2012 Fiscal Year Research-status Report
東南アジアの華人慈善団体に関する人類学的研究―潮州系のエスニシティとネットワーク
Project/Area Number |
24520920
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
|
Research Institution | Ibaraki Christian University |
Principal Investigator |
志賀 市子 茨城キリスト教大学, 文学部, 教授 (20295629)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
黄 蘊 京都大学, 文学研究科, 研究員 (10387384)
芹澤 知広 奈良大学, 社会学部, 教授 (60299162)
石高 真吾 大阪大学, 学内共同利用施設等, その他 (70511799)
|
Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
Keywords | タイ / マレーシア / ベトナム / バンコク / チョンブリー県 / ケダー州 / ホーチミン / ペナン州 |
Research Abstract |
(1)国内研究集会。平成24年度は7月1日に大阪大学で実施した。東南アジアの華人慈善団体や宗教団体に関する各メンバーのこれまでの研究実績を報告し、問題意識を共有するとともに、夏以降の現地調査の計画について話し合った。 (2)海外調査:代表者の志賀と研究協力者の玉置は、2012年8月19日から9月4日の間、タイとベトナムで調査を行った。タイでは泰国仏教衆明慈善会の実態や活動を把握するため、チョンブリー県とバンコク市内の5つの華人慈善団体の聞き取り調査を行うとともに、盂蘭盆の儀礼を見学した。またベトナムでは、ホーチミン市の明月居士林、師竹軒精舎父母会など潮州系の華人団体の聞き取り調査を行った。また玉置は、平成25年3月17日から27日にかけて、チョンブリー市の明慧善壇の「修[骨古]法会」の調査、潮州系の仏教社による功徳法事の調査などを行った。分担者の黄は、8月13日から27日にかけてマレーシア・ケダー州の徳教会及び明修善社、明月善社などの潮州系慈善団体について、最近行った活動や新たな変化などについて調査を実施した。とくに徳教会「紫済閣」については、タイの徳教会との連携関係や共同での法要開催に焦点をあてた聞き取り調査を行った。黄はその後タイに移動し、志賀、玉置、石高とともに共同調査に参加した。石高は8月20日から31日までバンコクに滞在し、華人の慈善行為のタイ社会での受容に焦点をあて、華僑報徳善堂の総幹事及び現在タイ社会一般に受容されている善堂のレスキュー活動についてのインタビューを行った。芹澤は当該年度は海外調査を行わず、文献によりベトナムを中心とした東南アジア地域の潮州人を概観した。 (3)資料調査:8月にバンコクで行った共同調査では、華僑報徳善堂が設立した総合大学「華僑崇聖大学」の図書館を訪問し、デジタル化された戦前からの華字紙を閲覧した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
①潮州系のエスニシティ生成:これまでの調査を通して、潮州人というエスニシティが他のエスニックグループとの接触、競合、摩擦などを通して生み出されるプロセスや潮州人というアイデンティティの構築、維持において、善堂文化、とくに埋葬、葬儀、死者供養など、死にまつわる文化が大きな役割を果たしていることがわかってきた。 ②潮州系慈善団体のネットワーク形成:修「骨古」法会や扶鸞儀礼の調査を通して、善堂と徳教の連携の実態が明らかとなった。またタイとマレーシアの善堂の連携、さらに中国本土とのトランスナショナルなネットワークについても、すでに多くの資料を得ている。 ③華人慈善団体に関するデータの蓄積:各メンバーの海外調査や文献調査によって、タイ、マレーシア、ベトナムにおける個々の華人慈善団体のデータがそろい、全体像をふまえた分析、討論の段階に入りつつある。 ④資料調査:華僑報徳善堂が設立した総合大学「華僑崇聖大学」の図書館において閲覧した戦前からの華字紙資料は、元々タイ国立図書館が所蔵していたものだが、閲覧や検索が不便だったために、これまでのタイ華人研究では十分活用されてこなかったものである。本資料の活用は、本研究課題にとっても、また今後のタイ華人研究の進展にとっても大いに役立つものと期待される。 ⑤データベース:調査によって得たデータの整理と、今後整理したデータをもとにどのようなデータベースをつくり、どのように公開していくかという点については、まだ具体的な作業段階に入っていない。昨年はデータの整理する上での項目づくりやデータ集約の方法などについて話し合ったが、合意の形成まで至らなかった。今後力を入れていく必要がある。
