2014 Fiscal Year Research-status Report
英国のエスニック・マイノリティ児童生徒の学力向上政策について
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24530991
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Research Institution | Gunma University |
Principal Investigator |
渡部 孝子 群馬大学, 教育学部, 教授 (90302447)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | エスニック・マイノリティ / ナショナル・カリキュラム / 学力向上 / 英国 |
Outline of Annual Research Achievements |
英国では,2014年9月に新しいナショナル・カリキュラムが導入され,カリキュラムが映し出す学力観がそれ以前のカリキュラムとは大きく異なるものであることがわかった。平成26年度は特に初等科英語とEAL(English as an Additional Language)児童への教育上の課題に絞り,分析を進めた。 平成26年度に行った,文献調査や聞き取り調査,学校訪問を通し,新しいナショナル・カリキュラムが示す「英語力」から見られるEAL児童の教育上の課題をまとめ,以下に三点挙げる。まず,英語科の学習のねらいでは,英語によるコミュニケーション能力がないものは「事実上公民権をはく奪される」ことにつながるという「英語絶対主義」という立場が明確に打ち出されており,さらに「標準的な英語」の使用が強調されていることがわかった。学校外において英語へのアクセスの機会自体が限定される多くのEAL児童が,どの程度「標準的な英語」にアクセスできるかが教育課題として挙げられる。二つ目は,新しいナショナル・カリキュラムへのアクセスのための学習支援や人的リソースの不足である。2011年にエスニック・マイノリティ・アチーブメント補助金が廃止されたため,EAL児童の教育に関わる教員やバイリンガル・アシスタントの研修機会が縮小され,若手のEAL教育専門家の育成が危ぶまれている。最後に,新しいナショナル・カリキュラムでは,これまで統一されていたKey Stageごとの学習到達度を測るためのレベル設定や評価基準がなくなり,それぞれの学校に学習到達度の評価基準の設定が委ねられることになった。そのため,地域間学力格差,学校間学力格差,またEAL児童間での学力格差のさらなる拡大が危惧される。 今後,新しいナショナル・カリキュラムに関わる議論や動向を注視しながら,カリキュラム2000との比較を行っていく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
新しいナショナル・カリキュラムの分析を行いながら,前倒しで2013年度より新カリキュラムを導入している初等学校に訪問し,校長から聞き取り調査を実施したり,教員養成の専門家から実際の教育現場の情報を得ることができた。 また,英国の大学の教員養成課程で学ぶ学生にアンケート調査を行い,彼らの「国語(英語)観」に関わる意識を分析することができた。 しかし,新しいナショナル・カリキュラムとナショナル・カリキュラム2000とが示す学力観の相違に関わる分析がまだ十分とは言えない。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度は,アンケート調査の分析やカリキュラムの分析をまとめ,学会にて研究発表を行い,そこで得たフィードバックを参考に,報告書や論文をまとめる。
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Causes of Carryover |
現在,英国の学校教育は大きな変革期にあり,2014年9月に新しいナショナル・カリキュラムが導入されたが,カリキュラムが映し出す学力観がそれ以前のカリキュラムと異なるものであり,比較分析を行う必要ができたため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成27年度はカリキュラムの比較分析を進め,学会にて研究発表を行うための旅費,及び論文としてまとめ学会誌に投稿するため,投稿料が必要となる。また,これまので研究成果を報告書にまとめ,印刷し,関係機関等に配布するための印刷費と郵送費として補助金を使用したい。
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