2013 Fiscal Year Research-status Report
日本の教育ADRの構築に向けたADR先行領域の研究─社会保障・医療分野を中心に
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24531001
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Research Institution | Aichi University of Education |
Principal Investigator |
松原 信継 愛知教育大学, 教育学部, 准教授 (30593545)
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Keywords | 医療ADR / 医療法 / 患者の権利 / 医療メディエーター / 診療契約 / 医療安全支援センター / 行政型ADR / ADR促進法 |
Research Abstract |
1.『日本苦情白書』(関根眞一総編集、2009年)によれば、「近年、職場で苦情が増えていると思うか」の質問に対して、教育と病院だけが「思う」という答えが50%を超えている。平成25年度は、社会保障(福祉)分野に引き続き、このように教育と並び紛争が激化している医療分野に関して、その紛争(苦情)対応と解決システムの実態を一定程度、解明することができた。具体的には、文献調査とともに、医療紛争への対応と解決を担っている三つの機関に対し聴き取り調査を行い、得られた事実・資料の分析を行った。三つの機関とは、①行政機関…愛知県医療安全支援センター(健康福祉部健康担当局医務国保課)、②医師会…愛知県医師会苦情相談センター、③弁護士会…愛知県弁護士会・紛争解決センター(医療ADR)である。考察の結果は今後の教育紛争解決方法の確立に向けてきわめて参考になるものであった。 2.特殊教育分野の紛争解決に関し、早くからADR(メディエーション)を導入している米国・カリフォルニア州を訪れ、同州教育省の関係職員(Administrator of Special Education/Mediator)と同州公立学校のスタッフ(Principal/Special Education Teacher)からADRの実際について聴き取り調査を行った。同調査を通して、新たな課題と今後の研究に資する貴重な資料を収集することができた。 なお、25年度7月20日・21日に桜花学園大学で行われた日本教育政策学会第20回大会にて、24年度の研究成果に基づく学会発表を行った。また、25年度3月には、愛知県医師会・研究部門が主催するシンポジウムにて、教育分野から苦情・紛争の現状を報告し、新聞でも大きく取り上げられ、本研究の一端を社会に提示することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
24年度は人員減等による大学の仕事の過重負担のため大幅に研究が遅れた。25年度にはその遅れをかなり取り戻すことができたが、いまだ十分とは言えない。25年度の研究の主たる目標の一つは医療分野の紛争解決方法の考察であったが、やはり予想以上に大きな領域であり、医療関係機関への聴き取り結果の分析に時間がかかっている。 海外調査については、25年度に複数回を予定していたが、米国・カリフォルニア州での調査のみ実施することができた。もっとも、この調査では大きな成果を得ることができ、研究の進度の達成に貢献した。 なお、25年度には、本研究に関わる学会発表を行い(学会誌の刊行は26年度)、また、医療関係者の研究会・シンポジウムにおいて研究の成果を報告することができた(報告書の刊行は26年度)。研究成果の発表と言う点では、一定、前進し得たと言える。
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Strategy for Future Research Activity |
1.26年度は、これまでの調査によって明らかになった社会保障(福祉)分野と医療分野それぞれの紛争解決方法の実際─とその課題─を整理し、ベースにある両者の共通点と相違点、そして、(紛争解決のあり方が)両者で異なる理由は何であるかを、福祉サービスと医療サービスの性格の違いに留意しながら考察を進める予定である。これに加えて、教育分野の紛争解決に関して、両分野から何を学び取り得るか、教育という営みがもつ特質に注意しながら探究していきたい。 2.これまでの研究調査によって得られたデータに基づき、行政型ADRと民間型ADRのメリット・デメリットを整理・分析する。教育分野において、前者を中心とすることに異論はないであろうが、民間型ADRの活用の余地はないのか。現時点での報告者の認識では、民間型ADRも教育分野の紛争解決方法として十分に可能性を持っていると考える。教育紛争に関わって、両者をどのように位置づけ、連携を図っていくのか、設置主体の観点も踏まえつつ、教育ADRの将来像を明示したい。 3.25年度の米国・カリフォルニア州調査でのヒアリング、および、収集することができた資料の翻訳・解析を進め、学会・研究会等で報告、発表していきたい。また、26年度は、親の要求・苦情に関わる教育行政機関の対応と紛争解決方法の調査のため、再度、海外研究を行う予定である。 4.これまでの研究成果を「研究報告書」にまとめ、26年度中に刊行したい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
24年度においては、大学の事情(人員減等)で多忙をきわめ、本研究のエフォートを高めることができず、その結果、予算もほとんど執行できなかった。これが主たる理由である。25年度はおおよそ予定通り使用できたが、24年度の未使用分が繰り延べされて残っている状況である。 当初から2回の海外調査を予定していたので、上記の未使用分をその費用に充当したい。加えて、26年度は最終年度であるので、「研究報告書」の刊行費用が必要である。
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