2013 Fiscal Year Research-status Report
幼児と児童の絵画鑑賞活動における「意味創造型」理解の発達と育成に関する研究
Project/Area Number |
24530824
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
森 敏昭 広島大学, 教育学研究科(研究院), 教授 (10110834)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
若山 育代 富山大学, 人間発達科学部, 准教授 (90553115)
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Keywords | 幼児 / 小学校低学年児童 / 絵画 / 物語作り |
Research Abstract |
物語を作る行為はリテラシーを準備する重要な経験であるので,幼児や小学校低学年児童にとって重要な教育的意義を持つ行為と考えられる。美術教育の分野では,幼児や小学校低学年児に絵画を提示し,物語を作ることを促す実践的な取組みが行われている。現在のところ,その物語を作る行為がどのように発達していくのかという長期的な見通しはほとんどない状況で実践が行われている。この背景には,素材を見て物語る行為の年齢変化を明らかにした発達的研究が行われていないことがある。そのため,子どもの発達の長期的な見通しのない,実践者の経験に基づく直観的な指導が行われている可能性が高い。そこで,今年度は年中児,年長児,小学校1年,小学校2年による絵画を用いた「物語作り」を比較し,その物語にどのような年齢的特徴があるかを明らかにすることを目的とした。主な分析観点として,幼児と小学校低学年児童が用いる物語文法に着目した。幼い子どもは「自分なり」の感じ方と表し方で物語を作っている。これは言いかえれば,自分なりのルールによって物語を作っているといえるだろう。そこで, Thorndykeの物語文法を参考に,幼児と小学校低学年児童がどのようなルールによって物語を作るのかを明らかにした。いくつかの事例を取り上げて分析した結果,年中頃は一つの出来事についてのみ詳しく話す物語を作り,年齢があがると次第に論理性を意識し始めて複数のエピソードを盛り込んだ物語を作るようになり,そして,小学校2年生ごろになると複数のエピソードを繰り返した上で一つの結論に収束するという,複雑な物語を作るようになることが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度に予定していた4歳児と5歳児のデータ収集を無事に終了することができた。収集したデータの分析により,幼児期後期から小学校低学年期にかけての物語作り,すなわち,意味創造型理解の発達の道筋が見えてきた。本研究のこうした成果は,これまでの意味創造型理解に焦点を当てた研究領域に対して新たな知見を提供するものである。なぜならば,これまでの研究は字の読み書きを十分に行なえる小学校中学年以上を対象として意味創造型理解の発達過程を明らかにしてきたが,本研究は文字の読み書きが成立していない幼児期をスタートとしてどのように意味創造型理解が発達していくのか,その道筋を示すことができたためである。
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Strategy for Future Research Activity |
申請時の予定では,言語的表象の働きが弱い幼児に言語教示を行い,絵画鑑賞における年中児及び年長児の「意味創造型」理解力の育成を行うことを予定していた。具体的には,幼児の物語の発達過程(内田,1986)をふまえ,絵画鑑賞中の年中児と年長児に対して,「難題‐解決」スキーマを活性化させる言語教示か,「組み込み式」スキーマを活性化させる言語教示を行うものである。しかし,これまでの研究の積み重ねの中で,実際の保育の文脈では絵画をみて物語を作る活動はほとんど行われないこと,4歳児は絵画を用いた物語作りがほとんどできないことが明らかになったことから,上述した申請時の予定を変更することを考えている。つまり,今年度は幼児を対象とした「意味創造型」理解の萌芽を育む指導法の解明に取り組むが,その際,現代の保育の文脈に適した実践的研究となるように配慮する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度への繰越金が発生したのは,当初計上していた旅費を使用しないですむ状況が発生したためである。具体的には,研究分担者の単独によるデータ収集が可能になったため,研究代表者及び分担者分のデータ収集にかかる旅費を使用せずに済むことになったという理由である。 そのため,繰り越した予算は学会参加のための旅費とし,本研究の成果を国際的に発表することに使用する。
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