2012 Fiscal Year Research-status Report
敵討ち物実録の流布および他ジャンル文芸への影響と、実録の「事実」性に関する研究
Project/Area Number |
24520219
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Fukuoka University of Education |
Principal Investigator |
菊池 庸介 福岡教育大学, 教育学部, 准教授 (30515838)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 日本近世文学 / 実録 / 敵討ち |
Research Abstract |
本年度は、まず未発掘の敵討ち物実録のリスト作成に着手した。敵討ち物実録に関連するキーワードを複数設定し、国文学研究資料館の「日本古典籍総合目録データベース」を中心とした目録類から敵討ち物実録作品を検索し、未見のものをチェックしていった。加えて、実録以外の敵討ち物についても、実録との関連する可能性のあるものについては、同じくチェックしている。 敵討ち物実録と他ジャンル文芸との関係については、「七北田の敵討ち」を題材とした実録に注目し、それを素材にした絵本読本『絵本誠忠伝』との比較を通じ、絵本読本がどのように工夫して実録の内容を改めているかを分析した。さらに「七北田敵討ち」の実録と、歌舞伎「敵討安永録」の内容上の共通点を明らかにし、この歌舞伎が実録を素材としていることを指摘し、実録と他ジャンル文芸との関わる事例をあらたに加えた。これらについては『鯉城往来』第十五号(平成24年12月刊・広島近世文学研究会)にて発表している。 このほか、これまで作品名のみ知られていながら、所在のわかっていなかった敵討ち物の浮世草子『敵討会稽錦』の書誌的事項を調査して、翻刻を行った。この作品は実録とは異なるが、実際の事件をモデルにした可能性も考えられること、吉文字屋本浮世草子の研究は浮世草子研究の領域では手薄であり、『敵討会稽錦』を含め、伝本所在不明のものがまだ残されていることから、翻刻紹介の意義があると考えている。この作品の翻刻は、近日発表予定である。 また、調査の過程で「久留米騒動物」の実録に注目し、本文のバリエーションがあることを明らかにし、本文系統の整理と内容分析を行っている。同様に、調査の過程ではこれまで明治期の活字本でしか存在がわからなかった「大岡政談・鯨論」の写本を見つけ出し、内容上の特色について論じた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の今年度の目標は、基礎資料の整備であり、未発掘の敵討ち物実録のリスト作成を中心として、さらに、そのリストに基づいた実地調査、データ入力・梗概作成、他ジャンル文芸との比較・検討、内容吟味を行うというものである。 これらのうち、リスト作成については、確実にチェックしておくべき機関の目録・データベースの類からの摘出はほぼ終えており、次年度はさらなる情報の収集につとめたいと考えている。 いっぽう、実地調査・データ入力・梗概作成については、今年度は基礎資料の整備を優先したことや調査先との日程調整が難航したため、やや遅滞している状況である。 他ジャンル文芸との比較検討、実録の内容吟味については、「七北田の敵討ち」を題材とした実録をもとに行うことができ、ある程度の達成はできた。だが、他の事例も加えられる方が望ましく、今後も新たな事例の発掘をしていきたい。 以上の状況を総合すると、おおむね順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は、今後、作成した敵討ち物実録のリストに基づき、積極的に実地調査を行い、データを作成するとともに、梗概をまとめ、内容を分析し、他ジャンル文芸の資料と突き合わせていく予定である。次年度は、とくに実地調査が中心となるので、敵討ち物実録を多数所蔵しているところで調査日程の調整しやすいところを先に行っていくこととし、効率的に計画を進行させていきたい。調査した実録を一読のうえ梗概を作成することは、時間を要することであるため、その対策として、基本的には、内容上本筋とは関係ない部分を除き、要所をまとめていくことにする。脇筋に相当する部分は、ごく簡単にあらましを記すにとどめることで、計画の遅滞を回避していきたい。 また、収集した実録と、他ジャンル文芸との比較は、たとえば作品名の類似や登場人物名の類似などを手がかりに、双方を突き合わせて、影響関係のみられるものを探しだしていく予定である。影響関係がみられるものについては、両者の共通項を抜き出し、対照表を作成していきたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
今年度は、調査先との日程調整がうまくいかず、調査に行くことが出来なかった場所があったことや、購入を予定していた資料が、在庫切れのために購入できなかったことから、次年度繰越の研究費が生じている。そこで、次年度分の予算については当初の予定に添って使用し、繰り越し分の予算については、実地調査の旅費として優先的に充てていく計画である。また、あらたにデータ整理用のパソコンソフトを購入する必要も生じてきているため、それにも充当していく予定である。
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Research Products
(3 results)