2013 Fiscal Year Research-status Report
近現代日本の社会変動と河川災害の変容についての研究―紀伊半島豪雨災害からの復興へ
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24530683
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Research Institution | Ryukoku University |
Principal Investigator |
田中 滋 龍谷大学, 社会学部, 教授 (60155132)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
吉田 竜司 龍谷大学, 社会学部, 教授 (10291361)
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Keywords | 河川 / 災害 / 近代化 / 国民国家 / ナショナリゼーション / グローバリゼーション / 水力社会 / 行政 |
Research Abstract |
本研究の主たる目的は、国民国家内部に均質化と差異化を生み出す近代化とナショナリゼーションが河川とその流域社会、さらには日本社会にどのような構造的変化をもたらし、それがどのように河川災害の形態を変化させていったのかを熊野川を事例として調査することである。 熊野川流域は、明治期には伐出林業へ、戦後は育成林業と電源供給地へ機能特化していった。この機能特化が熊野川流域の河川災害の形態をどのように変化させたのかを明らかにするために、(1)近世~現代の河川災害史を各地方史資料にもとづいて調べ、(2)紀伊半島各地の今回の被災地を悉皆調査し、河川災害の多様性の把握とその類型化を試み、さらに、(3)人々の行動論レベルでの災害対応については、祭りの再興とコミュニティ再生に調査対象を絞って行なう。また、(4)河川災害の特異性を既存の災害研究をフォローすることによって明らかにし、(5)河川災害の人為的・社会的要因が不可視化されるメカニズムを新聞記事などの言説分析を通して明らかにする。 2013年度は、2012年度と同様に、(1)、(2)に重点を置いて調査を行なった。(2)の被災地の悉皆調査は、多大な時間と労力を要するため、まだすべての市町村で調査はできていないが、新たに十津川村、天川村で調査を行なった。また、熊野川とは水系は違うが、やはり大規模水害に見舞われた和歌山県中部の富田川周辺市町村(上富田町、白浜町)においてインタビューならびに資料収集を行なった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
(1)近世~現代の河川災害史:1889(明治22)年の十津川大水害では、その甚大な被害の結果、村人たちが北海道に移住し、新十津川村を作ったことは有名であるが、同年の冨田川水害の際に被災者の北海道への移住がやはりおこなわれていることが分かった。明治期においては、現在のようなその土地での「復興」とは異なった「移住」という選択肢が採用されていたことは、ナショナリゼーションの観点から注目に値する。すなわち、幕藩体制下では不可能であった国内移住という選択が明治維新以後のナショナリゼーションの進展の下で可能となったことが災害からの復興にどのような影響を及ぼしているのかという研究課題の存在が明らかとなった。また、この時期からハワイなどの海外への移民が盛んに行なわれるようになったことは、ナショナリゼーションとグローバリゼーションとの関係を考える上で興味深い。 (2)河川災害の多様性の把握とその類型化:河川災害の多様性に関する調査では、十津川最上流部にある天川村における土砂ダム災害からの復興に林野庁や国土交通省あるいは県(奈良県)などの複数の行政組織が縦割り的に関与していることが調査から明らかになった。こうした行政対応が河川災害からの復興にどのような影響を及ぼしているのかという、他の災害(震災など)と共通する研究課題の存在が明らかとなった。 (3)人々の行動論レベルでの災害対応:祭りと災害からの復興との関係については、その調査地を引き続き再選定中である。昨年度の調査で災害ボランティアNPOと各市町村の社会福祉協議会との関係が複雑多様であることが分かっていたが、今年度はさらにいくつかの市町村の事例を調査し、両者の関係の分析を深めることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
上記(1)から(3)の項目については、2014年度も継続して調査を行ない、さらに下記の(4)と(5)の研究を、(1)から(3)の調査結果にもとづいて探求していく。 (4)他の災害との比較研究―河川災害の特異性の分析:河川の社会的な重要性が国家による関与を近代以降拡大させていったという歴史的経緯を河川災害の特異性の分析に結びつける作業を行ないたい。 キーセオリーとなると考えているのが、K・A・ウィットフォーゲルの「水力社会論」である。大規模な河川が存在しない日本においては、河川管理は、幕藩体制の下では分権的になされており、それは昭和の初期まで続いた。しかし、戦後、ナショナリゼーションのさらなる進展と近代科学技術の導入によって、水系を越えた送水や送電が可能となり、それを土台として国家(省庁)がインフラを独占し、その権力を増大させるという状況が生まれた。前近代のアジア社会にのみ適応可能であるとされている「水力社会論」が、皮肉なことにも、近代以降の、しかも戦後の日本において適用可能となったのではないかという仮説を立て、その検証を理論的・実証的に行ない、その作業を河川災害の特異性を明らかにすることに繋げていきたい。 (5)河川災害の人為的・社会的要因が不可視化されるメカニズムの研究:この研究についても、上記の「水力社会論」が重要な意味をもつのではないかと現在考えている。すなわち、河川に対して国家(省庁)が深く関与し、管理を強化していった場合、その河川を巡って起こる災害は、それが国家による政策上のたとえば瑕疵と結びつけられる可能性が高いがゆえに、そうした因果推論を排除するために、災害の発生メカニズムが不可視化されているのではないかという仮説を立てることができる。今年度はこの仮説の検証を理論的に追求していく。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
調査は夏季(夏休み期間)と春季(春休み期間)の2回に分けて行なわざるを得ず、春季の調査が3月に行なわれた結果、精算額に誤差が生じたため。 小額であるので、2014年度中に行なう調査において使用する予定である。
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Research Products
(1 results)