2012 Fiscal Year Research-status Report
アカデミック・ライティングを指導する大学院生チューターの指導実践と意識の変化
Project/Area Number |
24520588
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
太田 裕子 早稲田大学, オープン教育センター, 助教 (50434353)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
佐渡島 紗織 早稲田大学, 留学センター, 准教授 (20350423)
ドイル 綾子 早稲田大学, オープン教育センター, 助手 (80595835)
冨永 敦子 早稲田大学, 人間科学学術院, 非常勤講師 (60571958)
BOYD J・PATRICK 早稲田大学, オープン教育センター, 助手 (50449328)
澤 正輝 早稲田大学, オープン教育センター, 助手 (30608930)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | ライティング・センター / チューターの意識 / アカデミック・ライティング / 新人とベテランの比較 / PAC分析 / 研修ワークシート分析 / チューターの成長 / チューター研修 |
Research Abstract |
ライティング・センターで文章の対面個別指導(セッション)を行う大学院生チューターの意識を明らかにするために、次の研究を行った。 I. 新人研修ワークシートの分析 新人チューターが直面する課題を明らかにするために、日本語チューター9名の新人研修ワークシートを分析した。その結果、新人チューターは、書き手主体の文章作成を実現する対話やセッションの構成など、チューターの働きかけに意識を向けていたが、書き手の視点や、理念を実践するための具体的な方策にはあまり意識を向けていないことが明らかになった。 II. 個人別態度構造(Personal Attitude Construct: PAC)分析 セッション中、チューターがどのような点に意識を向けているかを明らかにするために、PAC分析を行った。ベテランおよび中堅日本語チューター2名の比較では、両者が書き手とのやりとり、セッション全体、文章に関わる要素に注意を向けていることがわかった。新米とベテランの日本語チューター各4名を比較した結果、書き手の主体性を尊重し、対等な関係を築くことを重視していた点、対話に関する工夫や配慮に数多く言及していた点は、共通していた。一方、ベテランが書き手の観察、および書き手に合わせた働きかけに数多く言及していたのに対し、新人は全く言及していなかった。母語の異なる英語チューター3名を比較した結果、書き手の言語・文章力、状況をよく観察し、それに合わせた働きかけを心掛けている点が共通していた。一方、日本語母語話者チューターは書き手の考えを引き出すための工夫に言及したが、他の2名は言及しなかった。また、ベンガル語母語話者チューターは自身の英語力に対する書き手の評価や期待に言及したが、他の2名は言及しなかった。これらの結果から、英語チューターの意識は、書き手のレベルや状況、期待によって大きく影響を受けていることが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
24年度の研究計画は、チューターの意識の変化という観点からチューターの成長を考察することを目的としていた。計画では、分析対象とするデータを(1)新人研修ワークシート、(2)学期末の振り返りシート、(3)卒業チューターによるプレゼンテーション記録、(4)卒業するチューターへのインタビュー記録としていた。 24年度に実施した研究は、(1)、(2)の分析であり、(3)、(4)は分析していない。しかし、申請時には計画していなかった研究手法、PAC分析を用いた研究を推進した。この手法を用いて、チューターの意識を経験期間や母語などの属性によって比較することによって、チューターの意識の構造をより詳細に、かつ精密に分析することが可能となった。その結果、日本語チューター、および英語チューターそれぞれの意識を、把握することができた。 新人研修ワークシートの分析、およびPAC分析の結果は、すでに論文誌(1編は刊行済、1編は掲載予定)や学会の場(1件は発表済み、1件は発表予定)で公表済である。1年間で複数の研究報告を行うことができたので、研究計画は順調に進展しているといえる。 一方、チューターの意識が変化する要因についての分析は、まだ着手できていない。この点は、ベテラン・チューターへのインタビュー等により明らかにする必要がある。また、研究計画にはなかったが、研修を担当するスタッフの意識についても調査を行った。この調査結果の分析と発表も、今後の課題である。
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Strategy for Future Research Activity |
25年度は、大学院生チューターの指導実践とその変化を質的に分析することによって、チューターはどのようにアカデミック・ライティング指導実践を行っているのか、それは時間とともにどのように変化するのか、という課題に答える。分析するデータは、セッション音声文字化原稿である。分析は個人ごと、勤務期間グループごと、担当する文章の言語ごとに行う。個人ごとでは、勤務期間が3 学期以上のチューターを対象に、新人時代からの指導実践の変化を縦断的に分析する。勤務期間グループごとでは、勤務期間による指導実践の特徴を分析する。担当する文章の言語ごとでは、日本語チューター、英語チューター、さらには、日本語教育を専門とする日本語チューターとそれ以外の日本語チューター、日本語を母語とする英語チューターと日本語を母語としない英語チューター等のように、チューターの属性ごとに指導実践の特徴を分析する。 先行研究で行ったセッション分析のコードを精査するとともに、24年度に行ったチューターの意識に関する質的分析結果から、チューターの指導実践における成長を捉えるために有効なコードを開発する。平成25 年度後半には、開発したコードを用いて、一部のセッション会話を対象にコーディングを試行し、その妥当性を検討する。試行は20 セッション分程度行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
24年度の研究において使用しなかった79,427円を、25年度に使用する予定である。 24年度において残額が生じた理由は、セッション音声文字起こしにかかる委託費が、当初の見積もりよりも少額で済んだためである。その背景には、23年度まで利用していた企業よりも安く文字起こしを行う企業に委託するようになったこと、文字起こしにかける時間を十分にとったために、費用が抑えられたことがある。 24年度の残額は、25年度の旅費に使用したい。24年度の研究が順調に展開しており、25年度には、さらに多くの研究成果を発表できると考える。また、25年度からは、新たな研究分担者(大野真澄助手)を加える予定である。大野助手は、英語アカデミック・ライティングを専門としており、第二言語ライティングや英語教育に関する海外での学会にも積極的に参加している。大野助手が分担者に加わることにより、本研究課題の研究成果を、英語教育、第二言語教育の分野においても公表することが可能となる。研究計画時には、海外での研究成果公表は26年度まで予定していなかったが、24年度の残額79,427円を補填することによって、25年度にも海外の学会において研究成果を公表したい。
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Research Products
(5 results)