2012 Fiscal Year Research-status Report
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24520780
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
赤澤 史朗 立命館大学, 法学部, 教授 (80202513)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中島 茂樹 立命館大学, 法学部, 教授 (10107360)
小関 素明 立命館大学, 文学部, 教授 (40211825)
福井 純子 立命館大学, 文学部, 非常勤講師 (60460713)
梶居 佳広 立命館大学, 経済学部, 非常勤講師 (60537306)
城下 賢一 立命館大学, 文学部, 非常勤講師 (70402948)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 1960年代 / 政府・憲法調査会 / 改憲論 / 護憲論 / 地方紙 / 論説 |
Research Abstract |
研究成果としては、憲法学者渡辺治氏を招聘して「50年代改憲論と現代の改憲論」の報告と討論を行ったことが一つである。渡辺氏は憲法史の専門家であり、現代の改憲論の中にある新しい国家構想と比較して、1950年代改憲論の復古的性格が、戦後の国民意識との乖離と反発を招いたと位置づけたが、討論参加者からは50年代の国民の憲法問題への関心の低さが、改憲の制度的なハードルの高さもあって、改憲を阻止する役割を果たしたのではないかとの意見が出された。また赤澤史朗「1950年代の軍人恩給問題(2・完)」では、この時期の平和問題に関連して、1950年代の軍人恩給増額の動きへの抑制や批判が貫徹できなかった経過を説明し、梶居佳広「「憲法問題」に対する新聞論説の変遷について(1952-1964年)」は、憲法関連地方紙論説の詳細な時期別の変化を追ったものである。そして新聞紙掲載の政治漫画に関する福井純子「一コマ漫画の諸問題」は、海外との比較を含めた広い視野で戦後の政治漫画の問題点を摘出している。ともに着実に研究の基礎を固める報告といえよう。 当該期の憲法問題に関する地方紙論説の収集も進んでいる。すでに収集を終えた新聞は、北海道新聞・東奥日報・秋田魁新聞・中部日本新聞・高知新聞・福井新聞・西日本新聞など14紙を数え、収集途上の新聞(憲法記念日論説のみ収集など)も13紙に及んでいる。 しかし収集した経験によると、この時期の憲法に関する論説は非常に少ないといえよう。論議は政府の憲法調査会での論議と動向に限られている。この時期は憲法関係訴訟が多発する時期だが、憲法解釈に関連する判決では、砂川基地問題の伊達判決、1960年の公安条例最高裁判決が、比較的新聞の関心を引く程度で、朝日訴訟の第二審判決に言及したものが散見されるくらいである。社会問題が憲法問題として考えられていないことを示すものといえよう。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
新聞論説の収集作業が、北海道新聞・中部日本新聞・西日本新聞などいわゆるブロック紙の一部を含めて、その他東北地方を中心に一県一紙の代表的な新聞を収集し、比較的順調に進展していることが、判断した第一の理由である。3年間で収集する予定の地方紙論説の、約4割近くをすでに収集したと言えようか。しかし前述の通りこの時期の論説は少ないので、収集に苦慮している面もある。 また、研究会での研究活動も、平和問題関連の研究、地方紙論説の動向、新聞紙上の政治漫画の問題点など多方面に及び、ある程度活発に行われていると評価できることがその理由である。そしてこの時期の憲法問題に関する地方ジャーナリズムや国民意識についての特徴も、一定の見通しが生じつつあるといえよう。 ただし憲法の人権条項に関する国民意識の進展と高まりの予測に関しては、やや過大評価であったかとの感想も抱いている。やはり憲法は国民にとって遠いものと感じている人が多かったのであり、新聞での報道も憲法調査会に関するものが多く、議会の論議も憲法について言及される場合には、憲法調査会に関する質問が多かった。国民の日常生活と意識に結びついて憲法が議論されることは少なかったと言えよう。
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Strategy for Future Research Activity |
なるべく平成25年度中に、1950年代後半から60年代前半にかけての全国の地方新聞の憲法問題に関連する論説の収集をほぼ完成させたい。そして平成26年度には補充調査に限る方向で、地方紙収集計画を進めたい。この時期の憲法問題での論説は少ないが、中には特徴的な論説もある。その上で新聞論説の分析を進めたいが、しかしすでに我々の過年度の研究で指摘されているように、共同通信配信の論説またはそれを一部修正した地方紙論説も増えている。また今後もこれまでの成果を踏まえて、研究代表者・研究分担者それぞれの目標とする、各自の研究活動を活性化させたい。 そしてこの時期に、明文改憲を目指していた勢力が後退し、改憲派が主導していたはずの政府の憲法調査会の主潮流が大きく反転し、憲法改正が当面の政治日程から遠のいた過程を考察したい。と同時に今日においては護憲派の一部と見なされている、保守本流勢力の成立の根拠も明らかにしたい。保守本流勢力は、いまや保守の中ではほとんど少数派に転落しているが、むしろ改憲論が少数派となった当該期と、今日の安倍政権下での改憲論との共通性と差異性を検討したい。 平成26年度には、これまでの研究成果をまとめ、報告書を完成させたい。報告書は当該期の憲法問題・憲法史の論説と地方紙論説の資料集からなる、二部構成のものとしたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
昨年度はかなりの出張計画を立て、もっと多くの新聞論説の収集を行う予定だったが、マンパワーが当初予定より動員できず、出張費の翌年度回しの金額を一部で生むこととなった。特に関西地域での新聞の論説を収集する計画が、未進展であるので、次年度はこの前年度の一部予算も含めて、数多くの出張を行い、残りの地方新聞論説の収集に努めたい。そうした中で、例えば憲法25条の生存権を争った朝日訴訟と、原告の朝日茂の居住地である岡山など、地方独自の論説もあることを期待したい。 また計画的に予算を使って、各自の設定した目標である研究を進展させたい。具体的には、憲法の予想し期待した統治機構論とその運用実態、政治思想上の国民主権の持つ意味や矛盾、象徴天皇制の大衆天皇制への変容と報道規制、日本国憲法の平和論と平和運動への影響、戦後日本のジャーナリズムと政治漫画の問題点、外国(英米)などから見た改憲論、憲法論議と社会民主主義の潮流との関係などを検討し、広い視野に立って憲法論議の持つ意味を考えたい。特に現在の憲法論議を意識しつつ、この時期独自の問題性を摘出したい。
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Research Products
(7 results)