2012 Fiscal Year Research-status Report
<感覚>作用、特に<音>に注目した環境教育と文学教育の横断的研究とその実践
Project/Area Number |
24530980
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Kawaguchi Junior College |
Principal Investigator |
大國 眞希 川口短期大学, その他部局等, 教授 (00418980)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小島 望 川口短期大学, その他部局等, 准教授 (10435240)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 文学教育 / 環境教育 |
Research Abstract |
音・感性に関する研究については、文献に基礎的なものから枝を広げてあたっている。特に佐々木健一『日本的感性―触覚とずらしの構造―(中公新書、2010)については、物語研究会の1月例会において共同討議を行い、2月例会において大國眞希が「走れメロス」を題材に、3月例会では安藤公美が「羅生門」を発表し、討論を行った。9月11日に教科書図書館で調査を行い、その調査の一部を、「<音>に注目した 文学教育と環境教育の横断的研究序論」(「川口短期大学紀要」第26号2012・12)に発表した。内容は、文学教育についてのみならず、本研究に関しての全体の概観をつかみ、その方向性を示したものである。個々の作品と<音>とのかかわりについては、物語研究会11月例会において、大國が「太宰治『右大臣実朝』を読む」について発表をし、「小説に倍音はいかに響くのか、言葉はいかに生成するのか」を論文発表した。物語研究会12月例会においては大國が、宮部みゆき「本所深川ふしぎ草紙」について発表を行い、「耳から内在化される七不思議~『本所深川ふしぎ草紙』」として論にまとめ、『宮部みゆき』(鼎書房、近日刊行予定)に投稿した。 次に、震災と文学的感性に関する研究については、一九二三年四月から一九二四年三月の『中央公論』『改造』『新潮』などにあたり包括的な資料収集を行った。物語研究会6月例会において討議をおこない、10月例会では遠藤祐氏に武者小路実篤「桃源にて」についてのご発表をお願いし、震災と文学的感性についての議論を行った。 最後に、環境教育については、小島が6月19日~24日にサウンドマップ作成実践のための候補地の調査や研究協力者らとの協力体制構築のために沖縄を訪問し、現地調査および教育実践のための準備を整えた。また、大國、小島、安藤が9月3日に鎌倉でサウンドマップの作成を試み、より本研究に沿うかたちへと改良した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の1年目においては、以後の本格的な研究に先立ち、研究方法・調査対象資料等のチェック、理論の基盤づくり、調査対象地の精査などの様々な準備を整えることを目標に掲げていた。具体的には、①関東大震災前後の小説を調査し、対象となるテクストを選定・抽出すること。②感覚受容理論、音楽理論に関する文献を精査し、文学における<感覚>特に<音>に関する理論創出の基盤をつくること。③調査地の精査を行うこと。④サウンドマップの調査地域の自然や文化についてよく知る古老への聞き取りを行う一方で、一方で、地元住民に対してサウンドマップ作成への参加・協力を呼びかけることを計画していた。 ①については、関東大震災前後の一九二三年四月から一九二四年三月の『中央公論』『改造』『新潮』などにあたり包括的な資料収集を行った。対象となるテクスト選定、抽出するための下準備は十分に整ったと考えられる。②については、文学における<感覚>特に、<音>に関する理論創出には至らないが、宮部みゆきの「本所深川ふしぎ草紙」や太宰治の「右大臣実朝」「I can speak」などを論じることにより、具体的な機構についての議論は深まっている。今後も、感覚受容理論や音楽理論に関する文献を精査すると同時に、個々の作品を読み進めることによって、文学における<感覚>特に<音>に関する理論創出を目指したい。③については、沖縄北部のやんばる地域の東村高江地区を中心に3カ所、サウンドマップ作成実施場所を設定した。さらに環境教育と文学教育を融合させるかたちでサウンドマップの改良を試み、実地調査から得られた材料を基に適切な方法を確立した。④については、実施場所である沖縄県北部のやんばる地域を中心に研究協力者を探し、田代豊名桜大学教授、西村篤沖縄工業高等専門学校準教授、『北限のジュゴンを守る会』、の3者の協力が得られることになった。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度同様、月に1回の割合で物語研究会を開催し、震災と文学的な感性、文学と感覚受容について、個々の作品にあたりながら、まだ先行研究に基づいた議論を活発におこない、研究を推進していく。教育方法論については、大國は「感性と文化―太宰治『走れメロス』の教材力」を「別冊太宰治スタディーズ」に投稿している。さらに、調査研究を継続し、教科書に掲載された本文と挿絵を手掛かりとして、文学における<音>と感性教育にいての論文をまとめ、発表する準備を進めている。また、入手した震災前後の作品一覧などの資料については、現在、ホームページで公開することを検討している。 本年度は3か年計画の2年目にあたるので、冊子を作成する準備をするなど、さらに広く研究成果を問うていきたい。 小島は、環境教育と文学教育の接点を創出するための重要な役割を持つサウンドマップについて、さらなる改善・改良を加えていきたいと考えており、近々所属大学で受け持っている講義「自然科学概論」の実習として扱い、その結果を実践報告としてまとめて環境教育学会で発表を行なう予定としている。最終的な目標である教材化に向けては、今年度の夏期~秋期に行なう沖縄での実践結果を基に関係者間で議論を重ねていく。また、沖縄でのサウンドマップを用いた実践後は協力者に可能な限り集まってもらい、勉強会を兼ねた発表会を行なう予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
今年度も感覚受容理論、音楽理論、文学教育、環境教育、震災などに関する文献、著作を購入する。また必要に応じて複写する。そのための購入費、調査のための交通費、印刷費が必要となる。また、川口短期大学から福岡女学院大学へと異動となった大國が、月に1度の物語研究会を開催するために、また調査を継続するために使用する。具体的には、現地への交通費、コピー代、調査を依頼した場合の謝金などにも充てる。 更に、ホームページの立ち上げ、運用、入力などにも使用する。入力作業をお願いする場合には、別途、作業費が生じる。研究成果をまとめて広く問うために、冊子の刊行を計画している。そのまえにシンポジウムを開く必要があり、シンポジウムを開催するための諸経費が生じると考えられる。昨年度末には現地(沖縄)に大國と小島で調査に入る予定であったが、日程調整ができず、今年度の可能な限り早期に調査に入る必要がある。そのための宿泊費や交通費等が必要となる。
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