では、当初の研究計画に掲げた目標【1】「カント以降の普遍主義的な規範理論にとっての判断力の意義の明確化」および【2】「物語論と判断力論の関連の明確化」に関連して、カントに関する研究のまとめを急ぎたい。また、そこから得られた知見(行為原則や感情の位置づけ等)に留意ながら、20世紀の普遍主義的な規範理論(R.M.ヘアの功利主義、J.ロールズの正義論など)について、同様の観点からの検討作業を進めたい。また、これらの作業の成果を踏まえ、【3】「普遍主義的な規範理論の評価の再検討」を行いたい。その際には、①カント倫理学自体の研究者(R・ブラント、W・シュタルクなど)、②カント倫理学の現代的意義の検討者(Ch.コースガードなど)、③普遍主義への批判者(A・マッキンタイア、B・ウイリアムズなど)の議論を視野に入れる予定である。
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