2012 Fiscal Year Research-status Report
知的障害者の離職プロセスを手がかりとした就労支援モデルの構築
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24530729
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Showa Women's University |
Principal Investigator |
根本 治代 昭和女子大学, 人間社会学部, 講師 (70386340)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 離職 / 知的障害者 / 就労支援 / ソーシャルワーク |
Research Abstract |
本研究は、知的障害者のソーシャルワークに基づく就労支援モデルを構築するのが目的である。一般就労した知的障害者の離職問題へのアプローチには、職場定着を目的とした労働生産性やソーシャルスキルなど労働者個人の内的要因のみならず、当事者、家族、支援者等を含めた外的要因による複雑な交互作用からの分析が求められる。そこで本研究は知的障害者の職業的移行が伴う離職に焦点をあて、離職後の生活変容プロセスを当事者、家族、就労支援者との交互作用分析により明らかにする。本年度は以下の調査を実施した。 調査1)離職を経験し一般就労を目指す知的障害者とその家族にインタビュー調査を実施し、職業選択から離職前後に至る質的データを収集した。 調査2)就労支援者にインタビュー調査を実施し、離職後支援の実践事例(22事例)を中心に、離職支援プロセスとして「意思の確認」、「離職手続きの調整」、「離職後のアセスメント」の3つの過程から質的データを収集した。 調査1)では、当事者のデータを中心に、離職前後の職場上の課題に対する対処行動をストレッサーとコーピングの交互作用から分析した。離職に至る要因には当事者による回避型のコーピングが多用され、一般就労における継続要因には問題解決のためのコーピングが用いられていた。調査2)では就労支援者の組織内外の関係調整を担うコーディネーターの認識や、当事者や家族、雇用主との間に経験されるさまざまな葛藤に直面する際の当事者との意思決定過程に関する質的データを得た。 今後の課題としては、調査1)、2)のデータを論理的観点から分析し、離職後の意思決定過程を焦点においたソーシャルワークに基づく就労支援モデル構築へとつなげていきたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度に実施した調査の進捗状況は以下のとおりである。家族へのインタビューでは、当事者の離職経験は、家族の障害に対する認識や行動、社会との交互作用をとおして、①就労移行にどのような影響を及ぼしたのか、②離職後の生活変容プロセスはどのようなものなのか、の2点に焦点をあて質的データを収集した。家族は本人、就労支援者、雇用者を含む複雑な交互作用をとおして、ディスアビリティによる「不利益の増幅」を経験するが、就労支援者による「肯定的なアイデンティティ形成への寄与」が、当事者に「自己効力と職業にかかわりある選択」を促し、家族による「経験した不利益の再編成」へと繋がっていることが分かった。更に家族には支配的なディスアビリティに対して「障害の局所的肯定」へと再編成しながらも、「マクロな社会構造のなかでの親亡き後の生活」に関する不安をもつなど、ライフサイクル上の課題があることを明らかにすることができた。以上の調査結果を、1)第20回社会福祉士学会(題目:離職を経験した軽度知的障害者の家族にみる変容プロセス)、2)第47回日本発達障害学会(題目:軽度知的障害者の離職後支援に関する考察―家族の立場からー)、3)第60回日本社会福祉学会(題目:離職を体験した知的障害者への支援―家族の意味づけによる生活の変容プロセスを中心にー)、以上の3団体の学術学会にて報告した。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度に収集した当事者、家族、就労支援者の離職による移行支援になかで、様々な葛藤に直面する際の意思決定過程関する質的データを、今後は実証的かつ論理的に分析していく。また離職後の意思決定過程におけるデータの妥当性を高めるため、以下の調査を実施する。 1)離職後の意思決定の構造を明らかにするため、調査で収集したデータからアンケート項目を抽出・作成し、量的分析の方向性を提示したいと考える。 2)当事者のインタビューにおいては、データの妥当性を高めるため担当就労支援者への追加調査を実施する。 3)意思決定過程として、カンファレンスに参加し当事者、家族、支援者との交互作用に焦点を当てたデータを収集する。 1)、2)、3)の調査データを集積し、就労支援の実践現場における「人」と「環境」との交互作用の観点から、近年の就労支援に関する研究に対して実証的観点から新たな所見としてソーシャルワークの焦点を通して、知的障害者の離職後支援モデルの構築化につなげていく。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度に実施した就労支援者へのインタビュー調査の結果を分析するうえで、内容分析ソフト(テキストマイニングツール)と、多重応答分析のためのソフト(SPSS)を購入する予定である。分析結果を学術学会へ報告するため参加費、旅費、宿泊費、資料印刷費を研究費から使用する。分析結果を学術学会誌に投稿していく際、英文要約のネイティブチェックを業者依頼するため翻訳代として使用する。また平成24年度に実施した7名の当事者へのインタビュー調査は、その結果の妥当性を高めるため担当就労支援者へのインタビュー調査を平成25年度も継続して実施する。その際のインタビュー謝礼、交通費に研究費を使用する。また就労支援における離職後支援モデルの構築を論証していくうえで、その分析視角となるソーシャルワークの価値、対象認識、機能・役割、方法、スキルに関する文献を収集する。その書籍代として研究費を使用する。
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Research Products
(3 results)