2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24520110
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
要 真理子 大阪大学, コミュニケーションデザイン・センター, 招へい准教授 (40420426)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
大久保 恭子 関西外国語大学, 国際言語学部, 教授 (70293991)
前田 茂 京都精華大学, 人文学部, 准教授 (80368042)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 英国 / 児童美術教育 / 自然観 / プリミティヴィズム / モダニズム / 社会進化論 / 創造性 / モダンアート |
Research Abstract |
本研究初年度は、研究基盤となる資料収集を中心に行った。具体的には、研究代表者が再版され国内で入手可能な英国の美術教育者の手になる一次文献(M.Richardson, H.Spencer, J.Mill)ならびに先行研究書を購入したうえで、分担者の前田茂とともに、8月および2月にケンブリッジ大学附属図書館、キングスカレッジ附属モダンアーカイヴを中心として関連文献の複写を行った。その一方で、分担者大久保恭子が、「プリミティヴィズム」の観点から、民族芸術の実見調査から新たな問題を掘り起こすことを目的としてNYメトロポリタン美術館の民族芸術展示を中心に調査し、ブルックリン美術館の民族芸術展示調査との比較を行った。研究従事者3名の情報共有のために、現在前田が文献資料の電子データ化を行っている。 平成24年度7月23日から25日までポルトガルのアヴェイロ大学で、"2nd International Conference Art, Illustration and Visual Culture in Infant and Primary Education: Creative processes and childhood-oriented cultural discourses"が開催され、研究代表者と前田が研究報告を行った。いずれも本研究の準備段階において着想されたものであり、この国際学会は、本調査研究の方向性を確認するうえで重要な機会となった。とりわけ、研究報告時のチェアをつとめた現在のイギリスを代表する教育評論家Eileen Adamsと議論できたことは有益であった。彼女の推進する"power drawing"は、20世紀初頭に考案されたRichardsonの描画教育を想起させるところがあり、19世紀から20世紀における美術教育の影響が根強いことを実感させるものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度である平成24年度は研究従事者が各自分担課題を中心に個別に研究を進めた。研究目的のうち、初年度に遂行すべき国内外の一次資料の複写・収集に関しては再版された図書や大学図書館所蔵の文献を見つけることができたため、概ね達成できたと言える。ただし、それらの先行研究文献に関しては、所蔵が多岐にわたるため、収集・調査にやや時間を要する。入手の途中にあるものとしては、19世紀植民地主義における未開のイメージの形成に関する資料が挙げられる。ロンドン万博・パリ万博前後はとくに、来る20世紀に登場した「プリミティヴィズム」概念を形成した時期と考えられ、注目に値する。自然観と「プリミティヴ」の関連については、研究分担者大久保のゴーギャン研究に代表されるが、本調査研究では、それ以前の言説も射程に入れている。 ポルトガルの国際学会での研究発表は、開始して間もない時期であったとはいえ、本調査研究の中間報告として位置づけられる。この国際学会に参加したことにより、児童教育のなかでもとりわけ描画教育の歴史と現状、理論について国際的な研究動向を把握することができた。 現在、これらの情報を研究従事者の間で共有するために、分担者前田が電子化の作業を行っている。分担者の本務(大学運営の重点化)に配慮し、初年度は電子メールにおける意見交換にとどまったが、電子ツール(SkypeやFacetime)を有効利用して、研究会などで直接顔を合わせる以外に、従事者3名の間で議論できる場を設えることも検討中である。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策としては、研究代表者が4月から9月にかけて英国に滞在し調査を行う。その際、19世紀後半に実際に英国で行われていた美術教育の実践についての資料を入手し、この時期に生じた美術教育の変化を入手した資料に基づいて分析する。具体的には、社会進化論と児童の発達がどこまで並行視されたのかを、社会的ダーウィニズムの文脈から捉えるために、19世紀から刊行されていた関連する専門誌を参照しつつ、アカデミーや専門家向けではない美術教育の実践内容を、Institute of Education, London Univeisity(IOE)やUniversity of East Anglia(UEA)などで調査し、入手した資料を読解する。さらに、初年度で明らかになった一次資料の所蔵先も訪問する。研究代表者に加えて、夏には、研究分担者前田が、IOEで資料調査を行い、資料分析を行う。その一方で、大久保は、植民地政策期における未開のイメージに関して、19世紀の万博と20世紀の美術館における展示形態との比較から解釈を試みる。そこから、20世紀前半の英国の児童美術教育に関して、その思想と実践をモダンアートとの連関から考察し、最後に、本研究のテーマに関連する思想を抽出し、現代の美術教育で頻出する「表現的」「創造的」といった概念を美学的に再検証する。この研究課題を通じて得られた成果は、従事者各自の所属学会で逐次報告するとともに、冊子体の報告書の刊行を予定している。冊子の刊行にあたっては、改めて競争的資金の獲得を目指す。 平成25年度通じて、電子ツールを媒介に従事者3名が進捗状況を報告し合うとともに、後半の10月から3月にかけては、研究会を行い意見交換する。海外から招へいする専門分野における研究者については、従事者の間で現在確認中であり、公開研究会は、準備の都合により最終年度に開催を延期する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度は上記の通り、海外調査に重点を置いているため、研究代表者と研究分担者の旅費を多く計上している。
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