2012 Fiscal Year Research-status Report
宗教的ニューカマーの研究――日本における外国籍住民の宗教への社会学的アプローチ
Project/Area Number |
24530686
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Osaka International University |
Principal Investigator |
三木 英 大阪国際大学, 公私立大学の部局等, 教授 (60199974)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
沼尻 正之 追手門学院大学, 社会学部, 准教授 (10300302)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | ニューカマー宗教 |
Research Abstract |
当初計画から若干の変更を余儀なくされたものの、今年度の調査研究では満足できる成果をあげることができた。 変更について記せば、調査協力者として想定していた若手研究者に異動等が相次ぎ、研究組織を再編成せざるをえなくなったことである。それに伴い、計画上の(「多文化都市」というべき)浜松市での調査を今年度は断念している。 とはいえ(浜松に代わり)、韓国における「多文化特区」であるアンサン市をフィールドに定めて調査を遂行できたことは筆者等の研究に大きな成果をもたらした。その地ではムスリムをはじめ中国、ベトナム、フィリピン他の移民が宗教共同体を営み、その宗教多元的な社会の様態は今後の日本社会が学ぶべき点を多く持つと思われた。 もちろん、国内のニューカマー宗教の調査でも成果をあげた。イスラームについては、礼拝施設であるマスジド開堂にあたってのムスリムと日本人との(ときにトラブルを伴う)交渉について当事者たちに聴き取りを行って貴重なデータを蓄積している。また、イスラーム圏を対象とした(観光や製造業関係の)ビジネス展開が活性化している現状が判明し、日本とイスラームとのインターフェイスが大きくなりゆくことが予想されることから、本研究の意義を改めて確信したことである。 その他のニューカマー宗教については、台湾仏教の進出、フィリピン独自のキリスト教団体の成長を確認している。ブラジル系の福音主義キリスト教では、それが滞日のペルー人からの支持をも集めつつあることを見出した。これらは現状では、外国籍住民に多分に限定されたものであるが、スリランカ仏教(日本テーラワーダ仏教協会)に関しては、信者は日本人が多くを占めており、他のニューカマー宗教とは異なる展開を見せている。いずれのケースであれ国内のニューカマー宗教が存在感を示しつつあることを示唆しており、我々の以降の研究をモティベートとするものであった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究目的は一に、ニューカマー宗教の実態の把握であり、二にそれら宗教と地域社会との間に築かれる関係がいかなるものかを見極めることであった。とりわけ力点は、第二点目に置かれる。ニューカマー宗教に着目する研究者は徐々に増えてきている(我々もその一員である)が、多くの研究はそれら宗教個々に向かい、しかも信者グループへの調査に偏ったものである。ニューカマー宗教という大枠で研究を進めるものは多くなく、加えて信者グループと日本人社会とのインターフェイスに分析の視線を注ごうとしていない。我々の研究は巨視的であり、その点で他研究とは異なるといえよう。 この研究目的は徐々に達成されつつある。ニューカマー宗教の施設が所在する地域住民を、またニューカマー宗教の信者となっている日本人を主なるインフォーマントと定め、調査を継続してきたからである。日本人信者に対する聴き取りは、言語面での齟齬が存在しないだけに意思疎通に支障がなく、そのために「実態」把握という目的にも有効に作用したといえる。 具体的に述べれば、イスラーム側の地域社会への入念な配慮により、概ね両者の関係の良好であることが明らかになってきた。フィリピン独自のキリスト教やタイ仏教については、信者と配偶関係にある日本人が少なくなく、移民にとって彼らが信仰生活上のみならず日常生活においても、その支えとなっていることが判明している。 ただ、ブラジル福音主義キリスト教に関しては、現時で(他ニューカマー宗教に比較して)エスニック・チャーチのニュアンスが濃厚であって、昨今の不況の影響もあり、孤立化の様相が伺えるよう、感じている。 ともあれ、三年間の研究期間の三分の一が過ぎた。この一年間の研究により、ますますニューカマー宗教を研究する意義を実感することになった。今年度以降も、真摯に取り組む所存である。
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Strategy for Future Research Activity |
申請時の計画通り、関西方面そして愛知・岐阜県下のニューカマー宗教へのアプローチを行ってゆく。外国籍住民の集住する街(地域)は限られているが、それらは散在しており、一度の調査行で研究目的は遂行できるものではない。したがって、数次に亘ってフィールド調査を行うことになろう。関西では滋賀県東近江市・甲賀市・長浜市・湖南市あたりであり、愛知・岐阜では西尾・豊田・豊橋・刈谷・小牧・美濃加茂・大垣といった街が出かけてゆくべき土地である。 以上に加え、国内では、第一次産業の「技能実習生」である外国籍住民にも調査を行うべきと思われることから、たとえば東北地方での、非都市部での調査も計画している。典型的には水産加工業に従事する外国籍住民とその宗教が、考察の対象である。これについての既存調査報告は少なく、検討するに値するものであろう。 また、2012年度に敢行した韓国での在韓外国籍住民とその宗教の研究も、費用とメンバーの都合がつけば、再度取り組みたく思っている。「多文化特区」アンサン市の行政的取り組みは、日本にとってもモデルともなりえ、再訪する価値は高いと考えられる。あるいは、台湾を調査地とすることも、考慮されるところである。台湾にも在台湾の外国籍住民が多様な宗教生活を行っているという情報を得、さらにイスラームにいう「ハラール」をめぐる産業も活性化しているという情報を得ており、日本におけるその種の産業の在り方との比較をなす上で有益なフィールドと考えられるからである。 遠方への調査は時間を費やすことから、それは主として勤務校の長期休暇期間に実施されることになる。その期間は限られたものであり、いかに有効に活用しても、上記フィールドをくまなくフォローすることは難しい。とはいえ、出来る限り効率的に研究を実施してゆく。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度使用額(B-A)は832円は、研究分担者の沼尻正之が前年度に消費し残したもので、単純な計算ミスが原因である。これは今年度、通信費に使用する。 ニューカマー宗教の信者を情報提供者とする本研究は、彼らに(我々のために)特別に時間を割いていただく等、そのご厚誼に甘えて成り立っているという側面を有す。彼らへの感謝の念は常に忘れてはならず、最低限の礼儀として調査終了後には彼らに御礼の言葉をしたためて郵送することを行っている。そのための経費に、上記金額を充てる。
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