2012 Fiscal Year Research-status Report
昭和の大合併と平成の大合併の政治過程に関する総合的研究
Project/Area Number |
24530157
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
市川 喜崇 同志社大学, 法学部, 教授 (60250966)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 昭和の大合併 / 町村合併促進法 / 新市町村建設促進法 / 全国町村会 / 全国町村議会議長会 / 市町村合併 / 自治庁 / 地方六団体 |
Research Abstract |
本研究は、昭和の大合併と平成の大合併の政治過程を対象としているが、第1年度目の平成24年度は、このうち、主として昭和の大合併の政治過程を中心に研究を進めた。ここでの目的は次の2点である。 1つは、通説である河中二講「議員立法形成の行政学的考察」『自治研究』第32巻第1号(1956年)の見解、すなわち、自治庁が合併の「当事者」であった町村側2団体(全国町村会と全国町村議会議長会)の運動を「利用」したとする河中の認識を打ち破ることである。もう1つは、従来の研究のほとんどが昭和の大合併の最盛期にばかり焦点を当てているのに対して、本研究では、初期や後期をも視野に収めた上で、総合的な評価を下すことである。 今年度は、主として資料の読み込みに費やした。具体的には、自治省行政局の編集による資料集『町村合併促進新市町村建設促進関係資料(全3巻)』(1962年)、全国町村会などをはじめとする地方六団体の団体史、『自治研究』、『地方自治』、『自治時報』、『都市問題』などをはじめとする地方自治関係雑誌に掲載された当時の学者、自治官僚、自治体職員等による論文、および、昭和の大合併終了後にほとんどの都道府県で編纂された(市)町村合併誌(合併史)などである。同時に、この主題に広く関連する研究にも目を配った。 これらを通じて、①昭和の大合併の初期(町村合併促進法制定以前)に各都道府県で独自に行なわれた合併推進策の把握、②後期の解明、中でも新市町村建設促進法に盛り込まれた内閣総理大臣による合併勧告権の行使の実態把握とその効力の評価、および③町村側2団体(全国町村会と全国町村議会議長会)の動きの解明などが進んだ。 現在では、資料の読み込みがほぼ完了し、昭和の大合併の部分の執筆を開始しているところである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度は主として昭和の大合併の政治過程を中心に研究を進めたが、当初の見通しどおりに研究が進み、また進捗状況も概ね良好である。 まず、見通しについてであるが、昭和の大合併の政治過程を再検討する目的は次の2つであった。1つは、通説である河中二講「議員立法形成の行政学的考察」『自治研究』第32巻第1号(1956年)の見解、すなわち、自治庁が合併の「当事者」であった町村側2団体(全国町村会と全国町村議会議長会)の運動を「利用」したとする河中の認識を打ち破ることであり、もう1つは、従来の研究のほとんどが昭和の大合併の最盛期にばかり焦点を当てているのに対して、本研究では、初期や後期をも視野に収めた上で、総合的な評価を下すことである。 資料の読み込みについては、自治省行政局の編集による資料集『町村合併促進新市町村建設促進関係資料(全3巻)』(1962年)、全国町村会などをはじめとする地方六団体の団体史、『自治研究』、『地方自治』、『自治時報』、『都市問題』などをはじめとする地方自治関係雑誌に掲載された当時の学者、自治官僚、自治体職員等による論文、および、昭和の大合併終了後にほとんどの都道府県で編纂された(市)町村合併誌(合併史)など、当初予定したものが順調に進んでいる。 関連資料を読み込んだ結果、上記の河中の認識の一面性を打ち破る見通しがついている。また、従来の研究で手薄であった初期と後期の把握についても、ほぼ見通しがつき、昭和の大合併の全期間を通じた総合的な評価が可能になりつつある。
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Strategy for Future Research Activity |
現在執筆中の昭和の大合併に関する原稿を完成させた後、平成の大合併についての研究に進む。平成の大合併は、自民党国会議員が主導した政策であったと理解されている(西尾勝『地方分権改革』東京大学出版会、2007年)など。 2000年分権改革を審議した地方分権推進委員会の委員でもあった行政学者の西尾勝は、委員会の1次勧告を携えて1996年12月に自民党の行革推進本部に「ご説明」に行ったところ、分権を進めるのであれば同時に合併もせよと強く迫られ、これが平成の大合併の端緒となったと述べている。 この見解は通説となっているが、以下の難点を抱えている。西尾は、96年12月のこの一件をもって自民党が合併に転じたと言うが、この段階では合併はまだ自民党行革族の主張であった。西尾説は、自民党が多様な「族」の集合体であることへの認識不足による誤認の可能性を否定できない。筆者は、合併が自民党内の一つの「族」の意向を超えた政権の方針となるのは2000年の第2次森内閣以降であると考えている。当事者である当時の自治官僚もそのように認識している(例えば、高島茂樹『市町村合併のそこが知りたかった』ぎょうせい、2002年)。そこで、まずこの点の解明に努めることにしたい。要するに、自民党の合併政策への関与について、段階区分を設ける必要があるかどうかが焦点である。 ついで、自民党の動機の解明に努める。一般に、自民党国会議員は地方政治家を選挙マシーンとしているので、彼らの減少を招く合併政策には消極的なはずであるが、実際にはそうではなかった。自民党の動機については、①都市重視仮説、②利益媒介効率化仮説、③小選挙区制対応仮説などがあるが、いずれも一定の難点を抱えている。 研究手法であるが、関連する研究、合併関連記事、官僚や政治家の著述やインタヴュー記事などの読み込みを進める。また、筆者自身によるインタヴューも行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
上述のように、平成25年度の研究では、①平成の大合併に関する自民党の関与に関して時期区分を設定する必要があるかどうか、またあるとすればいかなる時期区分が適当か、②自民党国政政治家が合併を推進した動機は何か、の2点が課題である。付随的な論点として、政治家と官僚の関係も焦点となる。当初合併に中立的であった自治官僚・総務官僚がいつ頃から積極姿勢に転じたかという問題である。上記の政治家主導説をとれば、政治家が積極姿勢に転じたことによって官僚も積極姿勢に転じたということになるが、果たしてそうした理解でよいかどうかである。筆者は、大枠としては政治家主導説をとるものの、上記のように、段階区分の設定の必要性を考えている。政治家と官僚の関係についても、段階区分との関連で考察されることになる。 上欄で記したとおり、研究手法としては、関連する研究、合併関連記事、官僚や政治家の著述やインタヴュー記事などの読み込み、および、筆者自身によるインタヴューなどである。このため、資料収集費、インタヴュー等に関わる旅費、インタヴュー起こし等に関わる人件費・謝金などが必要となる。
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