2014 Fiscal Year Annual Research Report
室町幕府体制下の地方禅宗による「正統と実力」及び「中央と地方」の統合に関する研究
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24520752
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
斎藤 夏来 岡山大学, 教育学研究科(研究院), 准教授 (20456627)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 石見安国寺 / 備中宝福寺 / 備後中興寺 / 室町幕府 / 室町武士 / 禅宗 / 五山制度 / 兵農分離 |
Outline of Annual Research Achievements |
中世叢林に関わる既刊・未刊の古文書、寺誌、地誌の調査収集について区切りをつけるべく、東京への出張調査を複数回おこなった。主な内容であるが、東京大学史料編纂所で、浄福寺由緒書、伊甘山安国寺由緒抜粋(東福寺文書40)、結城御代記、居初文書、法雲便覧雑記など、内閣文庫で銀山記、浦上宇喜多両家記など、国会図書館で新市町史(備後中興寺関連)などを調査した。 中世叢林の史料について、上記のような出張調査や文献読解等で得られた情報について、室町期の同時代世俗史料、同時代禅宗教団史料、後世の寺誌・地誌類におおよそ三分類し、これらの史料群の相互関係を考察し、石見安国寺、備中宝福寺、備後中興寺の事例を中核とした論考二編を執筆、公表した。そこで得られた理解の概要であるが、従来の室町期禅宗檀越のイメージは、鎌倉時代の地頭御家人の系譜をひくような有力武士であり、たしかに関東ではそのような事例が継続しているが、中部・西国の荘園史料を丹念に読み込んでみると、武士といえるかどうか微妙な中間層というべき名主・百姓層が、叢林の檀越として、自らの利害を幕府に主張していると解釈できる事例を見出せた。さらに、禅宗とは武士の宗教だという通念と照らし合わせてみると、従来の室町時代論において、「室町武士」とはどのような存在であるのか、鎌倉期の地頭御家人は基本的に没落しているという事実をふまえた自覚的な議論はほとんど行われてこなかったのではないかと気づき、室町期の在地勢力は禅宗ないし叢林の檀越となることで、室町幕府につらなる武士となれたのではないか、との仮説的な見通しを提示できた。このような見通しに立つことで、かつて尾藤正英が試みたような兵農分離政策の思想史的な検討を再開できるのではないか、と考えられる。
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