2013 Fiscal Year Research-status Report
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24530665
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Research Institution | Meiji Gakuin University |
Principal Investigator |
藤川 賢 明治学院大学, 社会学部, 教授 (80308072)
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Keywords | 公害 / 環境問題 / 社会学 / ボパール / ラブキャナル |
Research Abstract |
本研究は、インド・ボパール事件およびアメリカ・ラブキャナル事件との比較を通じて、日本の公害の解決過程について分析することを主たる目的としている。平成25年度は、ラブキャナル事件の現地調査と、日本国内複数の現地調査などを実施した。 ラブキャナル事件は、アメリカの有害廃棄物問題、草の根環境運動、環境正義に関する運動などの起源として知られているが、本研究では健康被害と地域環境汚染がどのように対応されてきたか、という関心のもとに、現地調査と資料収集を行った。得られた主な知見として、次のような点がある。 (1)ラブキャナルで発生した健康被害に関しては汚染原因をつくった企業との和解が成立したが、その補償は充分ではなかった。その際には、原因物質と症状との因果関係などを科学的に審査する際の、行政と、関連する医学者の姿勢が大きな影響を与えている。この経緯は日本の公害病との共通点が多い。(2)現地では汚染物質を地中に抱えた状況で、汚染中心部を立ち入り禁止にしたまま、周囲では再居住化計画が進んでいる。この際の安全基準の考え方の曖昧さ、情報公開の遅れなどの状況も、日本の公害地域に似ている。(3)ラブキャナル事件を契機に発足したNPO組織Center for Health, Environment and Justiceのように、有害物質問題を広く扱う市民運動が展開したことは日本の事例と大きく異なる。ただ、こうしたNPO活動の際、個別の事例への傾注とより一般的な問題のアピールとの関係が課題になる点は、日本の環境運動組織と共通する面もある。 これらの仮説的な知見を確認する意味もあって、宮崎県土呂久における砒素中毒問題と、この被害者支援組織に由来するアジア砒素ネットワークについて、概要をまとめた。また、神通川流域におけるカドミウム汚染問題対策の経緯についても、報告に向けて進めている段階である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の中心となる事例調査について、順調に進められている。とくに、上記ラブキャナル事件の調査を行えたことで、予定していた事例のすべてについて概要の把握ができた点は大きい。今後は補充調査を重ねながら、各事例の社会学的な整理と、それをもとにした比較検討に入りたい。 それに関連する社会的な動きとして、一つには、2013年度末に神通川流域のカドミウム被害団体連絡会と加害側企業との「解決」確認書がむすばれたことがある。この「解決」は、イタイイタイ病訴訟判決後40年続いてきた発生源対策が成果をあげ、また、カドミウムの長期微量蓄積による腎機能障害にかんする救済の仕組みづくりに関して合意ができたことを示すものである。カドミウム問題全体の解決ではなく、今後も取り組みが継続される事項もあるのだが、その点を含めて被害側と加害側が合意可能な「解決」の事例がこのような形で歴史に記された意味は大きい。 もう一つには、福島原発事故のその後の状況がある。福島ではさまざまな社会的な問題の拡大、長期化が顕著になりつつある。本研究を進める上でも、その課題を明らかにすることは必要であり、これまでも調査を進めてきたところである。
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Strategy for Future Research Activity |
一つはインド・ボパール事件の国際的な影響について調査する。ボパール事件は、事故を起こした工場の親会社がアメリカの企業であったこともあり、アメリカの有害物管理や化学物質のリスクに関する住民運動にも大きな影響を与えた。だが、とくに事故後10周年以降、ヨーロッパでの動きも顕著である。ボパールの地域医療組織Sambhavna Trust Clinicの支援母体でもあるBhopal Medical Appealは、イギリスに本部を置き、ボパールの教訓を世界各国に伝える役割も果たしている。2014年は、事故後30年にあたることもあり、これらの組織を中心に、住民運動の歴史をふり返ると同時に、現在の問題点をアピールする動きが活発化している。事故後30年の当日に現地にいることはできないが、その前後に訪問したい。 もう一つは、砒素中毒問題の補充調査である。問題の歴史が長いこともあり、中間報告をまとめたとはいえ、要確認事項も多い。比較検討を進める上でも必要度が高い。もう一つ、現地調査が必要なのは福島である。状況が多様なこともあり、可能な限りでの訪問を重ねていく。 比較検討に関しては、当初の予定通り、ラブキャナル事件などを含めた国際比較を念頭に置きつつ、神通川流域での事例を軸に進めていく。イタイイタイ病問題が公害解決の代表ないし模範ということではないが、被害者救済、汚染の原因究明とさらなる問題発生可能性の追及、再発予防対策という三つの公害解決策の方向性について、それぞれ一定の結果を残している。これまでの事例調査の結果から、こうした比較の枠組みは見えてきたと考えられるので、今後は、分析と考察のための枠組みをつくるところから始めたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
繰越金額が生じている最大の理由は、3月に行った土呂久調査の交通費等に関する支出がまだ反映されていないからであり、調査計画としては、予定通り行われている。 上記のとおり、実質的な繰越金額はほとんど生じていないと考えられるので、予定通り、2014年度の計画に沿って進めていく。
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Research Products
(1 results)