2012 Fiscal Year Research-status Report
ホームレス支援のためのデータベース共有化に向けた基礎的研究
Project/Area Number |
24530695
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
土肥 真人 東京工業大学, 社会理工学研究科, 准教授 (20282874)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
古山 周太郎 奈良県立大学, 公私立大学の部局等, 准教授 (80530576)
杉田 早苗 東京工業大学, 社会理工学研究科, 助教 (90313353)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 貧困 / 社会的排除 / 差別 / ホームレス |
Research Abstract |
本研究は、長期間にわたりホームレス状態にある人々の地域生活への移行に有効である「トータルサポート」の実現に不可欠なホームレスの個人別データベースの作成、運用、共有にかかわる技術的、社会的、法制度的システムの検証を目的としている。具体的には、①個人別データベースの複数団体による共有とそれに関わる技術的、社会的、法制度的問題の検討、②同データベースを用いた複数の都市や団体間にまたがる社会的資源の配置の検証と提案、③同様のデータベースを既に運用しホームレスを劇的に減少させている米国、英国での取り組みの把握、を行うものである。それぞれについて本年度の実績を述べる。①:川崎市のホームレス支援NPO「川崎水曜パトロール」の協力を得て、過去10年分の諸データを個人別データベースの作成を行ってきたところだが、さらに新たなデータ(施設入所時の聞き取り内容:約800件、巡回相談時の内容:約500件)を入力した。また、支援NPOにこのデータベースを供用し、ホームレス支援活動において実験的に運用してもらい、データベース構造上の問題点、特に名寄せシステムの精度の向上について検討、改良を加えた。②データベースの共有のために全国のホームレス支援NPO12団体へ、データ蓄積の実態、データベース化への意向などを調査した。③アメリカ合衆国におけるホームレス問題への政策スキームと運用の実態を調査した。アメリカには「ケアの継続 COC: Continuum Of Care」という連邦レベルの政策があり、各地に同名の会議が結成されている。ニューヨーク市、サンフランシスコ市のCOCに属するNGO8団体、2市、1連邦組織に、COCの成否やデータベースの活用などについて、ヒアリングを行った。「ケアの継続」政策に基づくCOCは、ホームレス対策の時間的、組織的、財政的継続を実現しており、有効に機能していることが確認できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
川崎市におけるホームレスの個人データベースに関しては、すでに約13000 件3100 人分のデータを入力し、名簿データと個人データをリンクさせるシステムを構築している。しかし新たに蓄積されるデータを簡便に名寄せするシステムおよび照会システムについては改良が必要であった。専門家のアドバイスを得て、新規データの入力方法の簡易化と合わせ、改良を試みている。しかし川崎市のデータベースは他システムとの統合を前提として設計したいと考えており、単一のデータシステムとしての完成度と相反する点があり、未だ十分な成果を得られたとは考えていない。また他のホームレス支援NPOの有するデーターベースとの統合には想定以上の困難があり、現在のところホームレスに関するデータベースの実態調査およびデータベース整備、共有への意向調査に留まっている。海外におけるホームレス政策およびデータベース構築共有に関する調査に関しては、24年度9月にニューヨーク市、サンフランシスコ市のCOCに属するNGO8団体、2市、1連邦組織に聞き取り調査を実施した。これらの成果の一部は東京工業大学社会工学専攻のH24年度修士論文 「アメリカ合衆国におけるホームレスへの政策的取り組みとその実態-ニューヨーク市を事例として-」としてまとめ、都市計画学会誌への投稿準備中である。サンフランシスコ市の結果について本年度7月に「ホームレスと社会」誌へ投稿する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
25年度の達成目標はまず、ホームレス支援に関わる団体(都道府県、自治体、NPOなど)が有するデータベースの共有の可能性の検討である。複数の個人別データベースを共有し統合するための技術的、社会的、制度的な課題を抽出し、その解決を具体的に明らかにすることである。これはホームレス問題の解決に必要なトータルサポート、効果的かつ効率的な社会的資源の適切な投下には、不可欠な課題である。このために、ホームレス支援に関わる団体への聞き取り調査及び当該団体とのディスカッション(意見交換・構築的議論)を実施する。昨年度のアンケート調査の結果を受けて、データベース共有の社会的技術的メリット・デメリットについて率直に意見を交換し、データベース共有の可能性を探る予定である。次にイギリス国ロンドンにおけるホームレス政策、特にデータベース構築共有に関する追跡調査を行う。既に22年度にロンドンでホームレス支援に当たるNGO7団体、行政4団体へのヒアリング調査を実施し、優れたデータベースが共有され、ロンドンオリンピック時に路上ホームレスをゼロにする政策目標が立てられ、実施されていることを確認した。今年度の調査ではこれら政策目標の達成の成否、特にデータベースの有効性、課題などを、明らかにする予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
H24年度は、海外調査へ同行する予定の研究協力一名が都合により渡米できず、未使用額が発生し、今年度へ繰り越す事となった。この分は今年度の国外、国内旅費に当てる予定である。 まず、日本にあるホームレス支援に関わる諸団体への聞き取り調査に関して、国内旅費等が必要となる。データベース共有に関する技術的サポートのための専門的知識の供用を受けるための人件費が必要である。またイギリス国ロンドンへの海外調査に関わる費用として海外旅費等が必要となる。昨年度の成果などをまとめ、学術雑誌などへ投稿し発表するための掲載料、国内旅費などが必要となる。
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