2013 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24520063
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
藤原 聖子 東京大学, 人文社会系研究科, 准教授 (10338593)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
宮崎 元裕 京都女子大学, 公私立大学の部局等, 准教授 (20422917)
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Keywords | 宗教 / 宗教学全般 / 宗教と教育 / 多文化主義 / イギリス / トルコ / アメリカ |
Research Abstract |
藤原は、イギリスの宗教教育に関する、21世紀に入ってからの公的議論をまとめた上で、資料分析を集中的に行った。教育政策上は、多文化主義からポスト多文化主義への移行点を示すのは、2006年に施行された「教育及び監査法」である。この法令において、公営学校の学校教育は、個々の生徒たちの幸福・福利だけでなく、共同体の統合をも推進しなくてはならないとされ、それを受けて、2007年9月から、宗教教育や市民性教育に対して、共同体統合を推進することが義務づけられた。2009年のQCAによる宗教教育へのガイドラインでは、この「共同体」は、学校、地域、国家、グローバルコミュニティの4層に分けられ、それぞれのレベルでの宗教の多様性と宗教の社会的影響について学ぶことが求められている。こういった法令は非公営学校には向けられていないが、そのような学校でも、自他の文化を尊重し、寛容と調和を推進することがよいとされている。 このように2007年から共同体統合が宗教教育の目的の一つとして義務づけられたことによって、宗教教育の教材内容、とくに宗教や個別宗教の記述に変化が生じたかどうかについて、それ以前の教科書と以後の教科書を比較することで分析を進めている。教材内容は多文化主義化前の状態(1980年代以前)に戻ったのではなく、むしろ宗教の多様性は一層尊重されているのだが、それを客観的に測定するための比較方法論が必要になり、その整備も進めている。 宮崎は、トルコにおいて聞き取り調査・資料収集を行うとともに、資料分析を行った。2012年の義務教育改革によって、宗教関連の選択科目が増加するとともに、1997年に廃止されていたイマーム・ハティプ中学校が再開されるなど、イスラームに関係する教育の強化傾向が明確になっている。宗教関連の選択科目を選択する者の数も多く、こうした動きを多文化主義的な観点から慎重に見守る必要がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究代表者(藤原)は、昨年度は公務の増加により、当初予定していた海外調査を行うことはできなかったが、代わりに国内で、アジア・中東諸国からの留学生を集め、グループ面接の形式による聞き取り調査を行った。これは、イギリスやアメリカで行われている宗教教育が、どの程度両国の社会的・文化的コンテキスト、また政策に影響を受けているか、とくに各宗教の描きかたが、移民の本国での当該宗教に対する見かたとどう具体的に違うのかを探るためであった。結果として、共同体における諸宗教の存在と全体の統合という課題は、イギリス・アメリカと、移民の本国ではかなり異なる形で考えられており、これが宗教教育での各宗教の描きかたにも反映されていることが見えてきた。あわせて、共生のための宗教教育には、異文化理解論モデルよりも公共宗教論モデルを用いる方が今日の国際情勢に適合しているのではないかという新たな知見も得ることができた。 さらに、イギリスの宗教教育の変化をヨーロッパ全体のコンテキストの中においてとらえるために、2006~2009年に実施されたREDCoプロジェクト(教育における宗教の要素は、ヨーロッパ社会に対話をもたらしているか、対立を引き起こしているかを解明する共同調査。資金提供者はEU)の成果を分析している。このプロジェクトは、比較宗教教育研究の方法論についても示唆に富むので、本研究の方法論を確立する上でも非常に有効であった。 研究分担者(宮崎)は、当初予定していた通り、トルコにおける調査を行い、2012年の義務教育改革に関する情報の収集と分析を行うことができた。本研究目的を遂行する上で、2012年の義務教育改革に関する分析は不可欠だが、新制度の開始から十分な時間が経っておらず、宗教関連の選択科目を選択する者の数も流動的であり、継続して情報を収集していく必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度にあたる2014年度は、これまでの研究成果をまとめる方向で進めていく。 研究代表者(藤原)は、宗教教育の教材比較のための方法論について考察をまとめ、6月にデンマークで開催されるCARDネットワーク(Critical Analysis of Religious Diversity Network)の研究会で発表する。これはヨーロッパの宗教学者を中心とした組織で、社会における宗教の多様性をどのように研究するか、その理論と方法論を議論することを目的としている。6月の会は、教育と司法の分野に焦点があてられるため、“Religious Diversity within School Textbooks: How Can We Assess Its Degree?” というタイトルで発表する予定である。 9月には同志社大学で開催される日本宗教学会の年次大会で、研究成果について報告する。さらに、REDCoプロジェクトなど、欧米の宗教教育研究の動向について、依頼論文としてまとめ、発表する。10月以降は、以上の中間報告をもとに、最終報告を書籍原稿の形で作成する。 研究分担者(宮崎)は、トルコにおける2012年義務教育改革に関して宗教教育に焦点を当てて研究を進め、7月に日本比較教育学会の年次大会で研究成果について報告する。その後、研究代表者の研究成果と照らし合わせながら、トルコに関する分析を進め、最終報告を作成する。
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