2012 Fiscal Year Research-status Report
土器胎土からみた混和を伴う縄文土器製作システムの研究
Project/Area Number |
24520863
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Teikyo University |
Principal Investigator |
河西 学 帝京大学, 文学研究科, 講師 (60572948)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
松本 建速 東海大学, 文学部, 教授 (20408058)
中村 利廣 明治大学, 理工学部, 教授 (60062022)
今村 啓爾 帝京大学, 文学部, 教授 (70011765)
小林 謙一 中央大学, 文学部, 准教授 (80303296)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 縄文土器 / 混和 / 阿玉台式 / 土器胎土 / 蛍光X線分析 / 薄片 / 岩石鉱物 |
Research Abstract |
縄文土器の多くの土器型式では、地元原料を用いた土器製作が考えられることが近年の胎土分析の成果で明らかにされてきた。一方で、雲母片など選択的に特定の鉱物・岩石を人為的に混和したと考えられる土器型式が存在するが、混和や土器製作システムの実態あるいは土器の動態についてほとんど明らかになっていない。この研究は、特定の岩石鉱物を混和したとされる土器を対象として、各遺跡の土器個体ごとの土器型式学的特徴や土器胎土における地域性を明らかにし、土器の原料産地および土器の製作地を推定することにより、混和と土器製作システムの実態、空間的な土器の移動およびそれらの時間的変遷を解明することを目的としている。 分析の結果、相模原市大日野原遺跡の阿玉台式は、地元地質との関連性が推定される藤内式・曽利式・加曽利E式の土器胎土と類似性が認められないことから、地元原料の一部を用いて製作された可能性は極めて低いと考えられ、製品として搬入された可能性が高いと推定された。 栃木県茂木町桧ノ木遺跡の阿玉台式土器では、肉眼観察において、雲母や花崗岩類主体の土器が大部分を占めるが一方、花崗岩類以外に堆積岩、変質火山岩類、デイサイト~流紋岩を伴う土器の存在が認められた。花崗岩類とその構成鉱物以外の部分で、デイサイト~流紋岩質の変質火山岩類などが特徴的に含まれる点で 新第三系からなる地元地質との類似性が認められ、地元地質の一部を利用して阿玉台式が地元で作られていた可能性を支持する結果が得られた。化学組成では、阿玉台式の時期ごとの化学組成の分布範囲は、ほぼ同程度で明瞭な違いは認められず、雲母・花崗岩類以外の岩石を伴う土器胎土の化学組成が、雲母・花崗岩類主体の土器胎土の化学組成領域と明瞭な区別ができないことなどから、ある多様性を保ちながらこの地域の土器胎土の特徴が継続していたことが推定された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
申請時は、阿玉台式土器などの胎土の岩石鉱物組成・化学組成における地域差の有無を明らかにし、型式学的地域差の検討を踏まえ、雲母・花崗岩類などの混和を伴う土器製作システムを解明する。そのためには、①地質的特徴を示す複数の典型的な遺跡を選択し、型式学的特徴を良好に保存している土器片を試料として分析し、試料ごとに岩石鉱物組成や化学組成を明らかにし、遺跡周辺地質との比較により個体ごとに土器の原料産地を推定する。その際、地元原料をもとに製作されたと考えられる別型式土器胎土との比較により、阿玉台式土器などでの原料混和の割合を推定すること、②遺跡ごとおよび時期ごとの土器胎土の特徴と地域性を面的に把握することにより、混和の実態、原料の移動の有無、土器の移動などを明らかにして、阿玉台式土器などの土器製作システムの特徴を他型式土器との比較によって解明すること、をあげた。 分析遺跡・分析試料の選択は、研究分担者・研究協力者の協議の中で当初計画以外のより分析に適した遺跡を抽出し試料採取した。遺跡によっては遺物の実測図や拓影図の作成などに若干時間がかかった。神奈川県相模原市大日野原遺跡、栃木県茂木町桧ノ木遺跡、茨城県美浦村陸平貝塚で試料を採取し分析にかかった。栃木県大田原市品川台遺跡では試料の選別と資料化が進行中である。筑波山周辺河川の堆積物試料の採取も行い原料産地推定精度の向上をめざしている。 分析は、大日野原遺跡の薄片による岩石学的分析は報告済みである。桧ノ木遺跡試料は蛍光X線分析が完了し、薄片分析が一部完了しており、平成25年度の日本文化財科学会で成果の発表を予定している。その他の試料に関しては各分析が進行中である。 現在までのところ、大日野原遺跡・桧ノ木遺跡でそれぞれ一定の成果が得られているので、おおむね順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
分析試料は、栃木県大田原市品川台遺跡、茨城県つくば市内遺跡、東京都三鷹市原遺跡・坂上遺跡などの阿玉台式土器試料を分析対象として計画している。一方、遠隔地で出土する完形品に近い阿玉台式土器は破壊して分析することの理解が得づらいことから、まずは現地に赴き非破壊での肉眼観察で対応する(山梨県釈迦堂遺跡、長野県長峯遺跡など)。雲母・花崗岩類の原料産地候補である筑波山周辺の堆積物の追加的採取や、桧ノ木遺跡周辺での粘土層の採取を行い原料産地推定の精度向上に努める。 分析作業は、薄片による岩石学的分析と蛍光X線分析を中心に今年度は本格化させ、分析遺跡地点を面的に拡大できるように努める。また中性子回折分析の有効性を検討を試みる。 分析した阿玉台式土器ばかりでなく、同地域の他型式の土器、粘土層、他地域の阿玉台式土器等の分析を継続して実施することで、空間的時間的なデータを蓄積し、土器胎土原料の産地についてより確かな考察をおこない、雲母類や花崗岩類の意図的混和の実態、原料の移動の有無、阿玉台式土器などの土器製作システム、空間的な土器の移動およびそれらの時間的変遷などを解明していきたい。 すでに得られた研究成果の一部については、日本文化財科学会第30回大会(弘前大学、7月)で発表する予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
物品費は、分析関係消耗品、資料収集関係文具消耗品、パソコン関係消耗品などに使用する予定である。 旅費は、試料収集のための調査旅費、および研究発表(日本文化財科学会弘前大学で開催)の旅費などを予定している。 謝金は、土器試料の選択抽出、その後の実測図・拓影図作成などにおいて協力いただく研究協力者への支出を予定している。
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Research Products
(2 results)