2012 Fiscal Year Research-status Report
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24530722
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Josai University |
Principal Investigator |
于 洋 城西大学, 現代政策学部, 准教授 (60386521)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
包 敏 広島国際大学, 医療福祉学部, 准教授 (00352013)
金 成垣 東京経済大学, 経済学部, 准教授 (20451875)
埋橋 孝文 同志社大学, 社会学部, 教授 (60213427)
真殿 仁美 九州看護福祉大学, 看護福祉学部, 准教授 (70412781)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 国際情報交換 |
Research Abstract |
本科研費を獲得する前、我々は本研究の内容と関わる「中国の弱者層と社会保障制度」をテーマに自主的研究活動を行ってきた。その成果として、2012年5月末に『中国の弱者層と社会保障―「改革開放」の光と影―』(埋橋孝文・于洋・徐栄編著)を出版させた。それは本研究のために、中国における弱者層の社会保障制度の歴史展開と現状分析を行なったものであり、今後の実証研究と国際比較によい基礎を作った。 本年度の夏、埋橋と于が中国の東北地域(瀋陽市、扶順市、長春市)に行き、高齢者福祉サービスの提供と医療保障政策の最新動向について、現地調査を行なった。包は中国の「弱者層」社会福祉政策の展開における新しいマンパワーであるソーシャルワーカーの役割を解明していくことを念頭に、本年度では資料収集を中心に研究を行なった。特に2010年以降中国国内で公布されたソーシャルワーク専門人材の育成に関わるさまざまな公文書の内容と公布背景を分析した。金は本年度では中国における「弱者層」、とくに失業者の生活保障の歴史と現状を明らかにすることを目的にした。そのために、一方では、生活保障とかかわる制度・政策の歴史と現状に関する資料収集や現地調査また分析を行い、他方では、他国との比較のための理論研究を行った。真殿は中国の弱者層(社会的弱者)のなかでも、障害者に関する研究に取り組んだ。2012年度は障害者の権利保障の実現に向けた取り組みに注目し、特に、教育に焦点を当て検証を行なった。その結果、2010年以降中国は児童の教育を受ける権利を保障する重要性を強調するようになっているが、未だ学齢期の障害児童の3~4割が未就学であることがわかった。また、児童の教育を受ける権利を充足させるために、各国におけるインクルーシブ教育の実効性を分析し、自国の状況に適した教育を創造しようとしていることも併せて明らかにすることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在の時点で、交付申請書に記載した「研究の目的」の達成のために着々と研究を進めていると判断される。2012年5月に出版した『中国の弱者層と社会保障』が本研究の前半における成果であり、今後は現地調査を進め、そこで得られた知見を実証分析で理論化していく予定である。 于は全体の統括として分担者と連絡を取りながら、バランスよく研究を進めていく役目を果たしたと思われる。また、中国の社会保障制度の展開と現状に関する論文と農民工社会保障政策の展開に関する論文を『中国の弱者層と社会保障』に収録したほか、東京都の障害者福祉サービスの提供に関する研究も行なった。埋橋は失業と生活保護をテーマにして、研究を着実に行なってきた。その一部の成果を『生活保護』に提示した。包は文献収集などを一通り政府機関の公文書、出版物を通じて行ない、当初予定していた政府機関の公文書を入手する目標は一通り達成できた。また、中国国内の研究者の研究論文も一部入手した。今後、更なる文献の整理や分類作業を進めて行きたい。金は現時点で、研究成果として、前者の歴史・現状分析に関しては、「失業者の社会保障」(2012、埋橋孝文・于洋・徐宋編『中国の弱者層と社会保障』明石書店)、「福祉国家とポスト福祉国家の狭間で――中国の福祉改革のゆくえ」(2012、盛山和夫ほか編『少子高齢社会の公共性』東京大学出版会)、後者の理論研究に関しては、「ポスト『3つの世界』論の可能性――比較福祉国家研究における類型論と段階論」(2013、武川正吾編『公共性の福祉社会学』東大出版会)などがある。真殿は現時点における研究目的の達成度は30%程度と考えている。これまでの研究から、中国障害者福祉政策の主要柱である教育保障の実態を垣間見、障害児童の教育を受ける権利を保障するために国情に適した教育スタイルを模索していることを明らかにすることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究グループとしては、今後計画通りに研究を進めていく。具体的に、前半の成果として得られた歴史展開と制度の現状に対する理解を、現地調査などを通してさらに検証していく。研究費については、前者の歴史・現状分析に関しては、資料収集・現地調査の費用、そして理論研究に関しては、文献研究・研究会での報告・討論のための費用がかかると予想される。于は24年度の成果を踏まえ、農民に対する社会保障を「適度普恵型」社会福祉の観点から分析していく。特に、負担の面と給付の面における「適度」の評価基準を考えて行きたい。包は次年度引き続き文献を集め、最新の研究動向を把握し、自分の研究に活かしたい。できれば中国国内のソーシャルワーク教育に従事する研究者と交流を深め、現在中国におけるソーシャルワーク教育機関での最新の動きをとらえたい。金は上記の平成24年度の到達点をふまえて、基本的にいままでと同様の方法、つまり歴史・現状分析と理論研究という2つの軸にそって、研究をすすめていく予定である。真殿は中国障害者福祉政策の解明を手掛けるに際し、障害児童の教育保障、障害者の小康水準の向上に焦点をあて研究をすすめる。教育保障は人権の基底に位置すると考えられていることから、教育を受ける権利保障の実態についてさらに深く検証し、障害者の権利保障に関する中国の姿勢を見極めていく。併せて、中国が目指す2020年までの全面的な小康の実現に向けて、障害者の生活水準をどのようにして高めていこうとしているのか、生活保障に関する制度を中心に分析をすすめる。特に、一部地域で試験的に行なわれている障害者手当制度の創設にかかわる動きに注目する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度は、申請当初の予定通りに研究を進めていく。具体的計画としては以下の通りである。①研究者同士間の意思疎通と正確かつ最新な情報の確保のために、定例研究会を開催する。②ほかの研究者と意見交換を行うために、国内外で行われる関連学会に積極的に参加し、自分らの研究報告を発信する。③現地調査の実施に関しては、中国の中部地域を中心に、「弱者層」社会福祉政策の展開について最新の資料と情報を収集する。また、中国内の研究者と意見交換したり、インタビューをしたりする予定である。 なお、本年度の最重要の研究活動となるが、現地調査とアンケート調査とあわせて、該当地域の該当制度の形成経緯これまでの展開、財源調達の状況について正確かつ最新の情報を入手するとともに、できるだけ受給者に関する多くのミクロデータの獲得を目指す。 予算計上の方針としては、書籍・資料の購入費、専門知識の提供やデータ整理入力作業に必要な謝金、現地調査のための出張費用、国内外の学会参加のための費用を計上する。予算配分については、于洋(60万円)、埋橋孝文(40万円)、包敏(20万円)、金成垣(10万円)、真殿仁美(20万円)というようにしている。
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Research Products
(14 results)