2014 Fiscal Year Research-status Report
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24520101
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
小田部 胤久 東京大学, 人文社会系研究科, 教授 (80211142)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 共通感覚 / 構想力 / 存在の感覚 / 生命感情 / 無意識 / 感覚の感覚 |
Outline of Annual Research Achievements |
14年度の研究実績は大きく四つに分けることができる。 第一は、カントの「構想力」をめぐる研究である。カントは『判断力批判』において構想力を「感性の能力」と規定しているが、私は『判断力批判』の議論の構造に即して構想力の働きを場合分けし、その特徴をそれぞれの文脈において明確にした。この研究成果を、美学会東部会例会(14年5月31日)において口頭で発表し、さらに美学会の機関誌『美学』に論文として公表した。 第二は、「共通感覚」をめぐる研究である。「共通感覚」という古典古代から伝わる概念に五感に共通の感覚というアリストテレス以来の系譜と、他者と共通の見解(いわゆる常識)というキケロ以来のローマ的系譜とがあること、これはすでに広く認められた通説である。この二つの系譜は、主観内的(intra-subjectiv)な次元と間主観的(inter-subjectiv)な次元として理解することもできる。こうした通説に対して私は、すでにアリストテレスの内に第二の系譜の萌芽が、かつそれも豊かな萌芽が認められる、という命題を対置し、その上で、カントの美学理論――その根幹には「共通感覚」論(これは大別すれば第二の系譜に属する)がある――の分析を通して、カントが(隔世遺伝的にはあるが)すぐれた仕方においてアリストテレスの議論を継承し発展させていることを明らかにし、それを2015年3月公刊の論文において発表した。 第三は、ライプニッツ学派における「感性」の問題を無意識の問題と関係づけて論じることであり、2014年11月に「ゲーテ自然科学のつどい」の主催するシンポジウムでその成果を発表した。 第四は、日本的感性をめぐる研究である。ドイツ政府発行の『日本』に「日本の美学」と題するエッセーを寄稿することを求められたため、日本的感性が中国という仮想的中心とのかかわりにおいて形成され展開されたことを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
学会発表を1回、学会シンポジウムでの招待講演を1回行い、さらに、学会誌に1本の論文を、またその他論文集にもいくつかの論文を公刊し、おおむね当初の目的を達成することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
15年度は最終年度に当たるが、すでに国際美学連盟主催の会議(6月)、第14回国際18世紀学会(7月)、カント協会主催シンポジウム(11月)、京都の土井道子記念シンポジウム(主題は「美」)(12月)において口頭発表し、また、ある学術商業誌の特集に寄稿することが決まっている。最終的には『西洋美学史』第二巻として成果をまとめたいが、なお論じるべき点は多いため、できる範囲において、与えられた上記の機会を利用しつつ、成果を世に問うことにしたい。
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Causes of Carryover |
計画通りに研究費を支出したが、次年度に海外出張を予定するなど、次年度の支出が多いことが見込まれるため、ごく少額(60円)ではあるが、次年度に繰り越すこととした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
上記の通り、二度の海外出張の旅費の一部にあてる。
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