|
Strategy for Future Research Activity |
研究はおおむね順調に進展しており、2年目となる次年度においては、前年度に行った調査・研究で得られた問題意識や知見のさらなる深化を目指す。具体的には①当初の計画であるタイとマレーシアの潮州系華人の比較研究に加えて、ベトナムや香港の事例との比較も盛り込んでいく。これまでの調査・研究を通して見えてきたのは、東南アジアの潮州系華人といっても、その存在形態はホスト国の社会、文化、歴史によって微妙に異なっているという点であった。同時に、そうはいいながらも、各地域において「潮州人」というエスニシティや共通のアイデンティティが醸成されてきたことは間違いのないところであり、そこに慈善団体の活動、とくに埋葬や葬儀など、死に関連する文化が大きく関わっていることがわかってきた。今後は、比較対象として香港、ベトナムを含め、それぞれの地域における潮州人の移民史、コミュニティのあり方、エスニックリレーション、信仰、葬儀と埋葬の問題などについての概括的研究と相互比較を通して、潮州人というエスニシティをとらえていきたいと考えている。香港の潮州系善堂は志賀がすでに調査経験があり、またベトナムは芹澤がすでに多くの研究実績をあげているので、研究遂行能力に問題はない。②各地域の事例研究では当初の計画どおりタイ、マレーシアに重点をおく。とくにタイではタイ文化と華人文化の融合が進んでおり、華人慈善団体の活動においても、潮州系の文化であることを強調するよりも、タイ人の霊魂観や功徳観、慈善観を積極的に取り入れたオープンな場であることを示すことによって、タイ社会にきわめて自然に受容されている点が注目される。同系列の善堂ネットワークや地域の慈善団体が協力して開催される「修[骨古]法会」は、この問題を考えていく上で格好の材料を提供している。③華僑崇聖大学図書館収蔵の華字紙の研究も継続して進めていく。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
①国内研究集会を2回、東京と大阪で行う。1回目は前年度の研究調査報告と調査計画について、2回目は最終年度に行う学会発表や成果報告書についての方針を固める。またゲストスピーカーを呼び、関連テーマで報告してもらうことも計画している。 ②海外調査:志賀と玉置は、8月にタイとマレーシアにおいて調査を行う。タイでは、仏教社の活動を知るため、サムットソンクラーム県の「玉清三保宮亭」を訪問し、聞き取り調査を行う。またソンクラー県ハジャイ市において、同声善堂、徳教会紫南閣等、タイ南部の華人団体の調査を実施する。さらに文献調査として、1940年代~1970年代の華人団体の動向を知るためにバンコクの華僑崇聖大学図書館において華字紙を閲覧する。マレーシアではペナン州において潮州会館、潮州系善堂などの華人団体において聞き取り調査を行う。玉置は3月にも調査を行い、タイ・チョンブリー県の華人社会の成り立ちや現状を把握するために聞き取り調査を実施する。黄は8月にマレーシア、シンガポール、タイにおいて海外調査を行う。マレーシアではペナン州、ケダー州周辺の善堂、徳教会が旧暦7月に行う「中元節」(盂蘭盆)行事について中心的に調査する。シンガポールでも同様に潮州系善堂の現状について調査を行う。タイでは、徳教会が旧暦7月に行う活動について調査を実施する。石高は8月にタイ国バンコクにて前年度の調査の継続と、比較のためにタイ系の慈善団体の調査を行う。芹澤は8月の中旬から下旬にかけてベトナム南部の潮州系華人の調査を行う。以上の各自で行う個人調査のほか、8月にマレーシアまたはタイにおいて、メンバー全員が合流し、共同調査を行う機会を設ける。 ③調査によって得たデータを整理し、データベース作成のための具体的な作業を開始する。
|
Research Products
(20 results)