2012 Fiscal Year Research-status Report
日本における学校化社会の形成過程―教育制度の社会史の視点から
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24530944
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
木村 元 一橋大学, 大学院社会学研究科, 教授 (60225050)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 学校化社会 / 学校 / 人間形成 / 地域社会 / 職業社会 / 戦後教育 / 教育史 |
Research Abstract |
1、産業構造と学校・職安・労働市場との関連に着目したミクロレベルの研究の一環として基礎的な資料の収集、整理を実施した。 2、広く人間形成と学校に関する資料収集を行った。その成果を踏まえながら資料に即した研究状況と位置づけを示し、あわせて資料解題も含めた論集をまとめた。今後の研究の基礎資料としての整理をおこなった。 3、兵庫県但東町の学校研究を教育実践と卒業進路に注目して進めた。東井義雄を軸として二つの成果を示した。一つは東井の学級の卒業生の調査をおこない、1950年代の兵庫の中山間地区の進路動向の実態を聞き書き調査を踏まえてその一端を明らかにした。もう一つはこんにちまでにいたる眺望のもと学校化社会への移行のキーパースンとして東井の位置づけをおこなった。なお、調査予定者が事情で動けず倉岡愛穂調査は実施できなかった。 4、有効な事例地の検討をふまえ周縁地として徳之島、奄美大島・加計呂麻島調査を行い、当地の学校創設から高度成長期にかけての学校の状況について調査を実施した。さらに東北の地域として被災地で廃校になった宮城県東松島の成瀬第二中学校や浜市小学校の基礎的な調査をおこなった。 5、社会との関係を意図的に断ち切りながら学校教育を自律的に作り上げようとした実践者の代表として斉藤喜博の実証研究の準備を行った。その一環として教育論叢ならびに瀬川頼太郎の検討を進めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究は、日本における学校の受容の時期とその条件や進行の有り様を解明することを目的とする。既にこれまでの研究で、小学校の定着に伴う課題や初等後教育機関の拡大などの分析を通して、1930年代がその起点に当たることを仮説的に示してきた。本研究ではその仮説をその後の歴史的な展開の中に位置づけ、1930年代から高度成長期までを一つながりのスパンとして10代が就学の対象として包摂される過程を学校化社会の一つの指標とし、学校受容化の過程について検討を加える。その際、教育制度の社会史という方法を用い教育の内側を描き、日本の学校システムの歴史的定着の特質を明かにしようとするものである。 研究実績の概要に示したように、初年度として研究を進める上での基盤を整備し、人間形成と学校に関する基礎資料を収集しその整理をおこなうと同時に、学校方式の展開過程や地域と学校との関係、社会と学校の連関といった観点から研究協力者とともに論集を刊行した。さらに正系から周縁の場への着目により日本の学校化社会の受容の性格を捉える視点を深め得た。地域の実態調査でも今後に繋がる成果を生み出し、未調査地も含めて新たな方向性も見いだすなど、当初の計画を上回る成果もしめすことができた。 そのなかで、学校化社会を支える人間形成の特色を捉えるために人間形成論上の理論的な整理が新たな課題として持ち上がった。改めて教育学のみならず近隣諸科学の動向や成果を踏まえたカテゴリーの整理と検討が平成24年度の研究のなかで認識された。そこでこれらを今後の研究のなかで積極的に位置づけて研究を遂行する。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度の研究の整理を踏まえて、一方でマクロなデータ・資料の収集にあたると共に、正系や正統の学校からみて周縁の地や位置におかれた学校に注目し、そこに表れた学校受容、学校化社会の性格の分析を進める。 平成24年度の成果を踏まえながら、鹿児島・奄美や東北の高度成長期の移動を学校の課題との関係で深める。それらの歴史過程に注目し、地域社会における学校の成立の基盤という問題を捉えるための事例の探索、資料の収集を継続する。こんにちポスト産業社会が輩出する単純労働層の教育が大きな問題となっているが、学校教育による制度化された学力だけでは対応が難しく、学校でつけるべき力量をさらに広く捉える議論がなされてきている。「労働や生活文脈の実態に結びついたリテラシー」や「共同性形成のための関係形成力」などが課題とされているが、これらは学校化社会の本格的な稼働の中で社会と学校との壁を高くすることで排除されたり薄められたものであった。学校化社会の過渡期においては地域による人間形成の土台はこうした部分も含めて学校との相互交流的な人間形成力を持ち合わせていた。そこに存在したエネルギーを学校教育の中に取り入れ学校教育の土台をつくることで、学校による人間形成の実質化(「主体化」)を遂げようとしたともいえる。学校と地域の関係が大きく変容しているこんにちの新しい状況のなかで、学校での教育実践を成り立たせる土台をどのように捉えるか改めてこの問題に注目する。 この問題は学校から職業への接続という点と密接に関わり総合的な視点で検討を深める必要がある。こうした素材の発掘と分析を進めながら、一方で人間形成を担う教育以外の領域の動向も視野に入れ、これまでの調査と併せて捉えるためのマクロな動向を歴史的に位置づけるための作業に力を注ぐ。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
下記の研究を遂行するために、若干の平成24年度残額も含めて、学校化社会への過程の全体の関連資料の収集と整理分析を進める。広汎に視野を広げると同時にこれまで収集してきた資料の整理を本格的におこなう。昨年刊行した資料集の検討をおこないながら、論集の成果を踏まえて全体の位置づけを考える。並行して、この研究自体を日本の人間形成の変容の動向と重ねて把握するための基礎的な教育学や関連諸科学のカテゴリーの検討を集約的に進める。 具体的には、平成24年度に得られた成果をもとにしながら、研究全体の構造を確認してそれぞれの分担と研究の全体のなかで平成25年度の遂行目標を確認し、①~⑥の検討を行う。 ①都道府県レベルでの30年代から70年代初頭までの学校―(職業社会・軍)の移行関係の全体像を捉えるための基礎的な検討をおこない、全体のマクロな枠組みの構築にあたる。その際に、人間形成の基礎カテゴリーの検討を教育学にとどまらない関連諸領域も視野に入れて検討を行い、整理のための枠組みをつくるための基礎的な検討を共同で実施する。②高度成長期の進路について平成24年度の情報を踏まえて検討を続ける。③但東調査の検討を継続する。④社会の動向に対応するペダゴジー形成の例として、東北・関東を中心に綴方に限らず学校の展開を捉える。併せて、中部地区で岐阜の日青協や青年学級の資料の収集にあたる。⑤1930年代から高度成長期にかけての進路問題を教員や教育運動家として受け止め実践した人々の資料を収集する。民間教育研究団体の動向を視野に入れてそこで生み出された独特なペダゴジーの検討を行う。⑥夜間中学校に関して、さらに学校と「軍」の移行に関して戦後の自衛隊との関連で予備的な検討に着手する。 全体を統括・各班と連携して研究を遂行する。
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Research Products
(6 results)