2013 Fiscal Year Research-status Report
19世紀日欧米比較による「日本美術史」形成史の研究
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24520103
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Research Institution | Tokyo Gakugei University |
Principal Investigator |
鈴木 廣之 東京学芸大学, 教育学部, 教授 (00132704)
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Keywords | 日本美術史 / フェノロサ / アーネスト・サトウ / アンリ・チェルヌスキー / エミール・ギメ |
Research Abstract |
1871年(明治4)に来日した美術品収集家・銀行家アンリ・チェルヌスキー(1821~1896)について収集美術品に関する資料調査をチェルヌスキー美術館で行ない、1876年(明治9)に初来日した実業家で宗教学者・美術品収集家エミール・ギメ(1836~1918)と画家フェリックス・レガメー(1844~1907)についてギメの収集美術品と関連資料、レガメーの日本関連の絵画と滞日中の日記等の関連資料の調査をギメ美術館で行なった。ギメ美術館では法隆寺金堂壁画模写(6号壁阿弥陀浄土)の調査も行なった。大英博物館では、駐日英国外交官でジャパノロジストのアーネスト・サトウ(1843~1929)が制作依頼し、その友人で外科医・美術品収集家ウィリアム・アンダーソン(1842~1900)が購入し、後に大英博物館に寄贈した櫻井香雲(1840~1895?)筆の法隆寺金堂壁画模写(9号壁弥勒浄土)の調査を行なった。 昨年度に引き続き、アーネスト・サトウ編纂の『中部・北部日本旅行案内』(1881年初版、1884年改訂再版)に記載された奈良・三重・和歌山三県にまたがる旅行ルートのうち、未調査の奈良市、天理市など奈良県中心部の有力寺社について実地調査を行なった。サトウが有力社寺に伝わる民俗文化財や仏教・神道美術に関心をもっていたことが再確認できた。 フェノロサによる法隆寺、興福寺の宝物類の現地調査を行なったことが両寺の執務日記に記されていることが知られているので、サトウ、アンダーソンらによる両寺の調査も含め、執務日記の調査依頼を行なったところ、法隆寺からは了解を得られなかったため、現地調査を断念した。興福寺からは現地調査を認められなかったものの、史料の該当ページのデジタル画像の提供を受けることができた。これによって従来の図版では判読できなかった細部の記述内容の確認ができるようになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
海外調査では、アンリ・チェルヌスキーについて1871年の滞日中に東京目黒の蟠龍寺から購入した金銅製の阿弥陀如来坐像を、エミール・ギメについて京都の仏師に依頼制作した京都の東寺講堂諸尊、いわゆる立体曼荼羅と河鍋狂斎に制作依頼した「釈迦像」(絹本着色掛幅装)および日本の外務省がギメに対して発給した「旅行免状」を調査・実見できた。また、これまで図版等で全体が紹介されなかった資料のうち、フェリックス・レガメーについて滞日時に制作された絵画作品などギメ美術館所蔵作品13件について調査できた。 在外の法隆寺金堂壁画の模写作品である大英博物館本とギメ美術館本のうち、大英博物館本については、アーネスト・サトウが桜井香雲に依頼制作させたことが知られているが、詳細な調査報告がなされたことがなく、今回の調査により細部の画像資料が得られ、次年度に調査予定の同じく桜井香雲制作の東京国立博物館蔵の金堂壁画模写との比較材料とすることができた。ギメ美術館本については筆者の詳細が知られていないものの、同時代の模写作品として有力な比較材料であることが確認できた。以上のとおり、ほぼ当初の計画どおりの成果を挙げることができた。 国内調査では、アーネスト・サトウが『中部・北部日本旅行案内』編纂のために行なった国内旅行のうち、昨年度の調査で残された奈良県中心部の旅行ルートの現地調査を終えた。これにより重要な宝物類をもつ古社寺が集中する奈良・三重・和歌山のサトウの訪問先をほぼすべて現地調査することができた。フェノロサらによって実施された法隆寺と興福寺の美術品調査について記述のある両寺の執務日記の現地調査については断念せざるを得なかったものの、日本文化研究の一環として敢行されたサトウの国内旅行については、昨年度同様、サトウの関心を知る手掛かりを得られたので、ほぼ順調な研究の進捗状況であると判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度、主要な在米フェノロサ資料の資料調査を完了しのにつづき、今年度はフランスおよび英国の関連資料の調査を実施したので、最終年度(26年度)は以下のとおり残された国内外の調査資料を実施する計画である。あわせて、研究のとりまとめを行なう予定である。 1.海外資料調査:昨年度までに実施できなかったフェノロサ関連資料について、米国フィラデルフィア美術館所蔵のフェノロサ収集日本絵画作品と関連資料、フリーア・サックラー美術館所蔵の書簡等フェノロサ関連資料の現地調査を行なう。 これまで手付かずのドイツ語圏についても、日本美術作品の収集と研究を跡付ける現地調査を行なう計画である。 2.国内調査:今年度までにアーネスト・サトウについては近畿地方の旅行ルートをほぼすべて現地調査することができた。フェノロサについては、余裕があれば、親交のあったウィリアム・ビゲローとともに墓地のある滋賀県園城寺の現地調査を計画する。 また、法隆寺金堂壁画の模写については、今年度実施した大英博物館本の調査を踏まえ、これとおなじく桜井香雲が制作した東京国立博物館本の調査を行なう。 3.研究のとりまとめ:これまでに実施した調査の概要をまとめ、調査結果を研究資料として広く活用できるよう、研究のとりまとめを行なう。できれば、結果を印刷媒体として配布できるよう計画し、実現できるよう鋭意努力する予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当初計画していた米国フィラデルフィア美術館およびフリーア・サックラー美術館のフェノロサ関連資料の現地調査が今年度中に実施できなかったため。 上記のフィラデルフィア美術館およびフリーア・サックラー美術館の二機関においてフェノロサ関連資料の現地調査を次年度に実施する見込みがついたので、未使用金額を含めた次年度(最終年度)交付予定の直接経費の適切な使用に支障はない。
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