2013 Fiscal Year Research-status Report
19世紀中葉の欧米列強によるアジア戦略とそのネットワーク形成過程の解明
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24520843
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Research Institution | Tenri University |
Principal Investigator |
小暮 実徳 天理大学, 文学部, 准教授 (90537416)
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Keywords | アメリカ合衆国ニューヨーク・シティカレッジ / 『タウンゼント・ハリス個人文書・書簡集』 / 19世紀中葉の欧米列強によるアジア戦略 / マリオ・コセンザ / 日米交渉史 / 幕末外交関係史 |
Research Abstract |
本年度は、当初の計画である米合衆国ニューヨーク・シティカレッジ所有の初代駐日アメリカ弁理公使タウンゼント・ハリス未出版個人文書『タウンゼント・ハリス個人文書・書簡集』に含まれる「ハリスの手紙」に集中した。本計画内では、この貴重な未公刊史料を翻刻し出版する計画も有し、そこからまず、「ハリスの手紙」の翻刻作業を行った。この作業が首尾よく行えたので、同史料集が含む他の史料、ハリス発信文書の控えである「ハリスの手紙控」の翻刻も進めた。 この作業を進める中で生じた問題点を解決し、また同文書の版権を有するシティカレッジと出版について交渉するため、現地に渡航した。版権の問題では、同大学副学部長図書部門主任ギレスピー教授と話し合いを持ち、前向きな話を伺えた。更に同教授と、同大学が所有する他の関係史料、同大学文学部長故マリオ・コセンザの未刊行原稿「日本の友」に関する話し合いから、この未公刊著作の出版に向けた作業も始めた。この原稿を全てデジタル化し、オランダ渡航の際、日本研究家でもあるライデン大学スカリヒャー研究所所長ブイケルス教授、またアジア外交史家のクリンゲンダール研究所ファン・デル・プッテン博士に提出し、意見を求めた。この理由は、ハリスがアメリカではほとんど無名であり、そこで同地では、彼に関する業績が正当に評価され難いと思われたこと、その一方ライデン大学は日欧交渉史の長い伝統をもち、ここから当地には日欧関係研究著作を進んで出版する出版社も存在するからである。 本研究期間、多くの現地研究協力者の方々にお会いでき、現在の関連研究状況や、相互の研究に関する意見交換等に関して、話し合いを持てたことは、非常に重要であり、また自身の研究動機にも、大きな刺激を受けることが出来た。このような経験は、学際的国際交流の点で極めて意義深かった。この貴重な時間を持てたことに、記して感謝致したい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の研究計画では、『タウンゼント・ハリス個人文書・書簡集』に含まれる、ハリスが当時アジアに訪問・滞在した同国人や各国要人と行った往復書簡「ハリスの手紙」に集中し、その分析・検討もさることながら、この貴重な未公刊史料を翻刻し出版する計画を有していた。ここからまずこの作業を始めた。この作業が首尾よく行えたこと、また史料集出版を考慮した際、同史料集全体を出版するほうが一層望ましいことから、更にハリスによる発信文書の控え「ハリスの手紙控」も翻刻を始めた。 この作業であるが、「ハリスの手紙」では、A4サイズで約580枚、そして「ハリスの手紙控」では、同サイズで約520枚となった。これは当初の量の、3倍程度となる。またシティカレッジ大学副学部長図書部門主任ギレスピー教授との話し合いで、同教授が故マリオ・コセンザの未公開原稿「日本の友」の出版も期待していることを知った。コセンザ教授は先に、同大学のこの『タウンゼント・ハリス個人文書・書簡集』に含まれる文書から『ハリス日本滞在記』を編纂し出版したことで有名である。この未公刊原稿はその続編にあたり、日本人としては、これが出版されなかったことを悔やむものである。そこでこの作業も行った。まずこのタイプライター原稿を、全てデジタル化した。これは500ページ以上となった。そして2014年冬、オランダに渡航し、日本研究家でもあるライデン大学スカリヒャー研究所所長ブイケルス教授、またアジア外交史家のクリンゲンダール研究ファン・デル・プッテン博士に提出し、意見を求めた。 依然この文書による明らかな成果は発表していないが、そのための準備、またその計画の充実は明らかに行われており、そこで当初の計画をはるかに超えた作業を行っていると明言できる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後であるが、研究計画を拡大したことにより生じた作業を中心に、研究を継続する。すなわちこの史料集出版を考慮した際、同史料集を完全な形で出版することが重要と思われる。そこで今までは史料の選択により翻刻していなかった史料、例えばハリスと国務省との書簡交換(これらはアメリカ合衆国国立公文書館所有国務省ファイルに含まれると思われる)、また外交史の視点により除外していた、為替等の商取引に関する文書等も翻刻し、更に同史料集が含む他の史料、ハリスによる発信文書の控えである「ハリスの手紙控」にも非常に興味が出たこともあり、この作業も進めていく。 またシティカレッジのギレスピー教授との話し合いで再開した、同大学文学部長故マリオ・コセンザ著の未刊行原稿「日本の友」の翻刻・出版である。この翻刻作業は終了し、専門家の所見を受けた。この際予期していたことであるが、この原稿は約50年前に書かれており、文章のスタイルに大きな問題があることが指摘された。例えば、本文中に長い史料がそのまま引用され、そしてそれに解説を加える手法等である。しかしながら未公開原文書から詳述された、当時の幕府要人等との駆け引き等は、極めて新奇で、注目に値する歴史事実が展開されており、非常に面白く、且つ重要な作品であるとの所見を得た。そこでこの計画をも、継続していく積りである。 また同原稿の将来の公表を視野に入れ、広範囲な欧米列強によるアジア政策の最近の研究業績を調査する必要がある。本年度この作業を、豊富な蔵書数を有するライデン大学図書館で行った。この際新たなハリスに関連する海外の著作で、目新しいものは余り見当たらなかったが、この作業は継続すべきである。
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