2012 Fiscal Year Research-status Report
アイルランドのナショナリズム:ヤング・アイルランドから復活祭蜂起を軸として
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24520320
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
三神 弘子 早稲田大学, 国際教養学術院, 教授 (20181860)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
清水 重夫 早稲田大学, 法学学術院, 教授 (00130873)
及川 和夫 早稲田大学, 教育・総合科学学術院, 教授 (50194056)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | マーフィー、トム / バリー、セバスチャン / 復活祭蜂起 1916 / バラッド文学 / ヤング・アイルランド / 伝承音楽 / ジョイス、ジェイムズ / 『ユリシーズ』 |
Research Abstract |
三神は、マーフィーの『パトリオット・ゲーム』(1991初演)の1965年のタイプ原稿と最終稿を比較することによって、マーフィーの復活祭蜂起に対するスタンスがどのように変化したか、アイルランド社会の復活祭蜂起に対する評価の変遷と並列させながら考察した。また、1992年に初演された、バリーの『白人女通り』は、アメリカのオハイオ州を舞台に、復活祭蜂起の1916年に時代が設定されている。このように、全くアイルランドから離れたコンテクストを設定することによって、復活祭蜂起を新しい視点で見る可能性について検討した。 清水は、ジェイムズ・ジョイスの「エッセイ集」(The Critical Writings of James Joyce)中の「パーネルの影」、「フィニアニズム」に関して、検討を行った。さらにジョイスが関心を持つ19世紀末の政治運動について、新しくアイルランドに赴任した総督と次官を殺害した「フィーニックス・パーク殺人事件」(1882年5月6日)といった歴史的事件を文献に従って後付け、検討を行い、『ユリシーズ』との関連を中心に考察した。 及川は、民族主義的傾向をもち、ヤング・アイルランドの活動拠点でもあった『ネイション』紙において、特異な活躍をし、第一次『ネイション』紙瓦壊の要因のひとつともなったジェイン・フランセスカ・ワイルド(スペランザ)の詩を中心に取り上げ、政治情勢、大飢饉と文学、とりわけバラッド文学との関係を考察し、さらに、一見対照的な息子のオスカー(ワイルド)の文学との共通項を探った。また、1970年代以降、伝承音楽を積極的に復興させたグループ、プランクシティの業績を音楽社会学的に考察し、その活動が現代アイルランド音楽全体に与えた影響を解明した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
及川が担当している19世紀に関しては、オコンネルのリピール運動の挫折と大飢饉、ヤング・アイルランドの離反と蜂起の失敗などの政治的、社会的出来事が19世紀アイルランド文学と不可分に結びつき、独自の政治的態度と文学的進展をもたらした点が解明された。またバラッド文学と伝承音楽が時代の流れに対応しつつ、アイルランド人のアイデンティティの形成とその発展に大きく関わってくることが具体的に明らかとなった。(2つの論文として完成・出版済み) 清水が担当する19世紀末に関しては、ジョイスの散文を中心に、彼をとりまく文化的、歴史的文脈をあきらかにした。また、ジョイスの政治的スタンスが、一般市民のそれとどのように異なっているかについても検討した。(現在論文準備中) 三神は、復活祭蜂起(1916)に対するアイルランド社会における評価の変遷をたどり、その評価が最も低かったと思われる1990年代はじめに初演された二つの劇作品をとりあげることによって、マーフィーとバリーという劇作家が、社会の大半の見方とは異なった視点を提示していることをあきらかにした。マーフィーは、復活祭蜂起を無視するのではなく、実際に起こったこととして受け止めようというスタンスを提示し、バリーはアメリカで、インディアン戦争に参加し、インディアンの大量殺戮に荷担したアイルランド人を描くことで、1916年という年の異なった意味を提示している。(現在ジャーナルに投稿中)
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Strategy for Future Research Activity |
三神は、24年度に、当初計画になかったバリーの作品『白人女通り』の分析・検討を行ったため、25年度は、マッケイブの『騎手を引きずり下ろせ』(1966)の検討と、ジョンストンの『シャドーダンス』(後に『老婦人は否とおっしゃる』と改題)(1929)をオケイシーの『鋤と星』(1926)と比較検討する作業を並行して行う。復活祭神話が神話化されていったプロセスにおいて、劇作家たちがどのような形で神話の解体を試みたか、検討する。 及川はジェイムズ・クラレンス・マンガン、サミュエル・ファーガスンらの詩と、ジョージ・ピートリー、ジョン・オドノヴァン、ユージン・オカレーらの民俗学、考古学研究の関係を究明し、ウィリアム・バトラー・イェイツ、グレゴリー夫人、ジョン・ミリントン・シングらの作品にどのように橋渡しされていったかを考察する。ピートリーの『ダブリン・ペニー・ジャーナル』などを参照する。 清水は、当初の計画の順番を変更し、ジョン・モンタギュの詩、フラン・オブライエンの散文にみられる政治的言説の分析、検討を行い、二人の作家を文化的政治的文脈に位置づける。また、19世紀後半以降、アイルランド人にとって大きな選択肢であった移民の問題をとりあげ、アメリカに於けるIRBの活動、フィニアンの政治活動に関して検討を加える。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
三神は、59万円の予算のうち、9万円を資料購入に充て、50万円を2014年2月に行う、アイルランドへの研究出張に充てる。出張に際し、アイルランド国立中央図書館、アベーシアター・アーカイブなどで資料収集を行う。また、ダブリンでは『白人女通り』の初演の演出を担当したキャロライン・フィッツジェラルドにインタビューを実施する予定。 及川は、予算は63万円の予算のうち、20万を資料購入にあて、43万を2014年3月に行うアイルランドへの研究出張にあてる。出張に際し、アイルランド国立図書館、UDC図書館などで資料収集を行い、UCDでアン・フォガティ教授やマシューズ講師と研究について報告、討論し、研究打ち合わせを行う。 清水は、23万円の予算を、主に資料購入に充てる予定。 10月にはアイルランド、ユニバーシティ・カレッジ・ダブリン(UCD)のP・J・マシューズ講師を招聘し、講演を依頼する予定。
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Research Products
(2 results)