2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24530665
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Meiji Gakuin University |
Principal Investigator |
藤川 賢 明治学院大学, 社会学部, 教授 (80308072)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 国際情報交換 / インド / ボパール |
Research Abstract |
本研究は、インド・ボパール事件などとの比較で、日本の公害の解決過程について国際比較をしながら分析することを主たる目的としている。その初年度にあたる平成24年度は、ボパール事件の現地調査と、日本国内複数の現地調査などを実施した。 ボパールでは、被害者の無料診療を行うとともに、被害者運動の拠点にもなっているSambhavna Trust Clinicなどでのヒアリング調査を行った。工場敷地の内外で現在も汚染が放置されている現状、インド国内の各地で農薬、化学工場、原発などに関する環境汚染が起き、住民運動間の連携に努めている状況などが、主要な調査項目である。環境汚染問題が拡散してグローバル化と国際格差の影響も強まる一方、被害経験の共有が進みにくい、などの環境問題解決への課題も見えてきた。日本を含めたアジアの共通課題として、今後とも確認していきたい。 また、ボパールの被害地域では、事故による生殖に関する健康被害と、土壌地下水汚染の放置の結果、子どもの被害が今も継続している。事故当時から数えると第二世代、第三世代にあたる子どもをケアしているChingari Rehabilitation Centerでのヒアリングでは、これが当初の予測以上に拡大している現状を確認した。この被害への対応については社会保障の枠組みと公害被害補償との関係などを中心に、日本との比較も含めて、考察の余地がある。以上ボパールでの調査は、連携研究者の野沢淳史氏とともに行った。 日本国内では、宮崎県土呂久のヒ素中毒問題、富山県神通川流域の公害防止発生源対策および福島原発事故などに関するヒアリング調査を重ねている。ここでは詳述の余裕がないが、亜ヒ酸焼きの労働現場と原発労働の共通点、カドミウムによる農用地汚染と放射能に関する除染の相違点など、いくつかの発見があった。原発に関する話などは、ボパールでのヒアリングにも通じる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の中心となる事例調査については、上記のとおり、ほぼ計画通り進捗している。当初の計画との違いとして、一つには、国内外ともに環境汚染問題にかかわる人たちの福島原発事故や原発一般にたいする関心が予想以上に高いこともあり、本研究でもそれに関連する調査の比重が高まっている。また、スケジュール調整の関係で宮崎土呂久の調査は予定よりやや短くなり、訪問先を1,2残すことになった。これについては今後補充調査を行う予定である。 予算計画では予定にくらべて約20万円の残高がある。この主たる理由は、上記宮崎調査の短縮と、チケット購入時の為替相場の影響でインド調査の旅費が予定より低くなったことにある。また、円安が進んでいる現状をかんがみ、今後の国外調査に備えてある程度予算執行を抑えた面もある。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、ボパール事件と日本の公害を軸に、公害解決過程の国際比較に向けた考察の基盤をつくっていく。分析軸の一つは、上記「研究実績の概要」欄でも触れた「被害経験の共有」という課題になる。これについて、平成25年度は、アメリカ・ラブキャナル事件の経緯を比較対象として学びながら、日本・アジアの特徴を捉えたい。 ラブキャナル事件は、産業廃棄物処分場跡地で生じた大規模な健康被害・土壌汚染問題であるが、その後、廃棄物問題、有害物管理、草の根環境運動、環境正義を求める運動、土壌汚染対策などの領域で、アメリカ中に広範な影響を与えることになった。それについて、一地域の近隣者団体から全国的世界的な環境活動へと展開した代表例であるthe Center for Health, Environment & Justice (CHEJ=ラブキャナル事件の住民代表によって設立されたNPO)に関する調査を軸に、計画を進めていく。この影響の広がりの経緯については、アメリカでも近年まとまった研究が増えており、その整理も必要である。 平成25年度の日本国内での調査は、宮崎のヒ素中毒に関する継続調査を中心とする。土呂久の被害者への支援活動から始まったNPO「アジア砒素ネットワーク」は、バングラデシュやインドなどのヒ素汚染問題への対策として安全な井戸水の確保や農村の自立を支援する活動を展開している。こうした環境問題・環境対策の普遍化について、他の事例を踏まえつつ調査と考察を進める。福島原発事故と放射能による環境汚染についても、他の研究計画での知見を生かしつつ、継続的に取り組んでいく。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
環境汚染問題の解決過程における放置と対策との関係について、複数の事例から日本およびアジアの共通点と相違点を明らかにすることが、次年度以降の主要な課題である。それについて、一つはボパール事件の国際的な影響について調査する。ボパール事件は、事故を起こした工場の親会社がアメリカの企業であったこともあり、アメリカの有害物管理や化学物質のリスクに関する住民運動にも大きな影響を与えた。だが、とくに事故後10周年以降、ヨーロッパでの動きも顕著である。ボパールの地域医療組織Sambhavna Trust Clinicの支援母体でもあるBhopal Medical Appealは、イギリスに本部を置き、ボパールの教訓を世界各国に伝える役割も果たしている。それについて、これら両組織へのヒアリングなどを通じて、環境汚染被害を国際的に共有することの意義と、そのための課題について明らかにする。 二つ目に、日本の環境汚染問題における経験の共有について考察する。富山県神通川流域での活動など、個別の事例についてまとめるとともに、それらの事例を横断する比較分析を進める。
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Research Products
(2 results)