2012 Fiscal Year Research-status Report
近現代日本の社会変動と河川災害の変容についての研究―紀伊半島豪雨災害からの復興へ
Project/Area Number |
24530683
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
|
Research Institution | Ryukoku University |
Principal Investigator |
田中 滋 龍谷大学, 社会学部, 教授 (60155132)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
吉田 竜司 龍谷大学, 社会学部, 教授 (10291361)
|
Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
Keywords | 河川 / 災害 / 近代化 / 国民国家 / ナショナリゼーション / 天災 / 人災 |
Research Abstract |
本研究の第一の目的は、国民国家内部に均質化と差異化を生み出す近代化とナショナリゼーションがどのような構造的変化を熊野川流域にもたらし、それがどのように河川災害の形態を変化させていったのかを調査することである。 熊野川流域は、明治期には伐出林業へ、戦後は育成林業と電源供給地へ機能特化していった。この機能特化が熊野川流域の河川災害の形態をどのように変化させたのかを明らかにするために、(1)近世~現代の河川災害史を各地方史資料にもとづいて調べ、(2)紀伊半島各地の今回の被災地を悉皆調査し、河川災害の多様性の把握とその類型化を試み、さらに、(3)人々の行動論レベルでの災害対応については、祭りの再興とコミュニティ再生に調査対象を絞って行なう。また、(4)河川災害の特異性を既存の災害研究をフォローすることによって明らかにし、(5)河川災害の人為的・社会的要因が不可視化されるメカニズムを新聞記事などの言説分析を通して明らかにする。 2012年度は、(1)、(2)に重点を置いて調査を行なった。特に、(2)の被災地の悉皆調査は、多大な時間と労力を要するため、まだ一部の市町村しか調査できていないが、それでも新宮市、那智勝浦町、紀宝町、田辺市本宮町については、役所関係ばかりではなく、社会福祉協議会、消防署、警察署(新宮警察署)などでのインタビューならびに資料収集を進めることができた。また、(3)については、当初調査を予定していた祭りが必ずしも適切なものではないことから、具体的調査地の再選定を現在進めている。ただし、この項目に関係することととしては、災害ボランティアのNPOと各市町村の社会福祉協議会との関係が複雑多様であることが分かった。この両者のある種の確執は、まさに今後の詳細な調査を必要とする重要な知見である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
(1)近世~現代の河川災害史:熊野川支流の十津川では、今回の豪雨災害において、大規模な地滑り(土石流)によって土砂ダムが数ヶ所出現したが、1889(明治22)年の十津川大水害では、その数は三十ヶ所を超え、連鎖決壊によって甚大な被害が発生した。この災害の後、村人たちが北海道に移住し、新十津川村を作ったことは有名であるが、今回の調査で、紀伊半島西部の田辺市を流れる冨田川の水害の際にも、北海道への移住がおこなわれていることが分かった。明治期においては、現在のような復興とは異なった移住という選択肢が採用されていたことは、注目に値する。 (2)河川災害の多様性の把握とその類型化:河川災害の多様性についても、熊野川本流下流域の増水による被害、那智川や熊野川に流入する支流小河川におけるの土石流災害、そして、土石流による土砂ダム形成に伴う災害(天川村)などが見られた。この他に、注目に値するのが、ダム湖への土石流による土砂の大量流入が引き起こす溢水による災害である。これは、1963年にイタリアのバイオント・ダムで起きた災害と同じメカニズムで発生する。大規模な地滑りによってダム貯水湖から押し出された水が津波となり、ダム湖周辺およびダム下流の集落に壊滅的な被害をもたらすというものである。小規模ながらこれと類似のメカニズムでの溢水が今回の豪雨災害において十津川の二津野ダムで起こっていたことが、地元関係者からの聞き取りで明らかになった。このことについても、今後、調査を進めていく。 (3)人々の行動論レベルでの災害対応:祭りについては、その調査地を再選定中であるが、今回、いくつかの市町村での聞き取りから、災害ボランティアのNPOと各市町村の社会福祉協議会との関係が複雑多様であることが分かった。この点は、まさに今後の詳細な調査を必要とする重要な知見である。
|
Strategy for Future Research Activity |
上記(1)から(3)については、2013年度も継続して調査を行なう。 (4)他の災害との比較研究―河川災害の特異性の分析 かつて尾張と美濃を隔てていた木曽川では、尾張側の堤防は高く、美濃側は低くなっており、洪水時には美濃だけが水害に見舞われるようになっていた。その背後には、尾張藩の絶大な権力があった。この他にも、たとえば、琵琶湖水害が大都市・大阪と農業中心の滋賀県の経済格差によって起こっていたように、河川災害にはしばしば権力や経済力の格差が大きな影響を及ぼしている。こうした人為的・社会的要因が災害において占める比重の大きい河川災害と他の災害とを比較し、河川災害の特異性を明らかにすると同時に、他の災害においてもどの程度そうした人為的・社会的要因が災害原因として見出せるのかをも調べる。これらの比較研究は、基本的に文献研究によって行なう。この調査には、研究代表者が主に取り組む。 (5)河川災害の人為的・社会的要因が不可視化されるメカニズムの研究 河川災害の人為的・社会的要因が不可視化されるメカニズムを、新聞記事と国会議事録に見られる河川災害をめぐる言説の分析を通して明らかにする。河川災害が語られるときのキーワードは何か、またそれはどのような文脈に置かれているのかといった分析である。この項目の調査(言説分析)については、品詞分解ソフトであるKHコーダーを駆使して、これまでもさまざまな研究分野において研究を進めてきている研究協力者・寺田憲弘(龍谷大学社会学部非常勤講師)が中心となって行なう。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
上記(1)から(3)の項目については、多人数を動員しての現地調査となることから、出張旅費を重点的に充当し、調査を継続する。 (4)他の災害との比較研究―河川災害の特異性の分析 比較すべき他の災害(震災、津波災害、原子力災害など)の絞り込みをおこない、予算的に可能ならば、その被災地への出張視察を行ないたい。 (5)河川災害の人為的・社会的要因が不可視化されるメカニズムの研究 新聞記事検索とその研究利用のために、朝日新聞社の複数年次の新聞記事DVDの購入も視野に入れている。
|