2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24530563
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
大石 桂一 九州大学, 経済学研究科(研究院), 教授 (10284605)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 会計規制 / 会計基準設定 / アウトソース |
Research Abstract |
本年度は研究計画に基づき、主として米国に関する歴史的研究を行った。とりわけ、1930年代の米国おいて会計基準設定のアウトソーシングが行われた背景と経緯を明らかにするために、証券諸法が制定されるまでの間、ニューヨーク証券取引所(NYSE)と会計プロフェッションがいかなる自主的な取り組みを行ってきたのか、法案にどのように対応したのかを考察した。その成果は、学術論文(大石桂一「米国における1933年証券法の制定までの自主的会計規制:ニューヨーク証券取引所と会計プロフェッションの取り組み」『経済学研究』第79巻第5/6号、157-174頁)として公表した。研究の結果として明らかになった主な点は以下のとおりである。 証券法の制定に至るまでの間、ルール形成を担う中心的な「第三者」はNYSEであったが、株式上場が急激に増加した1920年代の中盤になると、NYSEは会計プロフェッションの専門能力を必要とするようになった。そこで、NYSEとアメリカ会計士協会(AIA)は公式の協力関係を築き、自主的規制によって会計・開示実務の改善に努めた。 しかし、そうした中で1929年の株価大暴落が起こり、証券法が制定された。証券法の制定過程において、会計士は影響力を行使することはできなかった。その理由の1つは、会計プロフェッションがAIAとアメリカ公認会計士会(ASCPA)に分裂していたからであった。これに対して、証券法が制定されてからは状況が変化した。それゆえ、次に検討すべきは、(1)1934年証券取引所法の制定過程における会計プロフェッションの取り組み、(2)会計プロフェッションとSECの協力関係の構築、(3)AIAとASCPAの合併、(4)アメリカ会計学会とAIAとの「競合」、および(5)会計プロフェッションに対する経営者の信認、といった点であることが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、(1)米国に関する歴史的研究、(2)日本に関する歴史的研究、および(3)IASBへのアウトソーシングに関する理論的・実証的研究、を3つの柱としている。このうち、(1)については、「研究実績の概要」で述べたように、1933年証券法の制定までの状況を明らかにし、さらに検討すべき課題を明確化した。現在、当該課題に関して研究を遂行しており、一定の進展が得られている。平成25年度中には成果を公表できる見込みであり、当初の予定どおり順調に進捗していると考えている。 (2)および(3)については、今年度に公表した研究成果はないが、おおむね計画に沿って順調に進んでいる。特に(3)に関しては、1930年代の米国において「会計基準設定のアウトソース」が起こった経緯を比較のベンチマークとして、米国財務会計基準審議会(FASB)、国際会計基準審議会(IASB)、および日本の企業会計基準委員会(ASBJ)の委員構成を、資源の偏在と利害調整という視点から検討する作業がほぼ終了しており、近いうちに学術論文として公表する予定にしている。ただし、(2)に関して予定していたインタビュー調査は、諸般の事情でまだ実現していない。 以上のことから、完全に計画どおりとは言えないまでも、研究はおおむね順調に進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、今年度の研究をふまえ、(1)日米の歴史的比較、および(2)現代の会計基準設定をめぐる国際比較、の2つの課題に取り組む予定である。具体的な研究計画は以下のとおりである。 (1)に関しては、収集した資料(史料)および文献に基づいて、日本と米国において会計基準設定のアウトソーシングをめぐる状況がどのように異なっていたのかを比較検討する。両国において、証券関連の法律が制定され、証券規制目的での会計基準設定が行われるようになったという共通性が見られるにもかかわらず、結果が異なっていたことのインプリケーションを明らかにすることが、今年度の課題である。そこから一定の普遍性が導き出せるのであれば、それは現代の問題を考察する鍵となる。 (2)に関しては、今年度に引き続きIASB、ASBJ、およびFASBの組織構造の変化を事実に照らして実証的に研究すし、(1)で行う歴史的比較をふまえ、 資源の偏在によるアウトソーシングと、IASB、ASBJ、およびFASBの組織構造の相違と変化について、総合化を試みる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
今年度は予定していたインタビュー調査が、諸般の事情により実施できなかった。そのため、予算と実際使用額との間に差異が生じた。調査実現に向けて引き続き努力したい。 それ以外については、当初の計画どおり、文献・資料・史料等を購入するとともに、成果発表および資料収集のために旅費を使用する。
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Research Products
(1 results)