2012 Fiscal Year Research-status Report
近世後期における藩財政像の再構築-藩有資産の構造と運用の研究-
Project/Area Number |
24520759
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Saga University |
Principal Investigator |
伊藤 昭弘 佐賀大学, 地域学歴史文化研究センター, 准教授 (20423494)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 藩財政 |
Research Abstract |
本年度は1)佐賀藩の藩札研究、2)松代藩財政分析、3)大名貸関係史料および松江藩財政史料の収集、4)旧藩貸付金に関するデータ整理、5)藩財政研究論文収集を実施した。 1)は、佐賀県立図書館所蔵「鍋島家文庫」「蓮池鍋島家文庫」「西原家資料」の調査を実施し、その成果をもとに近世中後期に佐賀藩が発行した「米筈」という藩札について、特に藩財政との関係を分析、『佐賀大学経済論集』45-6に「佐賀藩における紙幣発行」と題する論文を発表した。2)は、松代藩に関する財政史料(収集済み)を分析した。 3)は、大阪大学日本史研究室所蔵「山中栄三郎家文書」の調査のほか、同経済学部所蔵「鴻池善右衛門文書」の予備調査を実施した。その結果前者には松江藩との貸借に関する史料を収集し、後者では佐賀藩・松江藩に関する史料の存在を確認、次年度調査ノ予定である。また松江藩の財政に関する史料の収集も実施した。特に松江藩の資産状況がわかる史料をの分析をすすめた。 4)は、国立公文書館が所蔵する旧大蔵省公文書にある、「旧藩貸付金」(諸藩が領民などに融資した金銭)の調査に関する史料をデータ化し、今後藩有資産研究をすすめる上での基礎データを構築した。 5)は、全国諸藩の藩財政、特に収支データを掲載した論文を収集・分析した。収支が赤字である例はさほど多くなく、藩の財政窮乏という議論には、実はデータによる裏付けが極めて少ないことが判明した。 以上が本年度の成果だが、1)は佐賀藩財政を研究するにあたり藩札との関係を考えるうえで重要であり、藩札研究においても藩財政との関連を指摘した点は特徴である。3また4)は、藩財政の窮乏という一般化された議論が実は曖昧な前提に基づいている事実を明らかにし、藩財政窮乏に疑問を呈し、藩有資産の存在に注目する本研究の意義を裏付けるものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
佐賀藩については史料収集・分析が順調にすすみ、成果(論文)も発表した。松代藩についても収集済みの財政史料を分析し、藩有資産の構造を明らかにできた。 また、計画では次年度に予定していた松江藩の財政史料も調査をすすめ、同藩の保有資産状況や資産運用の実態を分析できた。そのほかこれも計画外だが、「山中栄三郎家文書」「鴻池善右衛門文書」の調査・予備調査により多くの関係史料を収集・所在確認でき、次年度の調査に向けた準備ができた。 以上のような個別藩の事例の調査研究のほか、藩財政研究の研究史の洗い直しをすすめ、藩財政窮乏論の根拠が脆弱なことを突き止めた点は、今後の研究進展にむけ大きな成果である。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の成果をもとに、松江藩・熊本藩の財政に関する史料調査・収集・分析をすすめる。 松江藩については、島根県立図書館所蔵「島根県庁文書」ほか松江藩関係史料、松江市歴史館所蔵「三谷家史料」(松江藩家老家の文書)の調査・分析をすすめ、同藩の幕末期の資産運用や専売制と繁税制の関係について分析する。 熊本藩については、熊本大学所蔵「永青文庫」を中心に調査をすすめる。「永青文庫」には藩が作成した財政史料(単年度収支など)のほか、地域支配を担当した大庄屋や郡奉行の記録に藩の資産運用(農民への貸付や投資)の実態が記されており、こうした史料の分析をすすめる。 また本年度も調査を実施した「山中栄三郎家文書」には松江藩、所在調査を実施した「鴻池善右衛門文書」には松江藩・熊本藩(・佐賀藩)への融資に関する史料が遺されており、藩に資金を融通する商人の目からみた諸藩の財政状況や、藩と大名貸商人との関係について分析する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
東京立川市の国文学研究資料館にて「松代藩真田家文書」の調査を2~3月に予定していたが日程が調整できずに実施できなかった。そのため次年度に2泊3日程度の調査を実施し、本年度計画にあげている松代藩研究の補充調査とし、翌年度以降の研究費は計画通り松江藩・熊本藩研究および藩有資産研究とりまとめに使用する。
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Research Products
(1 results)