2012 Fiscal Year Research-status Report
日本の教育ADRの構築に向けたADR先行領域の研究─社会保障・医療分野を中心に
Project/Area Number |
24531001
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
|
Research Institution | Aichi University of Education |
Principal Investigator |
松原 信継 愛知教育大学, 教育学部, 准教授 (30593545)
|
Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
Keywords | 福祉ADR / 社会福祉法 / 社会福祉基礎構造改革 / 運営適正化委員会 / 福祉オンブズマン / ADR促進法 / 民間型ADR / コミュニティ基盤のADR |
Research Abstract |
本研究は、わが国における教育ADR(裁判外紛争解決方法)の将来像を提示するために、博士論文のなかで探究した米国のADR研究の成果を用いつつ、わが国において先行する社会福祉(保障)分野と医療分野を対象に、その紛争解決の理論と実際、課題を調査・分析しようとするものである。平成24年度の研究計画目標に関しては、①社会保障(福祉)分野の紛争解決に関する基本文献と資料の収集、②わが国の社会福祉分野の紛争解決事業(体)についての実態調査の実施、③「ADR促進法」の意義と問題点の把握、の三点に研究上の力点を置いた。 成果としては、まず、資料文献に基づき、福祉領域の近年の大きな制度変更とそれに伴う新しい紛争・トラブルの発生を認識できたことがあげられる。実際、社会福祉基礎構造改革による“措置から契約へ”の転換は否応なく福祉をめぐる紛争の増大を招き、2000年の社会福祉法の制定によって生まれた苦情申し立て制度がどのように機能しているかに重大な関心を呼び起こさざるを得ない。このような問題意識に基づいて、24年度は、i)社会福祉法83条から87条に規定する「運営適正化委員会」の活動調査(「愛知県運営適正化委員会」へのヒアリング調査)、ii)同法82条に基づく民間レベルの苦情・紛争解決方法の実態調査(「あいち福祉オンブズマン」へのヒアリング調査)を実施し、その分析を通して、現時点での福祉領域における苦情・紛争解決の実際とその問題点を把握することができた。加えて、行政型ADRに比した民間型ADRの利点を確認するなかで、「ADR促進法」がもつ意義とその問題点も理解することができた。 とりわけ、制度のみでは真の解決にはならず、地域(コミュニティ)に寄り添った紛争解決こそが求められていることを認識できたことは、教育領域の制度づくりにとっても大きな成果であった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
平成24年度は、講座の人員減のなかで請け負わざるを得ない仕事が激増し(教務委員、教育実習部門代表、ハラスメント防止委員、教員人事委員、紀要編集委員等々)、度を越えた多忙化のなかで本科研費の研究に注ぎ得るエフォートの数値を高めることができなかった。
|
Strategy for Future Research Activity |
福祉分野と医療分野は、それぞれ予想以上に大きな領域であり、24年度においては後者の研究にほとんど着手できなかったことは残念であった。25年度においては、引き続き福祉(社会保障)分野のADR研究を進めるなかで、それと並行して、医療分野の研究にも力を向けたい。加えて、25年度においては、紛争解決時に用いられる規範(norm)の性格にも注目し、ADRにおけるソフト・ロー(soft law)の問題を重要な研究テーマとして考察対象に加えていく。 こうした研究が成果を生み出すためには比較制度論的なアプローチが不可欠である。それゆえ、25年度においては、英米圏のADRに関する現地調査を複数回実施し、公開性(openness)、秘密保持性(confidentiality)、公的アカウンタビリティ(public accountability)、強制力(enforcement)の四要素を踏まえつつ、行政型ADRと民間型ADRを縦軸に、交渉・調停(mediation)と仲裁(arbitration)を横軸に取って分類・分析を加え、ヒューマン・サービスに最も適した紛争解決方法(ADR)のあり方を探究していきたい。 なお、25年度においては、学会発表を積極的に行い、研究成果の質を高めていく予定である。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
先述の通り、24年度は本科研費研究のエフォートを十分に確保することができず、予定された年度予算を執行することができなかった。上記に述べたように、25年度には複数回の海外調査の実施が必要であり、24年度予算の未支出分は、25年度予算とともに、同研究調査に向けていきたいと考える。
|