2012 Fiscal Year Research-status Report
意味・統語・形態の総合的観点から行う古代日本語の副助詞の研究
Project/Area Number |
24520508
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | University of the Sacred Heart |
Principal Investigator |
小柳 智一 聖心女子大学, 文学部, 准教授 (80380377)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 副助詞 / 言語変化 / 文法変化 / 文法化 / 機能語 |
Research Abstract |
まず、日本語の副助詞研究史に関する研究を行った。その結果、副助詞を副詞との関連で捉え、両者に意味的な共通性を認める視点が、中世の秘伝書『姉小路式』とその注釈書に見られる「たましゐをいれべきてには」という項目に見出され、これと同型の視点が現在の副助詞研究まで続き、それらを繋ぐことで副助詞研究の系譜が描けることを明らかにした。成果は論文にまとめ、「たましゐをいれべきてには―副助詞論の系譜―」(日本語学会『日本語の研究』9-2、pp.1-15、2013.4)として公刊した。 次に、副助詞を含め、さらに広く文法変化一般について基礎となる研究を開始した。これは、副助詞を個別的な研究で閉じず(特別視せず)、大きな視座を設けてその中で公正に研究するために有益である。この研究では、(a)言語変化の段階をどのように設定し、変化の要因としては何を考えるべきか、(b)近年の研究で頻用される「文法化」という用語は、指す内容が均一でなく、曖昧さを含み漠然としているので、現象を精確に把握するためには再整理が必要であり、それをどのように整理するべきか、(c)文法変化にはどのような種類があるか、などの問題を取り上げ、歴史的な文法変化の基礎となるべき理論を構築することを目指す。その成果の一部は論文にまとめ、「機能語生産―文法変化の種類I―」(国学院大学国語研究会『国語研究』76、pp.60-72、2013.2)、「言語変化の段階と要因」(東京学芸大学国語国文学会『学芸国語国文学』45、pp.14-25、2013.3)として公刊した。文法変化に関する研究は、文法研究全般にとって根本的で切実な課題である。この基礎的な研究を踏まえた上で、あらためて副助詞を考察することによって、これまで以上に明確かつ微細な観察・記述ができると期待される。なお、射程の広さは日本語だけに止まらない。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
今年度当初に立てた研究計画では、(1)副助詞研究史に関係する文献の収集と整理、(2)中古の第2種副助詞「さへ」の用例採集と点検、(3)古代語の第2種副助詞「だに」「すら」の用例採集と点検、を行うことになっていた。このうち、(1)については文献の収集と整理だけでなく、文献資料の内容を検討して考察を行い、論文として査読付きの全国学会誌に公表するところまで進めることができた(「たましゐをいれべきてには―副助詞論の系譜―」日本語学会『日本語の研究』9-2、pp.1-15、2013.4)。当初の計画を大きく上回って達成できたと判断する。なお、(2)(3)については進行中である。 また、当初の計画にはなかったことだが、上記の作業を進める過程で、文法変化一般について基礎的な研究を行う必要性を痛切に感じるようになった。そこで、新たに、文法変化についての研究を開始することにした。当面の課題としては、(a)言語変化の段階と要因として何を考えるべきかという一般的な条件を明らかにすること、(b)近年盛んに取り上げられる「文法化」の内実を吟味して曖昧さを排し、より広い範囲を覆うものとして再整理を行うこと、(c)文法変化の種類としてどのようなものを立てるべきかという原理的な基準を明らかにすること、である。このうちの(a)と(b)については一定の成果を得て、2つの論文として公表することができた(「機能語生産―文法変化の種類I―」国学院大学国語研究会『国語研究』76、pp.60-72、2013.2、「言語変化の段階と要因」東京学芸大学国語国文学会『学芸国語国文学』45、pp.14-25、2013.3)。次年度以降に行う研究の準備が着実に進められたと思われるので、大きな進展であると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の研究計画通り、古代語の副助詞「さへ」「だに」「すら」の用例の採集と点検を地道に行う。また、それらの用例を分析して個々の副助詞について研究した後、これまでに行った他の副助詞の研究とも合わせて、副助詞全体を意味・統語・形態の観点から考察を行う。 その一方で、今年度新たに設けた課題である、文法変化一般についての基礎的な研究を進める。後者の研究は事の性質上、副助詞研究にも大きく関わるので、しばらくはこの文法変化の研究に重点を置くことになる。 まずは継続して、上記(c)の課題(文法変化の種類としてどのようなものを立てるべきかという原理的な基準を明らかにすること)に取り組む。種類分けを行う場合には、任意に類似した現象を列挙するのでは、恣意的でかつ漏れがあるかもしれないので、あまり意味がない。明確な基準に基づき、論理的にこれで尽きるという分類を示さなければならない。そのような分類の基準を追究する。次に、(d)文法的意味はどのように創出され変化するかという一般的な傾向を明らかにし、それに対して妥当な解釈を示すこと、という課題に取り組む。文法変化の一般的な傾向は、通言語的な研究の中でいろいろなことが指摘されているが、それについての解釈(なぜそのような傾向が見られるのか)は十分に行われていない。事実をどのように解釈するかは、物事を理解する上で最も重要な知的作業であり、それを疎かにしては深い理解を阻むことにもなる。そうならないためにも、妥当な解釈を追究する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
今年度は環境的な面で整わないことがあったため、研究推進のために必要な機材(具体的にはパソコンと周辺機器)および文献資料などを十分に購入することができなかった。また、他の作業や業務との調整がつかず時間的な制約が大きかったために、資料収集や、研究に関する意見交換および学会参加のための出張を思うように実施することができなかった。以上のような理由で、研究費の一部を次年度に繰り越すこととなった。繰り越した今年度分の研究費と次年度新たに交付される研究費とを合わせて、次年度は今年度購入を計画していた機材および文献資料と、次年度購入を計画している文献資料を購入し、また、当初の計画通り、資料収集や、研究に関する意見交換および学会参加のための出張を実施することを計画している。
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Research Products
(3 results)