2012 Fiscal Year Research-status Report
公共性の総合的規範理論の構築をめざして:経済学、政治学、法学の協同
Project/Area Number |
24530204
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
|
Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
須賀 晃一 早稲田大学, 政治経済学術院, 教授 (00171116)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
若松 良樹 成城大学, 法学部, 教授 (20212318)
|
Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
Keywords | 公共性 / 規範理論 / 市場システム / 主体性 / 福祉 |
Research Abstract |
本年度は、2つのテーマを定めて研究を行った。具体的なテーマとして東日本大震災の復興政策を公共性の観点から評価すること、および理論的テーマとして公共性の概念が公共哲学の理論史の中でどう把握されるかを明らかにすることである。 まず、東日本大震災の復興政策に関しては、誰のどの意見をどのように政策決定に反映されるべきか、過去から将来に向かう時間軸の中で、過去の災害がもたらした負の遺産とそれへの人々の対応が生み出した正の遺産を踏まえて、これから生まれて来る将来世代の意思をどう政策決定に反映させるべきかを議論した。現存しない人々の意思を体現する主体の形成、ならびにその主体が判断に用いる情報(現在そこに生活している人々の意思と福祉だけでなく、将来世代の意思を反映させるための工夫とそのための制度)について検討結果をまとめた。さらに、大震災の教訓を憲法・表現の自由の観点から分析し直し、自省的社会の形成を展望した。 次に理論的テーマとして、ロールズとハーサニの間の論争史(マキシミン原理と期待効用理論の間の論争を中心とした)を概観するとともに、公共性理論における絶対的な悪の位置づけに必要な概念装置を探求した。特に、L. テムキンによる連続性の公準に対する疑義を検討し、連続性の公準が認められるのであれば、一定の確率以下においては悪も甘受されるべきことを主張する彼の議論は、絶対的な悪の存在を認めるマキシミンや予防原則の正当化根拠のありかを示唆する点に注目した。テムキンによる証明が妥当であるとするならば、連続性の公準は、不動の公理であるのではなく、その否定と同程度の直観的な基礎しかもたないことになる。そのため、期待効用理論にテムキンの直観を組み込む道を模索することになった。ここでも、時間の流れを組込んだ理論の構築が必要であることをより強く認識した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、2つのテーマを定めて研究を行った。具体的なテーマとして東日本大震災の復興政策を公共性の観点から評価すること、および理論的テーマとして公共性の概念が公共哲学の理論史の中でどう把握されるかを明らかにすることである。 まず、東日本大震災の復興政策に関しては、誰のどの意見をどのように政策決定に反映されるべきか、過去から将来に向かう時間軸の中で、過去の災害がもたらした負の遺産とそれへの人々の対応が生み出した正の遺産を踏まえて、これから生まれて来る将来世代の意思をどう政策決定に反映させるべきかを議論した。現存しない人々の意思を体現する主体の形成、ならびにその主体が判断に用いる情報(現在そこに生活している人々の意思と福祉だけでなく、将来世代の意思を反映させるための工夫とそのための制度)について検討結果をまとめた。さらに、大震災の教訓を憲法・表現の自由の観点から分析し直し、自省的社会の形成を展望した。 次に理論的テーマとして、ロールズとハーサニの間の論争史(マキシミン原理と期待効用理論の間の論争を中心とした)を概観するとともに、公共性理論における絶対的な悪の位置づけに必要な概念装置を探求した。特に、L. テムキンによる連続性の公準に対する疑義を検討し、連続性の公準が認められるのであれば、一定の確率以下においては悪も甘受されるべきことを主張する彼の議論は、絶対的な悪の存在を認めるマキシミンや予防原則の正当化根拠のありかを示唆する点に注目した。テムキンによる証明が妥当であるとするならば、連続性の公準は、不動の公理であるのではなく、その否定と同程度の直観的な基礎しかもたないことになる。そのため、期待効用理論にテムキンの直観を組み込む道を模索することになった。ここでも、時間の流れを組込んだ理論の構築が必要であることをより強く認識した。
|
Strategy for Future Research Activity |
25年度、26年度とも、具体的テーマと理論的テーマの2本立てで研究を進める。 まず25年度の具体的テーマとして、市場システムと公共性の連関を考察する。公共性の破壊者としてしばしば非難される市場だが、市場システム全体としてはある種の公共性の実現者となっている。東日本大震災で市場が崩壊したにも関わらず、市場を通じて形成された物資の供給ルートが人命を救うのに重大な役割を果たした点は軽視できない。このような市場システムが持つ公共性の根拠を探ることが、今年度の1つの課題である。 25年度の理論的テーマとしては2つのものがある。1つは、公共哲学の理論史研究の中で取り上げられた公共性に類似の様々な概念を比較検討し、公共性の構成要素としてふさわしいものを確定する作業を行うことである。もう1つの課題は、公共性の総合的規範理論の構築を始めることである。まず、公共哲学の理論史研究に照らして、それぞれの領域で行われてきた研究における公共性の意味と意義を確認し、社会契約・憲法・市場・公共的討議との関連で、政策評価原理としての公共性のあり方について論点の整理を行う。 26年度の具体的テーマの1つは社会保障制度改革である。社会保障の充実は公共性の実現そのものといってもよい。公共性を基準にして社会保障制度の再検討を行う。もう1つが社会的正義と公共性の連関である。社会的正義は公共性の1つの柱となるが、正義のような厳格な権利・義務の規定をすべての公共性に要求すべきであるとは思われない。社会的正義と公共性の共通部分から離れたとき、どのような原理が要求されることになるのか。医療・年金・労働などの社会保障の各分野で異なる原理が要求されていることから、応用上重要なテーマでもある。 26年度の理論的テーマは、公共性の総合的規範理論の構築であり、これが本プロジェクトの最終目標である。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
25年度の研究費に関する使用計画は、以下の通りである。 1.海外の研究者と議論するため、研究テーマと関連する国際学会へ参加し報告する。(40万円) 2.国内の学会や研究会で報告し、参加者と議論する。(20万円) 3.これまでと同様に定例の研究会を開き、相互の研究の進展を確認すると同時に、外部の研究者を招聘して関連するテーマで報告を依頼し、どのような研究が進められているかについて情報を得る。(30万円) 4.関連書籍や資料の収集を行う。(64万円)
|
Research Products
(11 results)